Yahoo!ニュース

リーグワン1部第1~5節に見られた傾向は?&全5節私的ベストフィフティーン【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
日本代表でも主力に定着したライリー。速さとうまさを兼備する。(写真:つのだよしお/アフロ)

 ジャパンラグビーリーグワンの1部は1月22日までに5節が終わった。

 12チームがふたつのカンファレンスに分かれるレギュレーションのもと、同一カンファレンス内のカードが一巡した。28、29日の第6節以降は交流戦として、異なるカンファレンス同士の対戦が続く。

 本稿ではここまでの振り返り、第5節までの私的なベストフィフティーンを紹介する。

混戦の裏側は

 現状の順位は以下の通り。

 今秋のワールドカップを見据え、開幕が前年度より約3週間、前倒しとなっていた。そのため開幕当初こそ、11月まであった各国の代表活動へ選手を送り出していたチームはコンビネーションの構築に苦心した。

 特に新指揮官のもと攻め方を刷新したサンゴリアスは、スピアーズとの初戦で黒星を喫した。

 もっとも、代表に選ばれる選手には適応力が備わる。サンゴリアスは、時間を重ねるごとに複層的なアタックシステムを機能させられるようになった。

 日本代表組である中村亮土もこうだ。

「毎週、毎週、課題があり、それを改善しようと(意識が)クリアになっています。個人的にも迷わずできている。いま大事にしているオフ・ザ・ボール(ボールを持たない時のハードワーク)で貢献したいと思っていて、やりながらレベルアップしている感じですね」

 段階的に隙をなくしているのは、堅守で前年度王者となったワイルドナイツも然りだ。

 タックラーの背後を突かれるシーンを徐々に減らした。スコッドを入れ替えて望んだ第5節でも、ハードワークで鳴らすブラックラムズを前に壁を敷いた。接点で何度も反則を誘った。

 おかげで昨季4強が上位6傑に収まり、そのうち3チームが上位3傑を独占する。いずれも昨今、主流となったポッドシステムに固執しない攻め方をしているようで、ワイルドナイツのロビー・ディーンズヘッドコーチはさらなるのびしろを匂わせている。

「コーチ目線で言えば、まだすべてを出し切れていないような。試合になるとどうしても選択が保守的になってしまう」

 上位陣の力がさらに膨れ上がるのであれば、今後の展望は読みやすくなるか。

 否。選手の肌感覚を総合すれば、「前年度までの順位はあてにならない」。前年度まで中位に甘んじ、プレーオフに行ける4強争いを狂わせうるチームは複数、ある。

 特に注目されるのはダイナボアーズ。今季昇格も3勝1敗1分けと躍進した。

 防御担当コーチから昇格のグレン・ディレイニー新ヘッドコーチが、責任企業の社歴を既存の選手、スタッフに改めて落とし込んだ。その流れで他部に先んじでプレシーズンをスタートさせ、猛練習を重ねた。

「ボールゲーム」と名付けた実戦練習では、トライの瞬間に全員でゴールラインを割らなければ罰走が待つ。ボールを触ることが少ないフロントローの選手も、「ただ、ゴールラインを超えることを目指す」と必死に長い距離を走った。

 部員の走行距離や数値は毎日、スマートフォンで共有され、緊張感と競争意識が芽生えた。

 これらの積み重ねが、ピンチで踏ん張る粘り強さを生んだ。マイケル・リトルの移籍などで戦力面で不安視されたなか、鋭い出足の防御と、新司令塔のジェームス・シルコックのキックをシンクロさせている。

 かたや旧トップリーグ時代に上位を争っていたスティーラーズ、ヴェルブリッツは、当時に勝るとも劣らない豪華戦力を擁しながら負け越している。

 スティーラーズは2018年のトップリーグ優勝時、責任企業の製鉄所の歴史を見直しながら、緻密なパスワークを鍛えた。ところが、当時の再建に尽力したウェイン・スミス総監督(当時=現在はメンター)は、コロナ禍に突入してから来日回数を減らしている。

 いまも当時と似たプレースタイルを志向するが、ニコラス・ホルテンヘッドコーチは開幕前に「ポジショニングにつくのが遅くなるのが、早すぎる」と一貫性を保つ難しさを吐露する。

 ヴェルブリッツではベン・へリング新ヘッドコーチがクラブのエンブレムの意味を問い直し、「頭で考えるよりかはまずやるというチーム」(姫野和樹共同主将)という本来の特徴を鑑み、戦法を簡潔にした。いわば組織の文化を軽視しないスタンスで一体感を醸成しようとしたが、開幕後は勢いを出す以前のところでエラーを重ねた。

 直近の第5節では、斬新な仕組みで攻めの質的優位を生み出すブレイブルーパスに25—63で大敗。フランカーのピーターステフ・デュトイゲーム主将、フルバックのウィリー・ルルーといった南アフリカ代表戦士は随所に凄みを披露も、2人のパス交換にミスが生じることもあった。

 ウイングの高橋汰地は「外国人選手の言ったことを、日本人選手が素直にやり過ぎてしまっている」と、選手間の繋がりについて改善点を挙げた。

 昨今の国内リーグには世界的な選手が次々と集まっているが、いまは「どんな選手を獲ったか」よりも「どんな組織を作ったか」が結果に反映されやすくなっているような。観戦者にそう実感させる、序盤の5節となった。

