ジャニーズ忖度がなくなる日──JO1、INI、BE:FIRST、Da-iCEが『Mステ』出演する未来
“忖度”が導く「干され」
TBSの『中居正広の金曜日のスマイルたちへ』──通称『金スマ』は、人気芸能人をゲストに迎え、再現VTRを交えて深掘りする内容だ。2月24日の2時間特番(→TVer)では、「事務所シリーズ第6弾」と銘打ち、爆笑問題と所属プロダクション・タイタンの太田光代社長、そしてM1チャンピオン・ウエストランドを特集した。
そこで興味深かったのは、デビューから間もない爆笑問題がテレビ局に干されたエピソードだ。大手の太田プロダクションを退所した爆笑問題は、一気にテレビの仕事を失ってしまった。1990年代前半のことだ。
結局、爆笑問題は4年ほど民放の番組から姿を消すことになる。その理由は、太田プロに対するテレビ局の“忖度”だった。大手の芸能プロダクションを退所すると干される──芸能界の“掟”は、この当時すでに根を張っていた。
そこから回復できたのは、タイタンを興した太田光代社長の根回しによるものだ。太田光代社長は太田プロに出向いて頭を下げ、単独ライブへ花環(はなわ)を出してもらうように懇願した。「関係が悪くない」と業界関係者へアピールするためだ。結果、テレビ局の“忖度”はほどかれ、爆笑問題の快進撃が始まる──と、この番組では描かれた。
興味深かったのは、花環のエピソードに対するMCの中居正広の反応だ。
「(僕が)ジャニーズ事務所に『すみません、花出してもらえませんか?』って言うってことですよ? 考えられない(笑)」
中居はいつもの明るい調子でそう言った。彼自身も、2020年にジャニーズ事務所を退所している。
“ジャニーズ忖度”の沼
『金スマ』で描かれた“忖度”は、テレビ局(TBS)の自己言及である以上、もはやそれが過去のことだと述べているに等しい。実際、近年は所属プロダクションを離れても、間を置かずにそのままテレビ出演を続ける芸能人も少なくない。柴咲コウ、米倉涼子、城田優、前田敦子、加藤浩次、田中みな実などがそうだ。最近も大手プロダクションを退所したばかりの堺雅人が、7月からTBSドラマで主演することが発表されたばかりだ。
こうした変化の大きな転換点となったのは、2019年7月に公正取引委員会がジャニーズ事務所を「注意」したことにある。元SMAPの稲垣吾郎・草彅剛・香取慎吾の3人の民放テレビ出演に対し、ジャニーズ事務所が圧力をかけた疑いがあるとされた。これ以降、移籍や独立は珍しくなくなり、テレビ局の“忖度”も緩和された。
だが、ジャニーズを退所したタレント──いわゆる「辞めジャニ」関連の“忖度”はいまも各所で見られる。それが明らかになったケースとしては、2021年1月の香取慎吾の主演ドラマ『アノニマス~警視庁“指殺人”対策室~』で主題歌がキャンセルされた例がある。このときは、レコード会社の“忖度”メールが流出した(『文春オンライン』2022年2月9日)。
また筆者自身もある番組にゲスト出演する際、“ジャニーズ忖度”を求められたことがある。しかも本番が始まる5分前、プロデューサーから突然言われた。詳細は書かないが、もちろん受け入れなかった。
こうした場合、“忖度”の質はさまざまだ。ジャニーズとの仕事を失うリスクを考えた“気づかい”のケースもあれば、単に担当者が「面倒くさいことは避けよう」と深く考えていないだけのケースもある。
なんにせよ、大きな政治力を畏怖する個人が、自分の領域で小さな“忖度”を発動させ、それが積み重なって大きな政治力を生み出していく──そうした循環構造が生じている。
『Mステ』の“ジャニーズ忖度”
そんな“ジャニーズ忖度”がいまも続いているのは、テレビ朝日の音楽番組『ミュージックステーション』だろう。1986年から40年近く続くこの番組には、放送2年目(1988年1月8日放送分)からジャニーズ枠が存在する(立命館大学「JASRAC寄附講座 音楽・文化産業論Ⅱ」2007年12月15日)。当時の光GENJI人気もあり、『Mステ』はジャニーズに頼ることで番組を軌道に乗せた。
事実、ジャニーズ所属のアーティストがこの番組に出演しなかったのは、1988年以降の総集編を除く1363回中13回しかなく、うち3回は他のアーティスト(DREAMS COME TRUEなど)の単独企画だった(※1)。最近では2020年5月8日に出演がなかったが、このときもコロナ禍で久しぶりの生放送という事情が関係していた。つまり、ジャニーズは『Mステ』のレギュラーなのである。
