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グルメブーム、2014年の振り返りと2015年の展望

東龍グルメジャーナリスト

2014年におけるグルメのキーワード

2014年のグルメを振り返ると、みなさんは何が印象に残っているでしょうか。

話題となったグルメのキーワードを、以下の通り挙げてみます。

  • パンケーキ
  • フレンチトースト
  • ハイブリットスイーツ
  • かき氷
  • 台湾スイーツ
  • 高級ポップコーン
  • 熟成肉
  • 赤身肉
  • ビブグルマン
  • ランチパスポート

思い当たるキーワードはどれくらいありましたか。これらのキーワードをもとにして、2014年のグルメブームを振り返り、2015年の展望を占っていきます。

新旧入り混じるスイーツ

かき氷と台湾スイーツ

ザ・リッツ・カールトン東京「ドンペリニョン ロゼのかき氷」
ザ・リッツ・カールトン東京「ドンペリニョン ロゼのかき氷」

瞬間風速から考えてみると、パンケーキに続くスイーツとして夏に注目されたかき氷と、かき氷との相乗効果もあって話題となった台湾スイーツは大きなブームを起こしたと言えるでしょう。「【最高級かき氷】ザ・リッツ・カールトン東京 ドンペリニョン ロゼのかき氷はどのようにして生まれたか?」ではかき氷を、「【台湾スイーツ】マンゴーチャチャは「元カレ」「モテキ」からオレンジの愛を届ける」では台湾スイーツをご紹介して、反響も大きかったです。ただ、かき氷も台湾スイーツも季節的な要素が強く、その後は落ち着いていったので、年間を通してみるとインパクトは弱まっています。

定番のパンケーキ

グランド ハイアット 東京「フィオレンティーナ パンケーキ」
グランド ハイアット 東京「フィオレンティーナ パンケーキ」

パンケーキでは、「モエナカフェ」「コアパンケーキハウス」「雪ノ下」といった新しい店が東京にオープンしただけではなく、ドイツ風のダッチベイビーやイギリス風のクランペット、「パンケーキにトリュフとフォアグラは必要なのか?」でご紹介したトリュフやフォアグラを使ったパンケーキなど、新しいものも現れています。

さらには「パンケーキはどこまで進化していくのか?」のようにピザ窯で焼くという手法が用いられたり、デニーズでパンケーキ食べ放題が始められたりと、引き続き話題になっていますが、今年改めてブームになったわけではありません。新しい店のオープンに関しては昨年よりも少なくなっており、来年は落ち着いてくるのではないでしょうか。

アメリカから上陸

ポストパンケーキと言われて久しいフレンチトーストは今ひとつ盛り上がりに欠けますし、クロワッサンドーナツなどのハイブリッドスイーツも思ったよりも反応がありません。「アンチャッタブル タフィー」「マグノリアベーカリー」「マックスブレナー」など、アメリカから上陸してきているスイーツ店があります。行列ができていてビジネス的には成功していますが、大きな影響を及ぼす程の勢いはありません。

高級ポップコーン

ククルザ ポップコーン
ククルザ ポップコーン

このような状況の中で、高級ポップコーンは2013年の「ギャレット ポップコーン ショップス」「ククルザ ポップコーン」に続いて、2014年には「ドックポップコーン」「ポップ!グルメポップコーン」がオープンしています。行列が絶えないことはもちろん、1つ700円程度という高い値段にも関わらず1人で何個も購入しているあたりは、ひとつのブームを形成していると感じられます。

「【ポスト・パンケーキ】スイーツブームの兆しを知る」で、スイーツブームを巻き起こすためには表参道という場所が重要になると述べましたが、前述の高級ポップコーンショップはどれも表参道にあるのでブランド力を高められています。高級ポップコーンはまだ余白がありそうなので、来年も引き続き日本に上陸してくるのではないでしょうか。

肉ブーム

シュラスコ

リオ グランデ グリル
リオ グランデ グリル

2014年にはブラジルでワールドカップが開催された影響で、「ブラジル料理「シュラスコ」はサッカーワールドカップのブラジル代表を超えられるか?」「ブラジルW杯年に始動したバルバッコア、その進撃の秘密を探る」でご紹介したように、シュラスコレストランがたくさんオープンしました。

これまで東京都内に有名店が数えられるくらいしかなかったことを考えると、大きな爪痕を残したと言えますが、来年もこのままシュラスコレストランがオープンしていく理由は特に見付からないので、もう落ち着いたと考えてよいでしょう。

熟成肉

ウルフギャング・ステーキハウス「リブアイステーキ」
ウルフギャング・ステーキハウス「リブアイステーキ」

熟成肉は2年程前から盛り上がりを見せていましたが、2014年2月1日六本木にオープンした「ウルフギャング・ステーキハウス」から、さらに盛り上がってきました。ウルフギャング・ステーキハウスはその勢いを落とすことなく、12月8日には丸の内に2号店をオープンしています。

焼肉だけではなく、鉄板焼、フランス料理やイタリア料理でも熟成肉を扱うレストランが増えており、裾野は広がる一方です。加えて、「デニーズ」などのファミリーレストランや「吉野家」「松屋」といったファストフードでも扱うようになっており、困惑するくらいの伸びを見せています。

肉山
肉山

来年も熟成肉ブームは続きそうですが、新しい肉のトレンドであれば、高知県や熊本県の褐毛和種「あかうし」といった牛に代表される赤身肉を挙げたいです。霜降り肉でも熟成肉でもない、赤身肉をウリにした店が流行しており、例えば吉祥寺の「肉山」に至っては予約できるのは数ヶ月先と本格的な人気となっています。

