SMILE-UP.とSTARTOが反故にしたファンクラブのゆくえ──民放4社は見て見ぬふりを継続
![](https://newsatcl-pctr.c.yimg.jp/t/iwiz-yn/rpr/soichiromatsutani/01728777/title-1712775757558.jpeg?exp=10800)
STARTOの本格始動
昨日4月10日、SMILE-UP.(旧ジャニーズ事務所)に所属するタレントの受け入れ先として誕生したSTARTO ENTERTAINMENTが、本格的に業務を開始した。同日夜には東京ドームでお披露目コンサート「WE ARE! Let’s get the party STARTO!!」も開催された。
しかし、その際に出されたリリースの内容には大きな問題が確認された。それは、ファンクラブの所在についてだ。
まず大前提として、STARTOはSMILE-UP.と資本関係を有さない別会社として立ち上げられた。代表取締役CEOには、ソニー出身で以前からジャニーズ事務所に批判的な言動を続けていた福田淳氏が就任した。一方、SMILE-UP.は昨年10月2日の記者会見において、補償会社としてのみ存続し、将来的に廃業すると説明した。
こうしたなかで注目されていたのが、同社が保有する事業や資産だ。なかでも1000万人以上が会員となっているファンクラブ「ファミリークラブ」や、エンタテインメント企業の基幹ともいえる知的財産のゆくえは注目されていた。
だが昨日明らかとなったのは、ファンクラブ事業のありかたが当初の声明と異なっていることだ。以下、順を追って解説する。
反故にされた宣言
昨年12月8日、STARTOは発足と同時に5項目からなるリリースを出した。そのなかではファンクラブについて以下のように記されていた。
5)ファンクラブの体制について
SU社所属タレントに係る各ファンクラブは、現状SU社が運営していますが、当社との間でマネジメント/エージェント契約が成立した各タレントまたはグループにおけるファンクラブにつきましては、SU社から独立した組織として運営するために現在準備を進めております。(略)
●STARTO ENTERTAINMENT「新会社の発足について」2023年12月8日(太字部分は引用者による、以下同)
つまり発足当初は、ファンクラブ「ファミリークラブ」はSMILE-UP.から切り離して運営することが前提とされていた。
だが、昨日4月10日に発表されたリリースには、以下の一文がある。
4)ファンクラブについて
当社は、「ファミリークラブ」運営会社との間で、当社所属のタレント・ジュニアに関するライセンス契約を締結しました。なお、ファミリークラブが取得・保有した会員の皆さまの個人情報については、当社による取得・閲覧等は一切行っておらず、今後もその予定はありません。
●STARTO ENTERTAINMENT「株式会社STARTO ENTERTAINMENT 始動します」2024年4月10日
「SU社から独立した組織」で運営予定のファンクラブ事業は、「『ファミリークラブ』運営会社」が担当することとなった。
では、この「『ファミリークラブ』運営会社」とはどこなのか?──という話になる。そこで「ファミリークラブ」のオフィシャルサイトで「会員規約」を確認すると、以下のようにある。
第1条(目的)
ファミリークラブ(略)は、アーティスト(略)及びジュニアを応援する会員と株式会社SMILE-UP.(略)によって構成され、会員がアーティスト及びジュニアを応援することを目的とします。当社は、ファミリークラブの事務局として、アーティスト及びジュニアのファンクラブを運営します。
●ファミリークラブ「会員規約」2024年4月11日確認
このことから、ファンクラブは現在もSMILE-UP.が運営し続けていることが明らかだ。それは当初予定されていた「SU社から独立した組織」ではない。
つまり、当初の宣言は反故にされている。
![2023年10月2日、ジャニーズ事務所の経営分離を発表するSMILE-UP.東山紀之社長など。](https://newsatcl-pctr.c.yimg.jp/t/iwiz-yn/rpr/soichiromatsutani/01728777/image-1712776168900.jpeg?fill=1&fc=fff&exp=10800)
経営分離をしない欺瞞
このとき問題はふたつある。
ひとつが、こうした事実についていっさい説明することなく、昨日STARTOが本格始動したことだ。
もうひとつは、補償会社に専念するはずのSMILE-UP.もいっさい説明することなく、ファンクラブ事業を継続していることだ。
筆者は早い段階からSMILE-UP.の事業・資産のゆくえについて注視してきたが、結局半年近く経ってもその状況に大きな変化は見られない。ファンクラブをはじめ、楽曲原盤権や映画著作権などの知的財産、グループ名などの商標、そして不動産と、SMILE-UP.は多くの事業・資産をいまも保有している(「STARTOはSMILE-UP.のダミー会社か?」2024年4月9日)。