 2連覇を目指すワイルドナイツのディーンズは、このように言う。

「ラグビーは個でできるスポーツではなく、チームで効果的に能力を発揮するのがラグビーの本質であり、それを本能でできるのがいいチームです」

リーグワン1部・第1~5節私的ベストフィフティーン

1,稲垣啓太(ワイルドナイツ)

写真:つのだよしお/アフロ

 一度、コンタクトをした後の起き上がりの速さが光る。相手が大外のラックから展開する際、この人が強烈なタックルで跳ね返す。味方のイエローカードで数的不利を強いられても防御網を割られない連係スキル、ポジショニングが光る。試合を重ねるごとにスクラムも強化された。

2,マルコム・マークス(スピアーズ)

(写真提供=JRLO)
(写真提供=JRLO)

 パワーを活かしたジャッカル、チョークタックルを随所に披露。ライナーズ戦では鮮やかなキックでファンを沸かせた。

3,垣永真之介(サンゴリアス)

足に黄色いテープを巻くのが垣永(写真提供=JRLO)
足に黄色いテープを巻くのが垣永(写真提供=JRLO)

 スクラムを安定させ、守ってはジャッカルを連発した。チームが選手に求める献身的な動きを率先しておこなう。

4,ワーナー・ディアンズ(ブレイブルーパス)

写真:つのだよしお/アフロ

 大きな身体を活かしたチョークタックルやラインアウト、大きな身体をかがめて繰り出すジャッカルやスイープ。ジェイコブ・ピアスとの2メートル超コンビは脅威。

5,ハリー・ホッキングス(サンゴリアス)

(写真提供=JRLO)
(写真提供=JRLO)

 攻守両方のラインアウトで制空権を握り、攻めては豊富な運動量と推進力でサンゴリアスの攻撃スタイルの質を高める。相手ボールの接点へ身体を差し込む動きも効果的。味方のレッドカードで数的不利を強いられたイーグルス戦では、他のバックファイブとともに泥臭く働いた。

6,クワッガ・スミス(ブルーレヴズ)

写真:つのだよしお/アフロ

 抜群の加速力で突破、バッキングアップを重ね、あらゆる接点に腕を差し込みボールを捕り返す。反則を誘う。

7,マルセル・クッツェー(スティーラーズ)

写真:つのだよしお/アフロ

強靭な身体で突進、ジャッカル、チョークタックルを繰り返す。

8,ジャクソン・ヘモポ(ダイナボアーズ)

写真:つのだよしお/アフロ

 初戦から決定的なトライセーブタックルを連発。チーム昇格初年度における快進撃の象徴となった。唯一の黒星を喫したワイルドナイツ戦ではインフルエンザのため欠場。その事実も存在感を浮き彫りにした。

9,ニック・ フィップス(グリーンロケッツ)

(写真提供=JRLO)
(写真提供=JRLO)

 1勝4敗と苦しむチームにあって、力強いパスで走者を前進させ続けた。自陣深い位置でも守りでも渋い光を放った。

10,田村優(イーグルス)

写真:つのだよしお/アフロ

 仲間に微笑み、発破をかけ、防御の的を絞らせない位置で球を受ければ適宜パス、キックを織り交ぜてスペースを突く。守っては鋭いタックルも光る。

11,尾崎晟也(サンゴリアス)

(写真提供=JRLO)
(写真提供=JRLO)

 相手の死角で球をもらい、走り切る。リーグ最多の10トライの裏側には、無形の力がにじむ。

12,立川理道(スピアーズ)

写真:つのだよしお/アフロ

 時間帯によっては苦しむチームにあって、要所で好ジャッカルを連発した。攻めては防御の間近でさばくパス、キックを活かしてチャンスメイク。

13,ディラン・ライリー(ワイルドナイツ)

写真:つのだよしお/アフロ

 左中間、右中間のスペース、タッチライン際を駆け抜ける快走。防御をひきつけながらのパス、向こうの流れを止める好タックルも際立つ。

14,根塚洸雅(スピアーズ)

写真:つのだよしお/アフロ

 わずかなスペースをすり抜けビッグゲイン。ひとつのプレーが終わってから次の動きに転じるまでが早く、一連の流れで何度も顔を出すことが多かった。

15,野口竜司(ワイルドナイツ)

写真:つのだよしお/アフロ

 試合を追うごとに持ち前のカバーリングと多彩なキック、ハイボール捕球技術を披露。

※各節の私的ベストフィフティーンは、有料版にて掲載しています。詳しくは下記をご参照ください。上記に挙げられなかった選手も数多く掲載させていただいています。また、上記選手が必ずしも毎回「ベスト」に挙がるとは限らないこともわかります。裏を返せば上記15名は、5試合を通して安定したパフォーマンスを披露していたと言えます。

リーグワン1部・第1節私的ベストフィフティーン【ラグビーのサブスク】

リーグワン1部・第2節私的ベストフィフティーン【ラグビーのサブスク】

リーグワン1部・第3節私的ベストフィフティーン【ラグビーのサブスク】

リーグワン1部・第4節私的ベストフィフティーン【ラグビーのサブスク】

リーグワン1部・第5節私的ベストフィフティーン【ラグビーのサブスク】

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

すぐ人に話したくなるラグビー余話

税込550円/月初月無料投稿頻度:週1回程度(不定期)

有力選手やコーチのエピソードから、知る人ぞ知るあの人のインタビューまで。「ラグビーが好きでよかった」と思える話を伝えます。仕事や学業に置き換えられる話もある、かもしれません。もちろん、いわゆる「書くべきこと」からも逃げません。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

向風見也の最近の記事