販売期限切れの弁当はどうなる?コンビニオーナー座談会でわかった「寄付は絶対しない」の理由とは
コンビニでは毎日大量のおにぎりやお弁当が廃棄されており、全国で一日あたり384~604トンの食品が廃棄されているとみられている。商品棚から下げる段階ではまだ消費期限は切れていない。流通しているほとんどの食品には、賞味期限や消費期限の手前に販売期限があり、販売期限が来ると棚から撤去されるのだ。これらのおにぎりやお弁当はどこへ行っているのか。今回、大手コンビニオーナー11人による座談会を実施し、その行方を取材した。
今回の取材対象オーナーの一部は、従業員や常連客にあげたりしてなるべく量を減らしており、その後は、事業系一般廃棄物として、市町村の指定する業者に引き渡す事例がほとんどで、それらは焼却処分されていた。大手コンビニ本部はリサイクルの実施をうたうが、ある大手コンビニチェーンでは、リサイクルを実施している店舗数が全体の20%以下にとどまることがわかった。米国やフランスでは行われているフードバンクや施設などへの寄付なども進んでいない。
常連客や従業員にあげた後はごみとして処分
今回、取材に応じてくれたのは、西日本でコンビニエンスストアを営むCさん、Pさん、Xさん、Qさん、Zさん、Yさん、Wさん、Vさん、Lさん、Nさん、Gさんの11名。
彼らによると、最も多い処分方法は事業系一般廃棄物として、業者に引き渡すことだという。今回の対象オーナーは全員が見切り販売をしているため、処分費用は割安で、費用は月に17,000円台~34,000円台だった。処分費用は自治体ごとに異なるという。
多くのオーナーが口をそろえるのは、販売期限が切れる直前の商品を値下げして売る「見切り販売」をすることで、廃棄量を大幅に減らせたということだ。コンビニでは、見切り販売するより、廃棄するほうが本部の利益が多くなる仕組みになっているため、見切り販売を推奨していない。なぜ、廃棄するほうが利益率が高いのかについては、こちらの取材記事に詳しくまとめている。
参考記事:
Pさんは、「1日売価にして2~3万円(重量にして20~30kg)を捨てていた」と証言する。それが、見切り販売をするようになって、「1日の廃棄量を売価1万円分ぐらいに減らせるようになった」と話す。ほかのオーナーもほぼ同じで、少ないオーナーの場合は一日数千円レベルまで抑えられると証言し、見切り販売をしたことで食品ロスが大幅に削減されていることがわかった。
さらに、Wさんは「従業員にあげていた」と話す。本部からは、従業員にあげると、従業員が買ってくれるはずの売り上げが立たなくなるとし、あげないよう指導されていたというが、「捨てるのも大変だし、まだ食べられるものがゴミ箱に放りこまれていくのに抵抗がありました。人気があるものとかは従業員さんにお渡ししていました」と説明する。
Cさんは知人にもあげていたと証言する。「コンビニを始める時に、あるお店に行って、オーナーさんがおにぎりを足で踏み潰して、『こんなのはごみ、こうやって処分するんだ』っていうのを見せられたけど、私にはできなかった。それで、従業員さんに持って帰ってもいいよと言ったのですが、まだ余る。だから、以前の取引先の人、知人に、ロスを取りに来ないか呼びかけて配っていた。もちろん家族でも食べた」
Yさんも、10年近いつきあいの人、親しい人にあげていると話す。相手が常連客の場合もあると言い、その際は「要らなかったら捨ててくださいね」の一言を添えているという。
ただし、今回の対象者のうち3名は、「けじめがつかなくなるので、従業員やお客さんなどには一切あげていない」と回答した。
リサイクル工場に送るオーナーもいる
今回の座談会の中にはいなかったが、食品リサイクル工場に送って処分する、という方法を選ぶオーナーもいる。
京都府京都市内にある食品リサイクル工場「エコの森京都」を取材した。関西最大級の食品廃棄物リサイクルシステムが設置されている。京都府内はもちろん、京都府外からも広く食品廃棄物を受け入れ、飼料や肥料に再生化している。15年前には一日10トン程度の食品廃棄物を処理していたが、環境配慮の機運を受け、現在は一日平均80トンを処理している。特に京都市は、ごみ半減のための条例も施行し、積極的にごみを減らしている。
エコの森京都では、まず受入ホッパーに食品廃棄物が集積され、家畜などの飼料へ再生するラインと、肥料などへ再生するラインとに分けられる。
その後、天麩羅を揚げる原理を利用したシステム「油温減圧乾燥システム」を使い、食品廃棄物に油分を混合し、減圧下で熱して速やかに水分を蒸発させる。
食品廃棄物は、水分を含んでいるので、水分を分離させるのだ。ここから油を除去し、固形化し、粉砕して再資源化される。再生された飼料は、商社に販売され、エコフィード飼料(食品残渣を加工した飼料)として、大手飼料メーカーで利用されている。
食品の中には、コンビニのブランドやロゴマークのついたものも、パッケージのままで廃棄されているのが散見された。コンビニから出される食品が、まったくリサイクルされていないわけではないようだ。京都市では、市が助成しているので、食品関連事業者の負担は、その分だけ安くなる。
リサイクルは実際には進んでいるとは言いがたい
ただ、座談会の出席者で食品リサイクルに廃棄する食品を出しているオーナーがゼロだったように、コンビニ自体に食品リサイクルが浸透しているとは言いがたい。
大手コンビニチェーンのファミリーマートは、食品廃棄物の再利用の取り組みについて公式サイトで紹介し、食品リサイクル率は50.5%(2015年度)だと公表している。
