「平均では結婚できなくなった」平均年収があがっても婚姻数が激減する要因
平均年収とは?
「高望みはしません。平均でいいです」
婚活の現場では、女性から男性への希望に際してこんな言葉が交わされているらしいが、この平均という言葉も曲者である。
2022年の民間給与実態調査によれば、日本人男性の平均年収は563万円である。しかし、これは既婚者も50代も含めての全体の平均であって、結婚相手として望む25-34歳くらいの男性の平均ではない。50代のおじさんを相手に望んでいるのなら話は別だが。
ちなみに、平均初婚年齢なる統計も誤解を招いている。
2022年人口動態調査によれば、男性31.1歳、女性29.7歳なので、結婚は30歳になってからでも遅くはないと思うかもしれないが、初婚中央値は男性29.6歳、女性28.6歳である。一部、40代以上で初婚する人がいるために平均値があがっているのであり、男女とも半数以上は20代のうちに初婚をしている。結婚に至る交際期間を考慮するならば「30歳から本気出す」では遅いのである。
25-34歳未婚の平均年収推移
平均年収の話に戻るが、男性全体の平均年収は563万円としても、実際に25-34歳あたりの結婚相手の対象となる未婚の年収はどうだろうか。
就業構造基本調査における2007-2022年にかけての未婚男女の平均年収の推移が以下である。
男女ともにいずれの年齢帯も2007-2012年にかけては、リーマンショックの影響か、平均年収が下がっているが、その後は増えて、2022年はこの15年間でもっとも高くなっている。
年収があがることは悪いことではない。が、本質的には額面年収より手取りがどうなっているか、および、物価上昇を勘案した実質可処分所得がどうなっているかが重要なのであるが、本記事では一旦それを考えず、平均年収で考える。
「金がないから結婚できない」という話もあるが、2012年と比較して、25-29歳では男性が1.18倍、女性が1.19倍、30-34歳では男性が1.14倍、女性が1.16倍と増えているわけで、さぞ婚姻数も増えているかと思いきや、同2012年対比で初婚数は、男性25-29歳で37%減、同30-34歳で44%減である。であれば、婚姻減に年収増は寄与しないのではないかと考えがちだがそうではない。
平均年収未婚率を計算
平均年収の絶対額だけを見てしまうと実態を見誤る。
各年の平均年収額でどれくらい未婚率があったかを比較してみることにする。これにより、平均年収があればどれくらいが結婚できて、どれくらいが未婚のままだったのかがわかる。
結果は以下である。
男女で真逆の傾向となっている。
まず、男性は、平均年収があがっているにもかかわらず、2022年の未婚率はこの15年間で最大となっている。2012年対比で25-29歳は6.4%ポイント、30-34歳は7.8%ポイントも未婚率が上昇している。つまり、平均年収があがっても、その平均年収では結婚できなくなっているという「結婚年収のインフレ」が起きているのだ。
参照→20代の若者が考える「年収いくらなら結婚できるか?子ども産めるか?」その意識と現実との大きな乖離
一方、女性は平均年収の上昇とともに2022年の未婚率は25-29歳も30-34歳もともに平均年収での未婚率は低下、つまり結婚率があがっている。
つまり、男性の場合は、かつてはその年齢の平均年収があれば結婚できたものが、今では平均年収では結婚できなくなり、一部の年収上位層男性だけが結婚していくのだが、その相手となるのが平均年収帯の女性に集中しているということになる。
結果、平均年収以上の未婚男性の数には限りがあるため、「お金を稼げていない男」は結婚対象外とされ、34歳までの全体の初婚数を激減させているのである。
一方、これは女性側にとっても「自分の年収より少し稼いでいるくらいの年収の男性(本人的には高望みではないレベル)でいい」と譲歩して婚活しているつもりが、いつまでたってもそんな男性が目の前に表れることなく、そのうちに自分の年収がどんどんあがることでさらに相手のハードルをあげていき、気が付いたら35歳を超えていたということに陥る。
平均年収上昇も婚姻出生激減
「平均年収では結婚できない問題」は大都市で顕著で、こちらの過去記事(日本の出生数の半分以上を占める8大都市とその他の地方との大きな格差が及ぼす次世代への禍根)でも紹介したように「2022年までの6年以内に出生をした世帯年収分布」を見ると、地方は比較的正規分布に近いが、東京圏などの8大都市は山がふたつの分布となっており、最頻値のひとつは世帯年収1000-1250万世帯である。
大都市では、平均年収以上の男女が結婚し、パワーカップル化する一方で、少なくとも10年前までは平均年収で結婚できていた男性のうち6-8%が未婚のままとなっている。
これは、全体的にも、これだけ児童のいる世帯数が激減している中で、世帯年収900万円以上はほとんどその数が減っておらず、減っているのは中間層年収帯だけという事実とも符合する。
児童のいる世帯年収は減っても、児童のいる世帯の平均年収だけはあがっているというのはそういうことである。
「平均では結婚できない」ということは、もはや結婚も出産も選ばれし上級国民だけに許される貴族の贅沢と化してしまった。
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