SMILE-UP.が補償会社に特化するならば、これらをどう処理するのかが課題だった。が、結局は現状維持のままだ。これでは、STARTOはマネジメント/エージェント業務を担当するだけで、実質的にSMILE-UP.の隠れ蓑になっているだけだ。経営分離の実態とはかけ離れている。
そこにはやはり大きな欺瞞があると言わざるをえない。
史上最悪の性犯罪を続けてきたSMILE-UP.(旧ジャニーズ事務所)が、その過程で築いた資産を保有し、当初の宣言を反故にして今後も売上を維持しようとしている──これが欺瞞でなければなんなのだろうか。
メディアとの対話もせず
現実的に、SMILE-UP.が保有する事業・資産の移管には大きなハードルが存在する。ファンクラブは解散して新たに創設することでクリアできたが、結局それもしなかった。知的財産については、STARTOがそれを譲受する余力(税金の支払い能力)はない。
いまSMILE-UP.に求められるのは、やはりしっかりと説明をすること以外にない。現実的に課題解決が難しいのであれば、そのうえでステークホルダーや報道機関とコミュニケーションをしてソリューションを導き出せばいい。
しかし、現実的にSMILE-UP.とコミュニケーションをするにはほど遠い。昨日、SMILE-UP.は以下のような声明を発表した。
9 ステークホルダーとの対話等のエンゲージメント
弊社は、メディアの皆様やクライアント企業様と面談や電子メールでやり取りをさせていただくなどして、弊社の再発防止策の取組状況や被害者救済の取組状況を説明し、ご意見やご要望事項を賜るなど、継続して対話を行っております。今後もこのような対話は継続して実施いたします。
●SMILE-UP.「再発防止策の実施状況について」2024年4月10日
しかし、筆者(同前)や朝日新聞の質問にはいっさい回答をしない(朝日新聞デジタル2024年4月10日)。対話をしないにもかかわらず、「対話を行っております」と言う──表現は悪いが、これでは単なるウソつきだ。
![2024年4月10日、STARTOのコンサートが行われた東京ドーム(筆者撮影)。](https://newsatcl-pctr.c.yimg.jp/t/iwiz-yn/rpr/soichiromatsutani/01728777/image-1712776427330.jpeg?fill=1&fc=fff&exp=10800)
テレビ局の見て見ぬふり
同時に、こうしたSMILE-UP.の姿勢とともに問題なのは、やはり「テレビ局の沈黙」だ。現状、大手報道機関でファンクラブや知財のゆくえについて注視しているのは朝日新聞(同前)くらいだ。STARTOとSMILE-UP.の大手取引先である民放4社は、そのことに触れようとすらしない。
テレビ局は、エンタテインメント企業である旧ジャニーズ事務所の根幹がファンクラブや知的財産(IP)であることを知っている。なぜなら、放送事業の終焉が近づくなかで、現在のテレビ局は知財の生産と運用に注力しているからだ。たとえばテレビ朝日には「IP推進部」があり、日本テレビにも「IPビジネス部」があるように(ともに同社の組織図から確認可能)。テレビ局はIPが極めて重要な資産であることを熟知している。知らないわけがない。
しかし、昨夜のニュースでSMILE-UP.のファンクラブや知財の問題を指摘したテレビ局はない。昨日はBBCのモビーン・アザー記者などが記者会見を行い、嵐が5人で新会社を設立したことも発表した。だが、たとえばテレビ朝日の『報道ステーション』はそれらを取り上げても、STARTOとSMILE-UP.が当初の声明を反故にしてファンクラブ事業を保持し続けることには決して言及しない。
テレビ局にとってのSTARTOとSMILE-UP.は、報道機関として注視する対象であるのと同時に、数字(視聴率や映画興行収入)が見込めるステークホルダー(利害関係者)でもある。よって、この問題を報道機関として追及しないことは、ステークホルダーとしての共犯関係を重視したと認識できるだろう。
さらに、先日BBCの報道で明らかになったように、SMILE-UP.にはジャニー喜多川氏以外にも性加害をおこなっていたふたりの社員がいたことが判明している。モビーン・アザー記者は記者会見で「日本国内にいるジャーナリストに追及を続けてほしい」と繰り返し訴えた(『ハフポスト 日本版』2024年04月10日)。
もちろん、もはやテレビ局に報道機関としての矜持を期待するのは無理なのかもしれない。だがそうやってやり過ごしても、いまはインターネットメディアなど、従来とは異なるルートで報道することもできる時代だ。
この問題のドキュメンタリー作品が、将来的に外資の動画配信サイトで製作・公開されるのは確実で、そしてそこでは「メディアの沈黙」が極めて憂慮すべき問題として取り上げられるだろう。
いまのテレビ局はそうした奈落に向かって突き進んでいるように見える──。
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