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「金をよこせ」vs「金はやらん」という攻防戦の末、辿り着いた「無理に結婚しなくていいや」現象

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:イメージマート)

結婚のお金のインフレ

結婚に関する若い独身男女を取り巻く環境は、大きく変わってきている。特に、「結婚とお金」にまつわる話は2015年あたりを契機に潮目が変わった。その話は当連載で何度も紹介している。わかりやすいのが、未婚の若者たちが思う「結婚に必要な年収」が爆上がりインフレを起こしてしまっていることだ。

参照→20代の若者が考える「年収いくらなら結婚できるか?子ども産めるか?」その意識と現実との大きな乖離

実態として、かつて若者の結婚のボリューム層だった年収中間層の婚姻数だけが減少している。婚姻数は減っているのに、結婚した夫婦の平均年収は2015年以降上昇しているが、それは年収の高い層だけが結婚できていることの何よりの証拠である。

参照→東京23区で子を出生した世帯の半分以上が年収1000万円「子を産める・産めない経済格差」が進行

もちろん、恋愛と結婚は別物だし、結婚は生活である以上、経済力という視点は外せない。しかし、かつてはそれは「結婚してから考えればよかった」レベルだったものが、今や「結婚前にクリアしなければいけない必須のハードル」と化してしまっている。

結婚のメリット男女差

出生動向基本調査には、18-34歳の独身男女が考える「結婚のメリット」と「独身のメリット」の経年推移がある。1980年代からずっと追い続けているため、時代とともに何が変化していっているかがわかる。

調査原票は男女それぞれの割合だけを並べているが、男女の差分を比較することで、よりどこが婚姻減のマッチング不全の要因なのかが明らかになる。右に伸びているのが「男が多い」、左に伸びているのが「女が多い」ということで、左右どちらかに偏っているほど、そこに男女の乖離があるということになる。

まず、「結婚のメリット」についてだが、1987年から2021年にかけて、女性は一貫して「経済的に余裕がもてる」が伸びている。

2015年から2021年にかけてやや減少しているように見えるが、これは女性がそこのメリットを感じなくなったのではなく、むしろ男性の割合が増えたことによって、差分が減っただけである。男性もまた、共稼ぎのパートナーを得られるなら、結婚にメリットを感じる率が高くなってきているのだ。

一方で、男性側の「結婚のメリット」は、かつては「社会的信用」や「生活上の便利さ」があったが、徐々に失われ、対照的に急上昇しているのが、「精神的な安らぎの場」としての結婚である。逆にいえば、男性は「精神的に安らげない結婚ならしなくていい」ということでもある。

もはや結婚は愛情<お金

特に、「結婚は金じゃない。愛だ」なんてことを相変わらず言い続けている中年以上の世代に知っておいてほしいのは、「結婚のメリット」に「現在愛情を感じている人と一緒に暮らせる」というものが男女ともに年々減少していき、特に女性の減少幅が大きい。

かつては男性より女性の方が置かったのに、ついに2021年には男女逆転している。

男性は、結婚に「精神的安らぎ」や「愛情」を重視しているのに対し、女性は、もはや「結婚はお金」一択状態となっている。

独身のメリット男女差

続いて「独身であることのメリット」を見てみよう。

ここで興味深いのは、女性が「結婚のメリット」において「経済的に余裕がもてる」をあげているのと正反対に、男性が多いのは「(独身であれば)金銭的に裕福」を「独身のメリット」としてあげている点だ。

結婚すると自由にお金を使うことがいきなくなると未婚男性は怖れている。世のお父さんの小遣いい月3万円などと言われたりするのを見聞きしているのだろう。

つまり、結婚とは、女性は「経済的メリット」のためにするものであり、男性は「経済的メリットが損なわれるから独身のままでいたい」ということになり、結婚に対する意識が「お金」という問題で相反するわけである。

女は「金をよこせ」と言い、男は「金はやらん」と言う。双方譲れないポイント(お金)がここで真っ向からぶつかっているのだから、こんな人たち同士がマッチングされるわけがない。

変わらぬ女性の上方婚の実情

もちろん、すべての女性が結婚後夫の経済力に完全依存しようとしているわけではない。しかし、たとえ結婚した時点では共にフルタイムで働いていたとしても、育児の時期は離職する可能性も高い。実際、0歳児を持つ夫婦の約6割は一馬力夫婦である。

そうなる可能性がある以上、女性は「経済力上方婚志向」にならざるを得ない。

少なくとも一定以上の稼ぎのある相手との結婚でなければ不安になるし、加えて、経済的にある程度の稼ぎがある女性ほど強固に「そもそも自分より稼げていない男と一緒になる意味がない」と考えるようになる。

提供:イメージマート

「夫婦共稼ぎでなんとかすればいい」というのは全く的外れである。

皮肉な話になるのだが、女性の稼ぎが増えれば増えるほど、その条件を満たす未婚男性の数は減ってしまい、「婚活してもロクな稼ぎのある男がいない」ということになる。当然である。この30年間若い男性の所得は全く増えていない。

そうやって、婚活に無駄な時間を費やした挙句、女性としても「結婚に経済的メリットがない」と達観するようになる

かくして、無駄に「結婚に必要な年収」という虚構の金額だけがインフレを起こし、それをクリアした一部の大企業社員だけが結婚できるようになり、中間層はいつまでも相手がいないと言い続けることになる。

いずれ男女とも「無理に結婚するよりも、独身のままでいた方が経済的メリットがある」とますます婚姻減に拍車がかかってしまうかもしれない。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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