その一方で以前から指摘されているのは、ジャニーズと競合する男性グループがあまり出演しないことだ。LDH(EXILEなど)やK-POPのグループは出演するが、国内のアイドル的な要素を含むグループは姿を見せることはない。
たとえばそれが、JO1やINI(LAPONE)、BE:FIRST(BMSG)、Da-iCE(エイベックス)、超特急(スターダスト)、w-inds.(ライジング)などだ。なかでもJO1とBE:FIRSTは昨年『紅白歌合戦』に出場、Da-iCEは一昨年のレコード大賞を受賞するなど、その活躍は広く知られている(※2)。しかし、彼らが『Mステ』に出演したことはない。
明らかに奇妙なこの状況証拠を生じさせているのは、おそらくテレビ朝日側の“忖度”だ。その端緒は1997年11月14日にDA PUMP(ライジング)が出演した際に、予定されていたKinKi Kidsの出演がキャンセルされたことだと見なされてもいる(『WEZZY』2019年4月28日)。この日は、ジャニーズアーティストが出演しなかった13回のうちのひとつだ。
DA PUMPは、90年代後半から00年代前半までたしかに人気があった。1998年から2002年まで5年連続で『紅白歌合戦』にも出場したほどだ。だが、『Mステ』出演はその1997年11月を最後になくなった。久しぶりに登場したのは、それから21年後の2018年、「U.S.A.」の大ヒットを受けてのことだ。10代だったリーダーのISSAはアラフォーとなっていた。
忖度しないTBS『CDTV』
そんな『Mステ』と対照的なのは、2020年3月から始まったTBSの『CDTV ライブ! ライブ!』だ。『Mステ』以外では、久しぶりの民放ゴールデンタイムの音楽番組だ。この番組では、ジャニーズグループの出演があっても、競合となる他のグループも当然のように出演する。
『Mステ』のようなスタジオトークもないので物理的に共在することはないが、JO1やINI、BE:FIRST、Da-iCEがジャニーズのグループと同じ日に出演することも珍しくはない。しかも、JO1とINIのメンバーには、それぞれ元ジャニーズJr.が含まれている。それでも“ジャニーズ忖度”の様子はまったく見られない。
これはフジテレビの音楽特番『FNS歌謡祭』や日本テレビの『ベストアーティスト』でも同様だ。むしろ『Mステ』だけが“ジャニーズ忖度”を続けている。
状況的には、テレビ朝日だけが約35年間のしがらみで自縄自縛になっているように見える。
日テレの“ジャニーズはずし”
さらに最近は、“ジャニーズはずし”とも言える現象が見られた。それが昨年12月28日に放送された、日本テレビの新たな音楽特番『発表!今年イチバン聴いた歌~年間ミュージックアワード2022』だ。
この番組の特徴は、Apple Musicの年間ランキングをもとに出演アーティストを構成したことだ。そのコンセプトは以下のように謳われている。
ジャニーズでストリーミングを解禁しているのは、活動休止中の嵐を除けば、Kis-My-Ft2とKAT-TUNの一部、そして昨年秋のデビューからストリーミング対応をしているTravis Japanくらいだ。よって、ストリーミング(サブスク)の人気を軸にすれば、ジャニーズのほとんどのグループは自動的に出演できない。
この『今年イチバン聴いた歌』にもTravis Japanは出演していたが、他のジャニーズグループの姿はなかった。その一方で、Da-iCEとBE:FIRSTが出演していたのは印象的だった。
もちろん厳密には“ジャニーズはずし”ではなく、過渡期にある音楽メディアに対応したラインナップになったまでだ。だが、結果的にそれが“ジャニーズ自動ハズレ”の状況を導いたのである。
日テレの未来への投資
日本テレビのもうひとつの音楽特番『ベストアーティスト』は、長らく嵐の櫻井翔が司会を担当し、ジャニーズグループが多く出演するものだ。昨年(12月3日放送)であれば、出演40組中7組(17.5%)がジャニーズで占められている。それを踏まえれば『今年イチバン聴いた歌』は、日本テレビのしたたかさを感じさせる策でもあった。
おそらくそれは、来るべきメディアの転換に向けた準備だろう。主要国では音楽メディアはすでにストリーミングシフトが進んでおり、日本でも早ければ今年、遅くとも来年にはストリーミングの売上がCDを上回ると見られる。だが、ジャニーズはそれでもまだCD売上に固執して、全面的なストリーミング解禁に舵を切らない状況を続けている。
