2月12日で引退!大きな窓から雄大な風景を眺めることができる名車 南阿蘇鉄道MT‐3001
去る1月29日、南阿蘇鉄道で長年にわたって活躍してきた2両の車両(MT‐2003A、MT-3001)が2月12日のラストラインイベントをもって引退することが発表された。新型車両MT-4003とMT-4004の導入に伴う置き換えで、これにより同社で活躍する気動車は「サニー号」のMT-3010を除いてMT-4000形に統一されることになる。
引退の報を聞き、筆者も2月6日と7日に南阿蘇鉄道を訪問。両日ともMT-2003Aは稼働していなかったが、MT-3001は運用に入っていた。引退が迫る車両ではあるものの、運用が公開されておらず、平日ということもあってお名残り乗車や沿線での撮影者は少なかった。
MT-3001は観光シーズンの多客時および団体輸送用として平成5(1993)年12月に新潟鐵工所で製造された。秋田内陸縦貫鉄道AN-8900形や高千穂鉄道TR-300形によく似た非貫通の流線形で、大きな一枚窓が特徴だ。先述の二形式はいずれも二両編成での運行を前提とした片運転台車(AN8905を除く)だが、MT-3001は単行運転も可能な両運転台車となっている。ただし、非貫通ゆえに連結運転時も通り抜けはできない。当車の導入によって、予備車だったMT-2105(元国鉄キハ52 35)が廃車となっている。
MT-3001の特徴である一枚窓からは、遮るものもない南阿蘇の雄大な風景を眺めることもできる。構造上、乗客が運転席の隣まで行くことも可能で、前面展望を楽しむのにこれほど向いている車両もないだろう。立野ダムを望む立野橋梁を渡る際などには、サービス精神旺盛な運転士さんが、乗客に向けて見どころを案内して、景色を見やすいように徐行してくれる列車もある。
南阿蘇鉄道高森線の車窓はわずか30分ほどながら多様で、トンネルと橋梁が続いたかと思えば、白川沿いの渓谷風景、阿蘇中岳と外輪山に挟まれた穏やかな田園風景、遠くに望む草千里や根子岳の雄姿など、いくら眺めていても飽きない。日本でも屈指の車窓が面白い路線と言えよう。そんな車窓を大きな一枚窓から楽しめるのもあとわずかだ。
高森湧水トンネル公園を右手にチラッと眺めてカーブを曲がり、進路を東から北へ変えれば、早くも終点の高森駅だ。昨年の全線運転再開に先駆けて建て替えられた駅舎とホームはまだまだ真新しい。駅の背後に見えるのは阿蘇中岳だ。
高森駅構内には高森線で活躍する車両が集っている。左の白い車両はMT-4002、新型車両MT-4000形のうちの一両だ。MT-4000形は熊本地震に伴う不通区間が運転再開するのに先駆けて昨年4月14日から2両(MT-4001、MT-4002)が営業運転を開始した。新潟トランシス製で、令和4(2022)年11月下旬に導入されたのだが、高森駅に運び込まれるまで情報が一切出なかったこともあって、鉄道ファンを大いに驚かせた。JR豊肥本線肥後大津までの乗り入れに対応しており、朝に二往復ある乗り入れ運用には必ず使用される。今年1月24日には塗色の違うMT-4003とMT-4004の二両が高森入りしており、MT-2003AとMT-3001と入れ替わりに営業運転を開始する予定だ。
MT-3001の塗色は当初、シルバーホワイトに緑色(立野方)・紫色(高森方)の帯が入った塗り分けで、阿蘇中岳が水に映える様子をイメージしていた。愛称は「おおるりしじみ」だったが、塗色変更と合わせて使われなくなったようだ。平成14(2002)年にシルバーグレーとイエローの二色に塗り替えられている。旧塗装で走ったのが9年に対して、今の姿になってから20年以上ですっかり南阿蘇の風景に馴染んでいる。多くの人の心に「黄色の車両」として記憶されることだろう。
合わせて引退するMT-2003Aにも触れておこう。昭和61(1986)年4月1日の国鉄から南阿蘇鉄道への転換に合わせて3両が製造されたMT-2000形のうちの一両で、平成12(2000)年7月の走行装置更新によって末尾に「A」が付いた。新潟鐵工所が製造した「NDC」と呼ばれる軽快気動車としては初期のもので、非貫通の一枚窓と大きな丸いライトがバスを思わせる外観だった。愛称はMT-2001「しらかわ」、MT-2002「りんどう」、MT-2003「はなしのぶ」で、平成14(2002)年3月31日に塗装が変更されている。長年にわたって主力として活躍したが、MT-4001とMT-4002の導入により、MT-2001AとMT-2002Aが昨年2月に廃車されている。
30年以上に渡って高森線を支え続けた2両の気動車は2月11日、2月12日のラストランイベントを最後にその役目を終える。近くの方はその最後の活躍を目に焼き付けるために南阿蘇まで足を運んでみてはいかがだろうか。
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