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ふれあい温泉が消えた駅舎とカラクリおみくじ 南阿蘇鉄道高森線 阿蘇下田城駅(熊本県阿蘇郡南阿蘇村)

清水要鉄道・旅行ライター
阿蘇下田城駅

平成28(2016)年4月の熊本地震で大きな被害を受けて一部区間が長期運休となり、昨年7月15日に全線が復旧した南阿蘇鉄道高森線。復旧にあたっては新型車両導入や肥後大津乗り入れなど明るいニュースが目立ったが、その陰で一つの駅がひっそりと改称された。「阿蘇下田城ふれあい温泉」駅改め「阿蘇下田城」駅だ。

駅舎
駅舎

阿蘇下田城駅は昭和3(1928)年2月12日、宮地線支線立野~高森間の開業に合わせて「阿蘇下田」として開業。既に「下田」駅が青森県上北郡下田村(現:おいらせ町)の東北本線(現:青い森鉄道)にあったことから、郡名の「阿蘇」が冠された。阿蘇郡長陽村の東部に位置し、白川対岸の久木野村への玄関口でもあったようだ。

駅舎内
駅舎内

阿蘇下田駅は昭和46(1971)年2月20日に無人化。開業時に建てられた木造駅舎は昭和61(1986)年4月1日の南阿蘇鉄道転換後もそのまま使用された。転機が訪れたのは平成5(1993)年8月1日のこと。観光客誘致を目的として温泉施設を併設した駅舎に改築されたのだ。駅名も同時に「阿蘇下田城ふれあい温泉」に改称されている。二階建ての駅舎は戦国時代に当地にあった下田城にちなんだ城風の意匠で、二階に展望室が設けられていた。下田城は阿蘇氏の重臣・下田惟政によって築かれた城で、天正12(1584)年に島津氏によって攻め落とされて落城している。

ホーム
ホーム

阿蘇下田城ふれあい温泉は観光客だけでなく地元住民にも親しまれ、お年寄りたちの集いの場所にもなっていたそうだが、熊本地震で被災して営業ができなくなり、復旧を断念して閉館してしまった。そのため、駅名からも「ふれあい温泉」を取っ払い、「阿蘇下田城」に再改称されることに。元の「阿蘇下田」に戻さなかったのは、史跡・下田城跡をアピールしたいという思いがあるからだろう。ただし、「ふれあい温泉」があった頃から、長すぎる駅名を省略して「阿蘇下田」と表記されることが多かった。

歓迎ロボット
歓迎ロボット

ふれあい温泉が無くなって寂しくなってしまった阿蘇下田城駅だが、その代わりに新たな名物がお目見えしている。その一つが列車の到着時に音楽が流れて動く歓迎ロボットだ。駅の近くに「阿蘇カラクリ研究所」なるものがあり、カラクリ作家が駅を盛り上げようと「駅長」として設置したものなのだそうだ。「ナニコレ珍百景」などのテレビ番組でも取り上げられている。定期的に進化を続けているそうなので、訪れるたびに新たな発見があることだろう。

MT-3001と外輪山
MT-3001と外輪山

線内の他の駅同様、阿蘇下田城駅からの景観もなかなか美しい。立野方面に聳えるのは俵山をはじめとした外輪山だ。写っている車両は2月12日で引退したMT-3001で、自動放送は改称前の「阿蘇下田城ふれあい温泉」のままだった。

駅舎とおみくじ小屋
駅舎とおみくじ小屋

駅舎の隣には小さなおみくじ小屋がある。復旧記念の幟に交じって屋根の上にロボットが載っており、見るからに怪しい雰囲気だ。

おみくじ小屋
おみくじ小屋

内部は外観以上に怪しい。夜に見たら怖そうなマネキンの生首やら色々なものが並んでいて、猫の鳴き声なども聞こえてくる。おみくじマシーンはいずれも100円ほどでリーズナブルだが、案の定赤字らしい。試しに一つ試してみたら、音楽が流れて生首が回り、「大吉」が出た。動画を撮れば話のタネになること間違いなしのおみくじ、阿蘇下田城駅を訪れた際にはぜひ引いてみてほしい。

縁結びの石
縁結びの石

おみくじ小屋の横には縁結びの石と男性器を模した石灯篭がある。元は阿蘇観光ホテルにあったもので、ホテルの閉館によって当地に移された。阿蘇観光ホテルは昭和天皇も泊ったという由緒あるホテルであったが、経営不振により平成11(1999)年12月に閉館。現在は阿蘇山中に赤い三角屋根の廃墟だけが残っている。

ふれあい温泉は無くなっても見どころがたくさんある阿蘇下田城駅に限らず巡りがいのある駅だらけの南阿蘇鉄道高森線。旅の目的地にいかがだろうか。

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鉄道・旅行ライター

駅に降りることが好きな「降り鉄」で、全駅訪問目指して全国の駅を巡る日々。

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