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「コンビニは社会インフラじゃない!」人間らしい暮らしがしたい 被災しても営業 コンビニオーナーの叫び

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
(写真:アフロ)

食品ロスのテーマで活動を進める中で、2017年夏からコンビニを取材して記事を書き始めた。中でもコンビニオーナーの座談会で、あるオーナーさんが「人間らしい暮らしがしたい」とつぶやいた言葉は深く心に残っている。いわゆるワンオペのオーナーさんだった。「食品ロス」がテーマだったはずなのに、話を聞けば聞くほど、その問題だけにとどまらない現状が見えてきた。

「消費期限の6時間前に捨てていたのを2時間前に捨てることにした」・・・いいね!?

2018年9月12日付の流通ニュースは、ファミリーマートのオリジナル惣菜・冷凍食品ブランドである「お母さん食堂」の、一部の商品の消費期限を延長することを報道した。

ファミリーマート/「お母さん食堂」消費期限延長、18時以降の品揃え拡大(流通ニュース 2018年9月12日付)

ツイッター上で教えて下さった方がいて、記事を読んだ。食品小売の方も教えて下さった。ファミリーマートは、澤田貴司社長が「(24時間営業)必要ないところはやめればいい」と発言し、実際、京都の店では深夜営業をやめる一年間の実証実験を経て、常時、深夜営業をやめた。筆者は、深夜営業をやめたこのオーナーさんにも、実際にお会いしている。

コンビニオーナー残酷物語 働き方改革のカギは「京都」にあり (1/5)(ITメディアビジネスオンライン 2018年7月2日付)

このように、ファミリーマートは、「何がなんでも24時間営業」ではなく、臨機応変に対応している。そのような背景を知っているので、今回の「お母さん食堂」の消費期限延長の取り組みも、よかったな、と素直に思う。

ただ、よくよく考えると、今までは、消費期限が切れる(まだ食べられる)6時間も前に、店頭の棚から撤去していて、それが2時間前の撤去(廃棄)になった、ということ。もちろん、状況が改善されたのはいいが、多くの客は、「消費期限ギリギリまで売ればいいじゃないか」「食べられるんだし」と思っているのではないか。実際、コンビニで弁当やパスタを買おうとしたら、「消費期限の切れる2時間前にはレジを通らない」という規定により、客側は「これが欲しい」と主張しているのに買えなかった・・・という声は、何人もの人から聞いた。

本当に「いいね!」と手放しで喜べるのだろうか。捨てる分のお金は消費者だって負担しているのに。

災害時も杓子定規な対応でいいのか

2018年9月12日付の北海道新聞は、コンビニの規格があるため、ネギなしの蕎麦が出せない、漬物なしの弁当が出せない、という理由で、他の原材料を全て捨てなければならない窮状を報じた。

「そばはあるんですが、ネギがない。弁当の素材はあるんですが、漬物がない。そうすると『ざるそば』や『幕の内弁当』という商品は作ることができないんです」。大手コンビニチェーンの道内店舗に弁当類を供給する会社の幹部は目いっぱいに涙をためながら、苦しい胸の内を吐露した。「食材はいっぱいある。でも、チェーンの規格に合わない商品は出せない。この苦しいとき、地域の役に立てない。非常に切ない」

出典:2018年9月12日付 北海道新聞

北海道新聞の記事は、「大手コンビニチェーンの対応が問われる」と締めている。

店内調理をする小規模な小売店などでは、「いまある食材だけをつかって、なんとか、作れるものがないか、工夫しながらやっている」(北海市場発寒店の青木豊店長)。ただ、全国チェーンに卸す場合、食材も弁当の中身も現場の判断だけでは変えられないのが今のルールだ。

食材はあるが、供給できない―。地震という天災の際に、ライフラインである食品をいかに迅速に流通させるか。大手チェーンの対応力も問われている。

出典:2018年9月12日付 北海道新聞

西日本豪雨の時も、消費期限の手前にある「販売期限」を律儀に守ることで、現地のコンビニでは大量の廃棄が発生した。

「廃棄1時間前に入ってきたパン、ほとんど捨てた」食料が運ばれても西日本豪雨被災地のコンビニが嘆く理由

自然災害は、これからもこの先も起こる。必ず起きることはわかっている。実際、2018年は、全国のあちこちで発生している。そうであれば、そんな時くらい、販売期限を撤廃し、消費期限や賞味期限ギリギリまで販売する臨機応変な対応はできないのか。命の綱の食料が無いのに、それでも「販売期限」に固執するのか。何のための、誰のための「販売期限」なのか。

「人間らしい暮らしがしたい」

コンビニ座談会で「人間らしい暮らしがしたい」と話したオーナーさんの言葉は次の通りである。

パンドラの箱を開けないだけ。スーパーだったらとっくにつぶれている。スーパーにやらせるのと同じことをコンビニオーナーにやらせている。ごみだって、出さして儲けている。マイナスはすべてオーナー。本部はマイナスをとりたくない。スキルをあげることはやるけど、従業員のスキルがダウンしている。一週間で辞めてしまう。「こんなはずじゃなかった」。もう無理。人件費はこの3年間で20%もあがっている。10年前は713円。覚えたころに2週間、3週間で辞めていく。生活はできなくないけど。。。。手取り200万円でもいや。車、海外旅行・・・

人間らしい普通の生活がしたい。それもできないのに・・・

出典:2017年8月23日コンビニ座談会でのあるオーナーの言葉

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「コンビニは社会インフラではない!」

コンビニオーナー座談会で「社会インフラではなく、オーナーは個人商店だ」という意見がいくつも出た。

コンビニは社会のインフラではない。オーナーは公僕ではない。いちうどん屋と同じ。本部は「社会のインフラ」のもと、行政や国を味方につけている。公務員や警官の代わりをしなければならない。

出典:2017年8月23日 コンビニオーナー座談会でのオーナーの言葉

もう一回強調したいのは、大手コンビニなどあるけど、個人の零細商店の集まり。これだけ社会的インフラの責任を、国などからの補填なしでやって、本当に持続可能な社会貢献になるのか?続けられない。

出典:2017年8月23日 コンビニオーナー座談会でオーナーの言葉

社会貢献という意味からしたら、コンビニのオーナーは、税金が地元に払えてない、地方税も払えない人が多い。地方税免除額しか利益でていないパターン。本部のある東京に利益が集中している。地元貢献ができない。だから、システムを考えるべきだ。

人件費100%オーナーが持っている。50000店80万人の非正規労働者を雇用している。その人たちに社会保障を含めた給料を払えていない。それで本当の意味の地元採用になっているのか?そこを伝えたらわかってもらえるのではないか。

出典:2017年8月23日 コンビニオーナー座談会でオーナーの言葉

これだけ自然災害が頻発する中で、災害が起きるたびに、被災地で被災者であるコンビニオーナーや従業員が働かなければならない現状。コンビニ本部には、早すぎる設定の「販売期限」を、消費期限(安全に食べられる期限)や賞味期限(おいしさの目安)にできる限り近づける緩和対策をとっていただきたい。特に食べ物が求められる自然災害発生時には、臨機応変な対応と、被災者でもあるコンビニオーナーや従業員への配慮が求められる。

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食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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