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5種類の味噌と2種類の麺? 『ラーメン登龍門』で優勝した「新感覚」味噌ラーメンとは?

山路力也フードジャーナリスト
火入れしない生味噌を5種類使った味噌ラーメンとは。

『ラーメン登龍門』優勝店が期間限定で出店中

『新横浜ラーメン博物館』に一年間限定で出店中の『博多文福』。
『新横浜ラーメン博物館』に一年間限定で出店中の『博多文福』。

 2024年、開業30周年を迎えた『新横浜ラーメン博物館』(神奈川県横浜市港北区新横浜2-14-21)は、全国各地の人気ラーメン店が集結する日本初のラーメンコンプレックス。その30周年を記念して、新たなラーメンやラーメン職人を発掘するラーメンコンテスト『ラーメン登龍門』が開催された。

8月から1年間の期間限定出店中。
8月から1年間の期間限定出店中。

 今回の『ラーメン登龍門』のテーマは「国産小麦の風味と旨味を生かした味噌ラーメン」。国内外から数多くのラーメン店やラーメン職人がエントリーしたこのコンテストで見事優勝を果たしたのは、福岡の味噌ラーメン専門店『博多文福』(福岡県春日市須玖北9-62)。この8月より1年間の期間限定で『新横浜ラーメン博物館』に出店している。

福岡県春日市に2022年12月オープンした『博多文福』。
福岡県春日市に2022年12月オープンした『博多文福』。

 豚骨ラーメンばかりの福岡に味噌ラーメンを根付かせたいと、2021年暮れに創業した『博多文福』。まだオープンして3年足らずの店だが、福岡には数少ない味噌ラーメン専門店として、地元の人たちやラーメンファンなど幅広い層から人気を集める店になっている。

音楽の道からラーメンの世界へ

『博多文福』店主の島津智明さん。
『博多文福』店主の島津智明さん。

 店主の島津智明さんは長年『博多一風堂』で経験を積んだベテラン職人。学生の時に『博多一風堂』へアルバイトとして入り、その後社員として店長やマネージャーを歴任。国内の店舗を次々と立ち上げた後に、アメリカニューヨーク進出に尽力。さらに韓国や台湾、香港、さらにはオーストラリア、シンガポール、イギリスと、7年半にわたり海外展開も任された人物だ。

 「高校を卒業してから音楽の専門学校に通って、ドラムを叩いていました。その時にアルバイトとして入ったのが『一風堂』だったんですが、そこで出会った大人たちが生き生きと働いていて、ものすごく格好良く見えたんですよね」(博多文福 店主 島津智明さん)

 音楽をやりながら『一風堂』でアルバイトをして2年が経った頃、社員として一緒に働かないかと誘われた。音楽も楽しいしラーメンも楽しい。人生で最初の大きな決断。悩んだ島津さんが出した結論は、ラーメンの世界に飛び込むことだった。

日本の食文化を自分のラーメンで表現したい

『博多一風堂』時代の島津さんは、国内外で数々の店舗を立ち上げてきた。
『博多一風堂』時代の島津さんは、国内外で数々の店舗を立ち上げてきた。

 「どっちを選んだら後悔しないだろうか、と真剣に考えました。『一風堂』で働いていて、とても充実感があったんです。ラーメンって一杯で人を笑顔に出来る食べ物じゃないですか。ドラムスティックを麺上げ棒に持ち替えようと思いました」(島津さん)

 音楽の世界からラーメンの世界へ飛び込んだ島津さん。どうせやるなら極めたい。格好良い大人になりたい。入社後に最年少で店長になり、マネージャーにもなった。国内の店舗を次々と立ち上げ、海外展開の陣頭指揮も執った。『一風堂』を大きく広げて、いつかは独立することが島津さんの夢だった。

 「長年海外の店舗立ち上げを経験させて貰って、いずれは海外で自分のラーメンを出したいと思うようになりました。自分の理念は何なのかを自問自答した結果、日本の食文化を自分のラーメンで表現したいと。日本ならではの食文化である『味噌』を使ったラーメンでまずは勝負しようと、独立を許して頂きました」(島津さん)

味噌本来の味わいを生かした「淡麗生味噌ラーメン」

『ラーメン登龍門』優勝作品の「淡麗生味噌ラーメン」。
『ラーメン登龍門』優勝作品の「淡麗生味噌ラーメン」。

 今回『ラーメン登龍門』で優勝した「淡麗生味噌ラーメン」は、味噌ソムリエの資格も持つ島津さんの経験と技術から生まれた一杯。スープは豚骨、鶏ガラの動物系の白濁スープに、昆布や煮干しなどの和出汁を合わせたダブルスープ。力強い旨味を持ちながらも油っぽさやしつこさは一切ないスープに仕上げた。

 味の核となる味噌ダレは福岡、長崎、信州、仙台、北海道と異なる産地の味噌5種類を独自にブレンド。味噌本来の風味や麹の味わいを損なわないように、一般的な味噌ラーメンの製法とは異なり、中華鍋などで火入れすることなくそのまま丼でスープと合わせる。スープの熱で徐々に味わいが変化していくのが特徴だ。

国産小麦を使った麺は2種類の形状のものを一緒に入れた「ミックス麺」。
国産小麦を使った麺は2種類の形状のものを一緒に入れた「ミックス麺」。

 麺は国産小麦の中でも、地産地消を考えて福岡県産「ミナミノチカラ」を100%使用。低加水麺が多い福岡では珍しい加水率35%の多加水麺を合わせた。さらに今回の『ラーメン登龍門』では、太平打ち麺と細縮れ麺の2種類の形状の麺をミックスして提供。口の中で踊るような食感の違いを楽しむことが出来る。

 具材は国産豚の肩ロースとモモ肉2種類のチャーシューと、福岡らしい具材のキクラゲ。さらに和出汁で炊いた太メンマに青ネギ。さらにガーリックオイルで揚げた高野豆腐をクルトンのような形状にして浮かべた。全てのバランスが計算された、今までにありそうでなかった味噌ラーメンが誕生した。

ラーメンは人と人を繋ぐもの

出店期間中は福岡と横浜を行き来するという『博多文福』店主の島津智明さん。
出店期間中は福岡と横浜を行き来するという『博多文福』店主の島津智明さん。

 「ラーメンは人と人を繋ぐものだと思うんですよ。自分がゼロから考えたラーメンで、お客様や仲間を笑顔に出来る喜びを日々感じています。味噌ラーメンにもいろいろありますが、僕が目指しているのは子供からお年寄りの方まで、誰もが毎日でも食べられるような味噌ラーメンです。

 味噌は日本特有の食文化じゃないですか。もっと味噌について学んで、味噌の素晴らしさを僕のラーメンを通じて、福岡や横浜の人はもちろん、いずれは海外の人にも伝えていきたい。それが僕のこれからのミッションです」

※写真は筆者によるものです。

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フードジャーナリスト

フードジャーナリスト/ラーメン評論家/かき氷評論家 著書『トーキョーノスタルジックラーメン』『ラーメンマップ千葉』他/連載『シティ情報Fukuoka』/テレビ『郷愁の街角ラーメン』(BS-TBS)『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)『ABEMA Prime』(ABEMA TV)他/オンラインサロン『山路力也の飲食店戦略ゼミ』(DMM.com)/音声メディア『美味しいラジオ』(Voicy)/ウェブ『トーキョーラーメン会議』『千葉拉麺通信』『福岡ラーメン通信』他/飲食店プロデュース・コンサルティング/「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら様々な媒体で活動中。

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