リーグワン混戦の裏側&交流戦ベストフィフティーン【ラグビー雑記帳】
ジャパンラグビーリーグワンの1部では3月12日までに第11節を消化した。
12チームがふたつのカンファレンスに分かれるレギュレーションのもと、第6節から異なる組のチーム同士が戦っていた。
本稿では交流戦と銘打たれるこの6週間の振り返り、今後の展望、第6~11節までの私的なベストフィフティーンを紹介する。
混戦模様の裏側
第11節終了時点での順位は下記の通り。
レギュラーシーズン残り6試合と大詰めに差し掛かるなかでも、入替戦行き圏内の10位までプレーオフ行きの可能性が残されている。
ここまで11戦全勝のワイルドナイツ、ロビー・ディーンズ監督はうなずく。
「全チームが全チームを倒す可能性がある」
シーズン序盤に混戦模様を形作ったダイナボアーズ(昇格初年度ながら開幕から4戦で3勝!)は、交流戦は1勝5敗と息切れの感を覗かせた。
どこよりも早くプレシーズンに突入したことでタフネスぶりと組織防御を醸成も、タフな1部の舞台にあって「学びが多い」とグレン・ディレーニー新ヘッドコーチは認める。
2月19日の第8節では、昨季4強のスピアーズを相手に前半こそ8―12と競るも、最後は22―60と大敗。イエローカードにより数的不利を強いられた後半2分からの10分間で、28失点を喫したのが痛かった。
その直後、シャイニングアークス(現・D-ロックス)から移籍の鶴谷昌隆は言った。
「ここが、チームにとって大事なところ(時期)。マインドセットを調整していかないといけない。きょう(取材日にあったスピアーズ戦)も、前半はすごくいいラグビーをしていたと思うんですが、ひとつ崩れると、がーっと崩れる。直さないといけない」
現在はメンタルコーチの指導で克己を目指す。生来の持ち味である粘り強い防御の再現性を、序盤戦並みにできるか。
「台風の目」が苦しむ傍ら、復権の兆しを覗かせた古豪がヴェルブリッツとブラックラムズだ。
ヴェルブリッツは南アフリカ代表のピーター・ステフデュトイら好選手を要しながら一時は入替戦圏内。尻に火が付いたように映ったのは、3勝6敗と大きく負け越して迎えた第10節。昨季準優勝で今季もプレーオフ行きに近づくサンゴリアスに、27―20で勝った。目下2連勝中だ。
持ち味のフィジカリティを全面に押し出す簡潔な戦いぶり。防御に穴の開く傾向がないわけではないが、まずはぶつかり合いで勢いをつける。
それまでオブザーバーに徹していた共同主将の姫野和樹がリーダーシップを発揮したこと、やはり「私のチームではない」とベン・へリングヘッドコーチを支えてきたスティーブ・ハンセン氏(元ニュージーランド代表ヘッドコーチ、現同部ディレクター・オブ・ラグビー)がサンゴリアス戦前の練習を積極的に仕切ったことなどが背景にある。
つくづく、組織は生き物だ。それを痛感させるのは、現在3連勝中のブラックラムズも然りである。
開幕2連敗を喫し、交流戦前最後の第5節からも4つ続けて負けた。とはいえその間も、上位陣を相手にタフな防御を重ねてはいた。ピーター・ヒューワットヘッドコーチは、選手にこう伝えていた。
「ワンゲームをよく戦えれば、状況は変わる」
勝つためには「ネームバリュー」必要?
