スイッチバックと立野ダムがある分岐駅 豊肥本線・南阿蘇鉄道高森線 立野駅(熊本県阿蘇郡南阿蘇村)
熊本と大分を結ぶ豊肥本線は肥後大津を出ると非電化になり、本数もぐっと減ってローカル線らしい趣になる。車窓も一気に山深くなり、高度を上げながら二駅走るとそこが南阿蘇鉄道高森線の分岐駅「立野(たての)」だ。
立野駅は大正5(1916)年11月11日、肥後大津から伸びてきた宮地軽便線の終点として開業した。宮地軽便線は大正7(1918)年1月25日に宮地まで延伸し、大正11(1922)年9月2日に宮地線に改称している。昭和3(1928)年2月12日には当駅で分岐して高森に至る宮地線支線が開業したが、同年12月2日に宮地~玉来間が延伸して宮地線と犬飼線が繋がると、二路線が統合されて豊肥本線となり、宮地線支線は分離されて高森線となった。高森線は昭和61(1986)年4月1日に第三セクターの南阿蘇鉄道に転換されている。
平成28(2016)年4月14日に発生した熊本地震では豊肥本線・南阿蘇鉄道ともに甚大な被害を受け、長期運休を余儀なくされた。豊肥本線は令和2(2020)年8月8日、南阿蘇鉄道は令和5(2023)年7月15日に運行を再開している。駅舎は南阿蘇鉄道の運行再開を前にした令和5(2023)年3月31日に完成。県産のスギをふんだんに使った二階建てで、延床面積は630平方メートルと無人駅としてはかなり大きなものになった。
駅舎は南阿蘇鉄道ホームに覆いかぶさるように設置され、一段高い駅前広場に面している。震災以前はJRと南鉄で駅舎が分かれており、南鉄ホーム入口手前にJR、ホーム上に南鉄の小さな駅舎がそれぞれ建てられていた。昭和61(1986)年の南鉄開業まで使われていたのは開業時に建てられた初代駅舎で、3代目の現駅舎とほぼ同じ位置にあったと思われる。
豊肥本線のホームは駅舎や南鉄ホームより少し奥まったところにあり、島式1面2線。手前の1番線が肥後大津・熊本方面、奥の2番線が阿蘇・宮地方面だ。豊肥本線は高低差を克服するために当駅でスイッチバックしており、左奥の肥後大津方面から走ってきて、方向転換して引き返し、引き込み線に入ってまた方向転換をして次の赤水駅へと向かっている。
南鉄ホームは単式1面1線の0番線で、駅舎から階段またはエレベーターで降りた直下にある。ホームの上屋なども駅舎同様に木の質感にあふれた造りだ。高森線内だけを走る列車は0番線で単純に折り返すが、一日二往復の肥後大津までのJR乗り入れ列車はJRホームを使用する。
駅舎とJRホームの間には構内踏切が設置されている。通路と交差する線路は南鉄からJR上り線(1番線)まで繋がるもので、列車が通るのは一日二回、高森発肥後大津行きの到着時だけだ。ただし、機械の都合でJRの肥後大津行き到着時にも鳴ってしまい、列車が踏切を通過しないのにその前で待たされてしまうということもある。
JRホームの隣には南鉄0番線に繋がる線路が3本ある。そのうち1本がJRと南鉄をつなぐ渡り線で、残り2本は列車の留置用と思われる。今でこそほとんど使われていない線路だが、国鉄時代は豊肥本線と高森線の間での列車の入れ替えや増解結などに使われていたのだろう。
二つの路線の分岐駅らしく広い構内を持つ立野駅だが、駅の規模の割に駅周辺に建物は少なく、駅前には和菓子店が一軒あるのみだ。駅がある立野地区はかつて菊池郡立野村で、明治の町村制では菊池郡瀬田村となった。昭和31(1956)年8月1日に瀬田村が大津町などと合併した際には立野地区だけが分離されて、阿蘇郡長陽村に編入されている。阿蘇に食い込んだ菊池郡最東端の村だったのが、阿蘇との結びつきが強かったために阿蘇に編入されたというわけだ。長陽村は平成17(2005)年2月13日に久木野村・白水村と合併して南阿蘇村となって現在に至る。
駅から東に5分ほど歩くと立野ダム展望台があり、立野ダムを背景に立野橋梁を渡る南阿蘇鉄道を撮影することができる。立野ダムは治水を目的とした重力式コンクリートダムで、昭和58(1983)年度に事業着手、平成30(2018)年8月に着工、昨年5月21日に工事が完了した。11月1日より試験湛水が始まり、今月3日夜には満水状態を迎えた。5日午前10時より放水が始まっているため、現在は水位が少しずつ下がっている状態だ。列車の本数が少ないためにダムと列車の組み合わせを撮る難易度は高いが、駅から容易に歩いて行ける近さなので、乗り換え待ちの時間を利用して展望台まで行ってみるのもいいだろう。
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