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「値下げしたくてもできない・・・」コンビニオーナーが弁当を見切り販売できない理由

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

スーパーマーケットでは、日持ちしにくい賞味期限の短い総菜類や弁当、サンドウィッチやパン類が「見切り販売」といって、値引きして販売される。一方、コンビニエンスストアでは、日用品などは値下げ販売されたり寄付されたりするが、弁当やおにぎりなどは見切り販売されない。そのため、全国で一日あたり384〜604トンの食品が廃棄されているとみられている。コンビニ弁当はなぜ見切り販売されずに捨てられるのか。今回、大手コンビニオーナー4名に取材した。

セブンイレブン国内店舗数は20,000店を突破

7月11日はセブンイレブンの日。セブン-イレブン・ジャパンの国内店舗数は2018年1月31日に20,000店舗を超えた。その記念として各店舗に時計が寄贈されたことがTwitterで投稿されている。その時計をオークションで売って、収益を西日本豪雨の被災地の組織に寄付したことを投稿したオーナーもいた。

2009年、セブン-イレブン・ジャパンは公正取引委員会から排除措置命令を受け、社としての見解を発表した。セブン-イレブン・ジャパンのオーナー4名が、販売期限が接近した弁当などを値引きする「見切り販売」を制限されたために損失が出たとして、同社に1億3980万円の損害賠償を求める訴訟を起こした。2013年8月3日、東京高等裁判所で、斎藤隆裁判長は「取引上の優位な立場を利用して販売を妨害し、加盟店に不利益を与えた」として、合計1,140万円の支払いを命じている。したがって、コンビニ本部が見切り販売を制限することはできない。だが、今もなお、見切り販売をするコンビニオーナーは全国で1%程度と見られている(2017年8月26日付 弁護士ドットコムニュース『コンビニFCは「奴隷制度」…オーナー絶望の「搾取構造」に土屋トカチが迫る』)。

土屋トカチ監督の映画「コンビニの秘密」

「値下げしたくても契約解除が怖くてできない」

今回、取材に応じてくれたのは、大手コンビニエンスストアの加盟店を営むPさん、Qさん、Xさん、Zさんの4名。PさんとQさんは見切り販売をしておらず、XさんとZさんは見切り販売をしている。

Pさんに聞いた。

たぶん、みんな値下げはしたいと思うんです。したくないお店さんは、どこにもいないと思うんです。でも、できないんです。

出典:大手コンビニオーナーPさん

なぜできないのか、と理由を問うと、契約更新したいからだと言う。オーナー同士のやり取りで、「あそこの店が更新できなかったらしい」と聞くと、契約を切られてしまうのが怖いのだそうだ。一生働けると思って選んだので、契約は切られたくない。

だが、見切り販売と契約解除は関係ないのではないだろうか。Zさんに聞いた。

契約更新問題と、最近はあまり聞かないけど途中で解約されたという店もある。そういう噂も独り歩きしてるから、みんな、余計に怖がってる。「あそこの店、更新できなかったらしい」と。

ある社員は、そこに理由を付けたりする。「ああ、本部の言うこと、あんまり聞いてませんでしたものね」みたいに。見切りって言わずに、「本部と同じ方向を向いていなかったですからね」という言い方をする。

出典:大手コンビニオーナーZさん

売れ残りの廃棄負担リスクはオーナー100%、本部0%の「コンビニ会計」

Zさんは続けて言う。

本部は(前)会長の好きな言葉で「お客様が、欲しい時に、欲しい数だけ、いつでも揃ってる」状態を想定している。これが「機会ロスをなくす」と言う表現。

何でもそうだが、いっぱいあったら絶対売れる。お客さんが「あれ欲しい」と思って、それがあれば売上げも上がる。本部としては1個でもたくさん売れて欲しい。売り外しのない発注をして欲しい。まずここが一番。

二番目に、廃棄についてはお店が100%負担なので、たくさん入れて(発注して)もらって、本部が腹を痛めることは何もない。ゼロ。ノーリスク。リスクは100%お店の状態で売上げを作る。

出典:大手コンビニオーナーZさん

廃棄になった商品は、仕入れてなかったことにされる。引かれちゃう。ということは、仕入れ原価が小さくなるから、余分に(見かけ上)利益が出てしまう。数字のマジック。

余分に利益を膨らませて、そこからチャージを取る。それがあるから、本部は、たくさん仕入れて欲しい。ノーリスクで、なおかつ、利益が膨らむから本部は儲かる。

出典:大手コンビニオーナーZさん

この仕組みのことを「コンビニ会計」と呼ぶ。売れ残りの原価は、実際には店舗オーナーが払っているが、無かったことにして計算され、粗利益が算出され、そこから本部とオーナーの取り分が決まる(たとえば6:4など)。 

参考記事:

「こんなに捨てています・・」コンビニオーナーたちの苦悩

参議院議員/日本共産党 たつみコータロー氏制作の資料より抜粋(事務所承諾済)
参議院議員/日本共産党 たつみコータロー氏制作の資料より抜粋(事務所承諾済)

「1日2万(1ヶ月60万)くらい廃棄出してる」

Qさんにも聞いた。

廃棄?1日2万くらい出てる。(1ヶ月60万円くらい)

