「共犯」責任を避け続けるテレビ局──ジャニーズ性加害問題を維持した〝圧力/忖度〟構造
性加害問題の「共犯」
創業者・ジャニー喜多川氏による性加害問題で存亡の危機を迎えたジャニーズ事務所。10月2日にはふたたび記者会見をし、社名変更や新会社などについて詳細を発表すると見られる。
一方、かねてから問題視されているのはジャニーズ事務所の最大の取引先でもあるテレビ局の姿勢だ。BBCが報じた3月からカウアン・オカモト氏が記者会見をした4月にかけて、テレビ局の報道姿勢は極めて抑制的だった。5月に入りTBSとNHKがやっと積極的な報道を始めて他社も追従したが、テレビ朝日は現在もまだ消極的だ。
先週から今週にかけては、テレビ局各社の定例会見が行われている(フジテレビは本日29日)。そこでは、ジャニーズ事務所に対する姿勢に多少の違いも確認できる。NHKとテレビ東京は新規の取引を見合わせるものの、TBS・日テレ・テレ朝はこれまで通りの姿勢を崩さない点がそうだ。
ただし現状において全社に共通するのは、10月2日を待つ姿勢だ。被害者補償や社名変更、タレントへの配慮のための施策など要望をジャニーズ事務所に伝え、その対応を見て判断すると見られる。
だが、こうしたテレビ局の姿勢には大きな疑問点も残る。性加害問題の「共犯」としての責任を避け続けているからだ──。
テレビ局と芸能プロの「利益共同体」
今回の定例会見では、全社が反省や謝罪を表明した。しかし、それらはあくまでも報道機関としての立場にとどまっている。具体的には、2004年にジャニーズ事務所とジャニー喜多川氏が『週刊文春』を訴えた裁判で、ジャニー氏の性加害が事実認定されながらも、それを報じてこなかったことを「反省」している。
だが、テレビ局にとってのジャニーズ事務所とは単なる報道対象ではなく、バラエティや音楽、ドラマなど番組における最重要の取引先だ。タレントの出演はもちろんのこと、タレントの冠番組では「協力」としてジャニーズ事務所がクレジットされる(ただし、最近はこのクレジットが消えている)。放送外でもドラマの主題歌にブッキングすれば原盤権をシェアしてもらい、映画においては共同で出資して製作をしている。
かように、(ジャニーズ事務所に限らず)日本の芸能プロダクションがアメリカのタレントエージェンシーと大きく異なるのは、プロダクション(製作/制作)機能も持っている点にある。
よって、テレビ局にとっての芸能プロダクションは、単なるタレント窓口ではなく、利益共同体としての側面も強い。1960年代以降から続くテレビの歴史においても、両者の関係はとても深く強固に根を張っている。
ズブズブの共依存関係
こうした関係性のなかで、ジャニーズ事務所は80年代以降にどんどん勢力を強めていった。その過程においては、退所者や競合タレントに圧力をかけていったことが、ここ1か月の間にどんどん明らかになっている(「当事者が証言し始めた『ジャニーズの圧力』」2023年9月28日)。
テレビ局も、そうしたジャニーズ事務所の姿勢に明確に抗することなく、アメとムチで巧みに懐柔されていった。そしてなにより、放送産業が2000年代中期から右肩下がりとなるなかで、確実に“数字”(視聴率)を取れるジャニーズ事務所にすがった。ズブズブの共依存関係はここからさらに強まっていった。
ジャニーズへの「忖度」もそこからさらに強まっていった。タレントが逮捕されて報道する際は「◯◯メンバー」と呼び、唯々諾々とバーター(抱き合わせキャスティング)も受け入れていった。一方テレビ局内では、ジャニーズの窓口となる担当者・通称「ジャニ担」が、率先してジャニーズに便宜を図ることで社内における立場を良くしていった。
「圧力」があるからこそ「忖度」が作動し、「忖度」が強まるからこそ「圧力」も自動的に強まっていく──そうしたメカニズムのなかで、ジャニーズはさらに巨大化していった。
留まるも地獄、離れるも地獄
そうした状況下で、ジャニー喜多川氏の性加害は繰り返されていった。ここで強く留意すべきは、ジャニーズの「圧力」とジャニー氏の性加害が無関係でないことだ。
被害を受けたジャニーズJr.たちは、退所すれば「圧力」をかけられるリスクがあるからこそ、ジャニーズを離れられなかった側面がある。留まるも地獄、離れるも地獄だ。他社に移籍しても仕事を干されることがなければ、Jr.たちは被害を受けることもなかったはずだ。
スターを志す少年にとっては、ジャニーズ事務所に所属するちょっとした判断が、その後の人生を大きく左右してしまうことになる。実際、ジャニーズでもっとも大きなヒットとなったSMAPの元メンバーですら、退所後に「圧力」をかけられて地上波テレビから姿を消す事態となった(「『新しい地図』が地上波テレビから消えていく」2018年3月12日)。
こうした状況に強く関与していた点において、テレビ局はジャニーズ事務所と完全に「共犯関係」だと言える。だが、今回の各社の定例会見では、この点についての反省と検証をする姿勢はいっさい見られない。
「圧力」構造を残せばリスクも残る
今回の性加害問題では、「ビジネスと人権」の概念(人権デューディリジェンス)が広く浸透することになった。スポンサー企業が次々とジャニーズ事務所と取引を停止したのもそれに基づいたものだ。
今回、テレビ局もそれに準じてジャニーズ事務所に働きかけをしている。だが、芸能人を構造的に危うい立場にすることに関与していた点において、テレビ局自体の「ビジネスと人権」に対する姿勢も問われなければならない。
テレビ局は、長らくジャニーズ事務所をはじめとする芸能プロダクションとともに、公正な競争が働かないエンタテインメント業界を構築してきた。
しかも、これは現在も進行形だ。現実問題として、テレビ局などが忖度をして「圧力」が機能する構造が温存されれば、今後も他の芸能プロダクションで同じような加害行為が起きるリスクは残る。
必要なのは、「圧力」とそれにともなう「忖度」が生まれる構造そのものを断つことである。それにちゃんと向き合うことも、テレビ局に強く求められる「人権」意識だ。
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