熟成肉の課題

熟成肉は脂肪ではなく赤身の部分を熟成させるものであり、赤身肉をよりおいしく食べるためなので、赤身肉ブームは熟成肉ブームと嗜好性が同じあると言ってもよいでしょう。肉がここまでブームになったのも、料理が複雑に高度になったことへの反動があるかも知れません。加えて、神戸ビーフが世界的に注目されるなどしていることもあり、肉そのものにフォーカスが当てられたのではないでしょうか。

ただ、熟成肉にも課題があります。もともとしっかりとした定義や基準がないことに加えて、競争が過当になってきているので、来年はさらに玉石混淆が進んで何でもありという状況になるかも知れません。そこで一度大きな問題が起きると、熟成肉ブームは一気に冷めてしまう可能性もあります。

形を変えていく肉ブーム

他にもジビエが人気になりそうだという話もありますが、大きなブームを巻き起こすことは難しいでしょう。というのも、ジビエの種類にもよりますが、基本的に供給量があまりないからです。また、特にフランス料理ではもともと狩猟期間にジビエを積極的に扱うレストランも多いので、特に目新しいようには感じられません。

グルメのトレンドは同じものがそのままずっと世の中を席巻するほど甘くはないので、先に挙げたように、熟成させたり、釜で焼いたり、薪で焼いたり、脂身ではなく赤身肉にフォーカスしたりと、調理方法や部位を変えていきながら、来年も肉ブームは続いていくのではないでしょうか。

グルメを盛り上げるメディア

ミシュランガイドの変貌

ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション(ミシュランガイド2つ星)
ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション(ミシュランガイド2つ星)

ミシュランガイド東京2015は12月5日に出版されたばかりで、「ミシュランガイド東京2015はどうして話題となっているのか?」でも触れさせていただいたように、ラーメンなどをジャンルに加えてビブグルマンを拡充したことに対する賛否両論があります。

しかし、こういったことも含めて、ミシュランガイドが近年にないほど話題に上っていることは確かであり、ブームであると言えるでしょう。また、料理コンクールでは「【クッキングコンテストの今】独学者 杉本敬三氏が優勝した「RED U-35」は何が新しいのか?」でご紹介した「RED U-35」も引き続き注目されましたが、昨年に比べるとメディアでの取り上げられ方は弱いと感じます。

ランチパスポートの爆発力

ミシュランガイドや料理コンクールといった一種の権威に対する反対軸はこれまで食べログが担っていましたが、今年東京でも出版された「ランチパスポート」が瞬く間にブームになり、新しい需要を開拓しました。ランチパスポートは、通常1000円程度するランチメニューを500円で食べられるクーポン機能を持った書籍です。クーポン誌と言えば、ホットペッパーなど無料で配布するものを挙げる人も多いと思います。ランチパスポートがホットペッパーと違うところは、無料ではなく有料であること、それに関連して掲載店からは広告料金をもらっていないこと、グルメガイド本の構成になっていることでしょう。

ランチパスポートの変遷を紐解くと、2011年4月に高知で出版されたのを皮切りに全国へ広がっていき、2014年には東京へも伝播し、4月に新橋・虎ノ門版、7月には渋谷・原宿・恵比寿版、8月に新宿版が出版され、赤坂版、池袋版など他の地域にも進出していきました。新宿版や渋谷版に至っては既にVol.2が出版されている程です。

権威からの脱却

ミシュランガイドのような権威が格付けた店を盲信的にありがたがる風潮から、食べログのようなレビューサイトに記載された一般大衆の集合知を頼るようになり、ランチパスポートのようなクーポン書籍で確実に得ができる店を探すようになってきました。

前述の通り、ミシュランガイドは再び盛り返してきましたが、ランチパスポートの盛り上がりを鑑みると、権威よりも身近な実利に関心を持つ人が多くなっているようです。来年、ランチパスポートと同じスタイルの書籍が出版されて競争が激しくなっていけば、差別化するためにサイトやアプリを開発するなどし、紙からウェブへとシフトしていくのではないでしょうか。ミシュランガイドは既に紙からウェブへとシフトし始めているだけに興味深いところです。

2015年におけるグルメブーム

以上のように、2014年におけるグルメブームを一気に駆け抜けてきましたが、特に注目されたものを取り上げただけでも、とても語り尽くせるものではありません。

景気が回復してきたと言われている2014年において、グルメ業界では高級なポップコーンも流行しましたが、いくら高級であると言っても、1回の食事で何万円も料金がかかるフランス料理と比べれば、ほとんどの人にとってはささやかな出費であると言えるでしょう。ビブグルマンの拡充やランチパスポートの爆発的な人気、および、赤身肉やポップコーンなどもともと身近にあった食べ物に関心が移ったことは、近年の<美食ブーム>から一歩身を引いた形となっており、地味なグルメ漫画「孤独のグルメ」がヒットした理由にもつながっていると思います。

2015年における美食都市<東京>のグルメブームは、本当に新しいものよりもすぐ身近にあるものから生まれてくるのではないでしょうか。

参考

「バルバッコア」ザ・リッツ・カールトン東京の「ドンペリニョン ロゼのかき氷」「ミシュランガイド3つ星」「ミシュランガイド2つ星」「ミシュランガイド1つ星」「ビブグルマン」については、リンク先でもご紹介していますので、ご参考にどうぞ。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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