群雄割拠のコンペティションにあって、堅守速攻のワイルドナイツはプレーオフ枠争いという意味では安全水域に入ったか。
一時、失点の多かったスピアーズも、着実に白星を積んだことで現在2位だ。故障を抱えていた看板の大型ロックも、相次ぎ戦列に復帰。バーナード・フォーリーが動かす深めの攻撃ラインとのシンクロが期待される。
史上初の4強入りを目指すイーグルスは、第10節で足踏み。短刀で猪をさばくようなブルーレヴズに22―22と引き分け、就任3季目の沢木敬介監督は「エクスキューズを考えるより、自分にベクトルを向けないと」。ブレイクスルーに必要なものを聞かれれば、意味深長な言い回しで言った。
「ネームバリュー、じゃないですか。イーグルスとしての。これは冗談じゃなく、真面目に言っていますよ。まだまだ下に見られていると思うから、本当に実力があるよと皆に認めてもらうよう、シンプルに強くなるしかないです」
もっとも、その日の後半初頭に得点機をふいにしたのを反省し、ダイナボアーズとの第11節では16点差を追う後半4分、敵陣の深い位置でペナルティーキックを得ればスクラム、ラインアウト、タップキックではなくペナルティーゴールを選択。トライを奪いに行くより確実な加点方法を採ったわけだ。
結局、その後も首尾よくチャンスを活かして41―21で勝利。3トライ差をつけての勝利とあり、勝ち点5を得て3位に浮上した。指揮官は言う。
「僕らは1試合、1試合、全力で戦って、成長していくことが、最終的にトップ4に入れるか、入れないかに直結している。目の前の試合を大事に戦う。ただ、現状3位にいるという力を持っていることを、慢心じゃなくて、自信にしなきゃいけないと思います。ファンの方、メディアの皆さんにも『イーグルス、力あるな』と思わせなきゃいけないです。貪欲にチームとしてレベルアップしないと、我々がターゲットにする位置には行けない」
確かなことはひとつ。リーグワンの最終順位には最終節までの進歩、停滞、葛藤、覚醒のすべてが反映される。
<リーグワン1部・交流戦=第6~11節私的ベストフィフティーン>
1,稲垣啓太(ワイルドナイツ)
防御を引き付けてのパス、接点周辺でのドミネートタックル、味方防御の整備を助けるジャッカル、ワークレート。
2,マルコム・マークス(スピアーズ)
ジャッカル、チョークタックル、突進。
3,パディー・ライアン(ブラックラムズ)
スクラムでは常に背中、膝のフォームを保ち、強烈な突進でも魅する。
4,ワーナー・ディアンズ(ブレイブルーパス)
スピアーズ戦では約90メートル独走トライ。突進、スイープ、ジャッカルといった肉弾戦でも爪痕を残す。
5,ルード・デヤハー(ワイルドナイツ)
圧巻の突進力を有しながら、チーム戦術に沿って防御を引き寄せながらのパスも繰り出す。モールの芯としても機能。接点へ身体を差し込み、相手の球出しを鈍らせる。
6,ベン・ガンター(ワイルドナイツ)
プレーを終え、次のプレーに移るまでの運動量が際立つ。得意のハードタックル、ジャッカルはピンチをチャンスに変えてきた。
7,クワッガ・スミス(ブルーレヴズ)
ブルーレヴズの共同主将兼正ナンバーエイトとして、地上の、もしくは相手の手元のボールを何度も手繰り寄せてきた。攻撃に転じた時のスピード、足腰の強靭さも見事。
8,ネイサン・ヒューズ(ブラックラムズ)
ターゲットとの間合いを的確に詰めながらのタックル、隙を見てのターンオーバー、強くて速い突進が光る。
9,ファフ・デクラーク(イーグルス)
抜群の存在感と鋭い出足で、周りの視線を寄せ集める。高低を織り交ぜたキック、果敢なタックルも際立つ。
10,バーナード・フォーリー(スピアーズ)
エリアゲームでは相手の急所へ鋭いキックを放ち、アンストラクチャーからの攻めでは周りと繋がりながらスペースへパスをつなぐ。
11,木田晴斗(スピアーズ)
躊躇を感じさせぬランとハイボールキャッチ、キックパスを捕球してトライを決める際の鋭いコース取り、相手とぶつかりながらトライラインを割る際のボディバランス。
12,中村亮土(サンゴリアス)
両軍の動きを「予測」しながら位置取り。果たして、防御の手が届かないぎりぎりのエリアへパス、キックを配する。強靭さを活かしたタックルも魅力。
13,ディラン・ライリー(ワイルドナイツ)
強烈なランニングと広大な守備範囲。抜け出した相手を捕まえるスピード。
14,イノケ・ブルア(イーグルス)
味方が蹴ったハイボールの落下地点まで駆け上がり、捕球役へ強烈なタックルをお見舞いする。抜群のスピードでトライを奪う。守っても快足を飛ばし、持ち場とは逆側のスペースを埋める。
15,野口竜司(ワイルドナイツ)
後方のカバーリング、高低を織り交ぜたキックの使い分け。
参考資料
各節の私的ベストフィフティーンは、有料版にて掲載しています。詳しくは下記をご参照ください。
上記に挙げられなかった選手も数多く掲載させていただいています。また、上記選手が必ずしも毎回「ベスト」に挙がるとは限らないこともわかります。裏を返せば上記15名は、6試合を通して安定したパフォーマンスを披露していたと言えます。
第1~5節の振り返りはこちらをご確認ください。