(見込みは)難しい。読めない。何年経ってもわからない。

出典:大手コンビニオーナーQさん

廃棄金額としては、PさんもQさんも、1ヶ月あたり60万円以上を廃棄している。日本人のサラリーマンの平均月収を超えている。

何かいうと、コンビニがいい、みたいに、みんな(コンビニ)作り出すけど、そんないい商売じゃないって。

コンビニで、そんな、どんどん、みんなが儲かったら、世話ないって。そりゃあ、いいとこ(店)見たら、いい人はいいだろうけど。逆の、反対側の悪いところ(店)見たら、もういつ倒れるか分からないような、ふらふらしてるところがいっぱいある。

出典:大手コンビニオーナーQさん

Qさんは、すでに次の後継者に店を譲りたいとのこと。高くも低くも望まず、普通に生きたい、とのことだった。

「税理士が目を剥いた」

Zさんと同じく見切り販売をしているXさん。開店当初はコンビニ会計の仕組みも分からず、初めての確定申告の時、地元の自治体が開催した、無料の税理士相談に行って、損益計算書を見せた。そうしたところ、税理士が「こんな会計、あるんですか」とびっくりしたと言う。そこで、売れ残り原価が100%店舗オーナー負担になってしまうコンビニ会計の仕組みに気づいたとのこと。

その利益は本部さんに集中しているんです。

出典:大手コンビニオーナーXさん

Xさんの店舗を訪問させて頂いた。全国の店舗オーナーに配られている、バーコード読み取りの機械を商品にかざすと、販売期限が出てきて「廃棄」の指示が出る。

Xさんの店舗で使用している機械(筆者撮影)
Xさんの店舗で使用している機械(筆者撮影)

これを、Xさんは、賞味期限・消費期限のギリギリまで、値引きしての見切り販売をしている。馴染みのお客さんの中には、「(もったいないことしないで)いいことをしてる」と褒めてくれる人もいると言う。年配のそのお客さんは、いろんなコンビニに買い物に行っているそうで、賞味期限・消費期限ギリギリまできちんと売っている店がほとんどない、と語り、「よくやってるね」という趣旨のことを言ってくれたそうだ。

なお、大手コンビニ3社の本部に取材した記事はこちら。

販売期限切れの弁当はどうなる?コンビニオーナー座談会でわかった「寄付は絶対しない」の理由とは

「欠品してても喜んでお客さん来るコンビニもある」

見切り販売をしていないPさん、Qさんのうち、Qさんは既に引退モードなので、現状を変えようという意思はないように感じられた。一方、Pさんは、欠品をしてても地域シェアナンバーワンのスーパーの話を筆者から聞いて、自分の体験談を語ってくれた。

スーパーが、欠品してても喜んで来てくれるっていうのが確かに(ありました)。あるオーナーさんのお店も、毎回、行ってたんですけど、ちょっと欠品あったんです。でも、お客さんいっぱい来てて。

なんでかって言うと、店長や、オーナーの接客が好きで来てたんだなあって。オーナーさんが辞めてからお客さんが離れてるという話を地元の人から聞いてたんで。そういうのもやっぱり大事だなって。

(自分は)「欠品怖い、欠品怖い」だけが、すごくあったので。

出典:大手コンビニオーナーPさん

本当ならば捨てたくない、という気持ちが伝わってきた。ただ、多くのオーナーが言うように「環境のことなんかより生活の方が大事なんだ!」というのが本音だろう。

農林水産省が設定したコンビニの廃棄物発生抑制目標は「売上げ100万あたり44.1kg」

農林水産省は、食品業界ごとに、食品廃棄物の発生抑制目標値を定めている。コンビニエンスストアは、売上げ100万円あたり44.1kgの削減が数値目標だ。

農林水産省の食品産業 発生抑制目標値(農林水産省発表資料に基づき筆者がパワポ作成)
農林水産省の食品産業 発生抑制目標値(農林水産省発表資料に基づき筆者がパワポ作成)

誰か一人だけが得する社会でなく、お客さんもオーナーも全員が得する社会を

世界の目標としてSDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標)が発表され、17の目標のうち12番で、2030年までに小売と消費者レベルで食料廃棄を半減することが決まっている。SDGsの基本原則は「だれ一人取り残さない」。途上国を想定した言葉だが、一つの国の中でも言えるのではないか。

SDGs(国連広報センターHPより)
SDGs(国連広報センターHPより)

これからもコンビニで買い物をし続けたいし、作った食べ物の背後にある命を無駄にしたくない。働いている人の心身の健康を守ることもSDGsの目標の一つだ。

Zさんはこう語る。

(前略)すごい売上げは作っているのに、豊かじゃない、関わっている人が。配送も、もちろんそうだし、お店もそうだし、工場もそう。みんなが豊かになっていない。ここ、すごく悲しいとこ。

みんなで、もっと利益を優先させるような発想で、あるいはゴミを出さないような発想でやって行くと、みんなが豊かになるはずなのに。

出典:大手コンビニオーナーZさん

コンビニで捨てられる食べ物が少しでも少なくなり、みんなが豊かになる社会を作る、その一助になりたい。

<追記>

今回の取材対象者の方より補足情報を頂いた。

2009年6月以降、取材対象者の加盟店本部より全国のオーナーに向けて「廃棄金額の15%は本部が負担する」との申し出があったとのこと。これについては契約条項変更に該当するため、全国のオーナーに署名・捺印が求められ、ほとんどのオーナーがそれに了承した、と伺った。

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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