駅舎内に喫茶店のある線内唯一の交換可能駅 南阿蘇鉄道高森線 中松駅(熊本県阿蘇郡南阿蘇村)
豊肥本線の立野駅を起点に高森町の玄関口・高森駅とを結ぶ南阿蘇鉄道高森線。全長17.7キロの全10駅のうち、列車の行き違いが可能なのは立野から5駅目の中松(なかまつ)駅だけだ。
ホームは相対式2面2線で、13時2分、17時55分、18時58分、19時49分、21時1分の1日5回、上下列車の行き違いが行われる。交換設備は南阿蘇鉄道への転換後の平成元(1989)年8月1日に設置されたものだ。高森線の本数は国鉄時代にはわずか6往復しかなかったものの、昭和61(1986)年4月1日の南阿蘇鉄道への転換後は大幅な増発を行い、最も多い時は17往復もあったそうだ。
駅舎内には喫茶店「ひみつ基地ゴン」が入居しており、休日のみ営業している。あいにく平日に訪れた筆者は食べることができなかったが、猪の燻製入りカレーが名物なんだそう。かつては「南阿蘇一心庵」という蕎麦店が入居していた。
駅舎は昭和62(1987)年4月1日より使用開始されたもので、建築家・桂英昭氏の設計による斬新なデザインが目を惹く。桂氏は熊本を中心に活躍しており、湯前まんが美術館や荒瀬ダムボートハウスも手掛けている。
駅舎内の待合室は熊本市出身の漫画家・尾田栄一郎さんの人気漫画「ONE PIECE」にちなんだ装飾がなされている。熊本地震の被災地支援を目的としたプロジェクトの一環で、令和5(2023)年7月22日からはコラボ列車「サニー号トレイン」も運行されて、国内外から訪れた作品のファンに好評だ。
駅の歴史にも触れておこう。中松駅は昭和3(1928)年2月12日、立野~高森間の開業時に設置された駅の一つだ。かつては長陽駅と似た木造駅舎があったものの、昭和46(1971)年2月20日に無人化され、南阿蘇鉄道への転換以前にプレハブの仮駅舎となった。南阿蘇鉄道への転換後は線内唯一の交換駅として重要な役目をはたしてきたが、平成28(2016)年4月14日の熊本地震で被害を受け一部復旧した7月31日から全線再開までの7年間は仮の終着駅としての役目も果たした。
国鉄時代から使われている高森方面1番ホームには戦争の痕跡も残っている。昭和20(1945)年5月13日午前7時半ごろ、中松駅に停車中の列車が米軍機からの機銃掃射を受け、32歳の母親と1歳の息子の命が奪われるという悲劇が起きた。その時の弾痕は80年近く経った今も残され、説明板も立てられて悲しい歴史を今に伝えている。
2番ホームからは線内の他の駅と同様、阿蘇外輪山の雄大な風景を望むことができる。外輪山の向こうは上益城郡山都町で、手前の山麓はかつての久木野村だ。
駅がある中松地区はかつての阿蘇郡中松村で、明治の町村制で阿蘇郡白水村となり、平成17(2005)年2月13日に長陽村・久木野村と合併して南阿蘇村となった。国道から離れているために駅前は静かだが、飲食店もあり、南阿蘇村内では主要な集落の一つであるようだ。
戦争の悲しい記憶を秘め、震災からの復興期に終着駅としての役目を果たした中松駅。できればひみつ基地ゴンが営業する休日に訪れてみたいものだ。
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