テレビも将来的には放送から通信への切り替えが待ち構えている。放送は極めて完成された技術だが、Netflixなど動画配信サービスもかなり浸透しつつある。電通の調査では、2021年5月の段階でネットに接続されたテレビ受像機は50%を超えた(奥律哉「テレビ視聴環境の現状と課題」2021年/PDF)。昨年秋のFIFAワールドカップの日本戦でも、ABEMAの同時接続数が2300万を超えて話題となった。
こうしたメディアの変化が、従来の芸能界の力学を大きく変えつつある。いくら地上波テレビで“ジャニーズ忖度”をしたところで、それではYouTubeやストリーミングで音楽を楽しむファンをみすみす取り逃すだけでしかない。
テレビ局も、将来的には放送事業者から制作プロダクションへの転身を余儀なくされる。それを踏まえて日テレは従来の方法論(『ベストアーティスト』)と並行して、未来に向けて新たな投資(『今年イチバン聴いた歌』)をしたのである。
SKY-HIのオープン戦略
日テレにはもうひとつ新たな動きもある。それがBE:FIRSTをプロデュースするSKY-HI(日高光啓)と組んだプロジェクト『D.U.N.K.』だ。
この企画は、ダンス&ヴォーカルグループの音楽イベントを中心とし、2月からはテレビ放送も始まった(木曜0時59分)。特徴的なのは、アーティスト同士の交流が強く謳われていることだ。3月には3つのイベントも予定されており、BE:FIRSTをはじめ、DREAMS COME TRUE、&TEAM(HYBE)、GENERATIONS(LDH)、BALLISTIK BOYZ(同)、KENZO(DA PUMP)、超特急(スターダスト)などの参加が発表されている。
そこでは、アーティスト同士がコラボレーションすることによるシナジー効果が期待されている。しかも、すべてのプロダクションに参加を呼びかけており、今後もJO1・INI(LAPONE)やDa-iCE(エイベックス)の参加が期待される。テレビや音楽のメディアの変化によって産業構造が大きく転換しつつあるなか、SKY-HIはその状況に合わせたオープン戦略を採用している。
それは、ジャニーズとは正反対の方法論だ。ジャニーズ的な「囲い込み」戦略は、メディア(テレビ、CD)がドメスティックに閉じていた時代には十分に機能し、それこそが“忖度”の発生源だった。
だが、グローバルな競争が避けられない現在は、「囲い込み」戦略による縄張り(テレビ、CD)の価値そのものが下落し、主戦場は開かれたインターネットメディア(YouTube、ストリーミング)となりつつある。
『D.U.N.K.』は、そうした状況を理解しているSKY-HIと日テレによる未来に向けた一手である。決してそれはジャニーズを出し抜くための企画ではない。むしろ、ジャニーズがいまだに閉じた部屋から出ようとしないだけだ。
門戸が開かれている『D.U.N.K.』には、もちろんジャニーズのグループが参加することは可能だ。そしてもしそれが実現すれば、『Mステ』にBE:FIRSTなどが出演する日も来るだろう。
“ジャニーズ忖度”がなくなる日──それはテレビ局が歩を進めたときに必ず訪れる未来である。
※1:1988年以降にジャニーズが『Mステ』に出演しなかったのは、以下の13回(リンク先はオフィシャルサイトの各放送回内容)。1990年9月14日、1991年8月23日、1992年12月25日、1993年8月13日、1994年8月12日(ドリカム特集)、1994年9月2日(チャゲアス特集)、1997年11月14日、2000年1月1日、2004年11月26日、2008年8月8日(サザン特集)、2012年5月25日、2018年5月11日、2020年5月8日(ジャニーズ特別企画はあり)。
※2:Billboard Japanの年間トップアーティストでも、JO1はこの3年で18→26→25位、INIは69→28位、BE:FIRSTは54→22位、Da-iCEは44→34位と推移している。いずれもかなりその人気は高い。参考としてジャニーズは、Snow Manが12→14→13位、King & Princeが20→19→20位、SixTONESが11→15→23位とそれぞれ推移している。
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