本部に取材したところ、生ごみ回収の仕組みを使っている店舗は2017年7月現在で、全店舗17,969店舗中、3,675店舗にとどまっていると回答した。同社の担当者は「個別に店舗訪問して、ゴミを分けて回収しなければならないし、その物流網を作らなければならない。トラックも、ある程度(の対象店舗)が集まらないと、効率良くまわることができないので、今その仕組みづくりをやっているところ」だと説明。さらに、サークルK・サンクスとの経営統合により店舗が増えていることから考えても、食品リサイクルを全体に広げるのは難しい面があると強調した。
販売期限切れ食品についてのリサイクル率は、これからも上昇していく余地があるが、ファミリーマートでは、フライドチキンなどの揚げ物に使われた廃食用油は100%、リサイクルされている。したがって、生ごみ回収の仕組みに関する実施店舗数は全体の20%程度だが、廃食用油を含めた全社のリサイクル率としては50.5%という数字が出ていると推察される。
大手コンビニエンスチェーンのセブン‐イレブン・ジャパンは、食品リサイクル率が52.4%(2015年度)。公式サイトで『販売期限切れ商品を適正に回収・処理する「エコ物流」を1994年から運用しています』とうたっている。本部に伺って担当者に直接取材したところ、「エコ物流」とは、市町村ごとに、その地域で最も優れた廃棄物収集運搬業者を店舗に推奨する仕組みのことだそうで、食品リサイクルだけでなく、焼却処分も含んでいる。
出店地域の約7割で実施をしていて、そのうち約8割はセブン‐イレブン・ジャパンが推奨した業者を使っている。しかし、食品リサイクルをしている業者を使うよう勧めてはいるものの、どの業者を使うかは、最終的にオーナーの判断になる。また食品リサイクルを選択することによって処分費用が高くなる分はオーナーが負担することになるため、業者の選択は強制することはできないという。
取材をしたオーナーたちは「エコ物流なんて聞いたこともない」と話していたが、本部の担当者は「オーナーさんに対し、適正な業者を勧めることを『エコ物流』と呼んでいることは、認知されていないかもしれない」と話していた。
廃棄物の発生抑制が充分行われていない
食品リサイクル法では、「3R(スリーアール)」のうち、「Reduce(廃棄物の発生抑制)」が最優先となっており、次いで「Reuse(再利用)」「Recycle(リサイクル)」の順になっている。食品を製造する時点で、大量の原材料と資源、電力や水が使われている。リサイクルは、さらに電力や水、コストがかけられる。その手前のところで廃棄物自体の発生を抑制するのが優先ということだ。
今回の座談会では、Xさんが販促費などという名目で、いわゆる「廃棄補填費」が本部から出されていると証言した。
Xさんによると、「廃棄補填が出るので、パンだけでも4〜5万円の補填があり、期限が来たらすべて棚の商品を入れ替えているときもあった」という。販促費と言っても「宣伝」にかかる費用などではない。10万から15万円、廃棄の補填を本部が出してあげるから、売り場をにぎやかにしてください、ということを示しているという。「チャレンジ予算」というのもあり、「新発売のこれを何個いれましょう」という予算だそうだ。これでは食品リサイクルを多少進めたところで根本の解決につながらず、いつまでたっても食品ロスを減らすことができない。
本当に販促費という名目で廃棄補填費が支払われているのか。これについて、Xさんの属するセブン‐イレブン・ジャパン本部に確認したところ、『販促費という名目で廃棄補填費を出すことはない』との回答だった。ただ、本部の役割として「不良品(廃棄ロス商品)原価相当額の15%を負担している」といい、2017-2018年度の会社説明資料にもその旨が記載されていた。
なぜ食べ物に困っている人へ寄付されないのか
コンビニの販売期限切れ食品の多くは、焼却処分されている現状が見えた。食品ロスの問題では、「必要としている人へ寄付したらどうか」という議論になることが多い。焼却処分されているのが大半であれば、寄付できるに越したことはない。しかし、現実にはなかなかうまくいかない現状がある。
横浜市のさなぎの食堂は、2007年以降、大手コンビニから食品を受け取り、生活困窮者向けの定食の一部などとして提供していた。しかし、2017年春から休業している。過去に一度取材したことがあり、今回、休業している理由を取材しようと試みたが、連絡がつかなかった。
2016年2月16日、西日本新聞は、福岡県が2016年度、コンビニから消費期限が迫ったパンや弁当などを譲り受け、支援団体やNPOを通して、経済的に困窮している家庭の子供へ提供する取り組みを始めると報じた。
余った弁当を貧困児童に 福岡県がコンビニ、NPOと連携(西日本新聞 2016年2月16日付)
福岡県は、コンビニ1店舗あたり20万円の助成を決定し、県内13店舗分として、260万円の事業費を計上したという内容である。
これについて福岡県に問合せしたところ、この事業は実施されなかったとのことだった。食品衛生法上、リスクが生じるということで、実現できなかったという。実際、この報道後、市民からは賛否両論寄せられた。意義がある、と、事業を認める声とともに、「売れ残り」食品を寄付することが、困窮家庭の子どものプライドを傷つけたり、いじめの原因となったり、差別や偏見につながったりするのではないかと危惧する声も聞かれた。また、栄養バランスが必ずしも充足しているわけではない弁当を成長期の子どもに与えることの影響を懸念する声もあった。
今回の座談会でも、一部のオーナーからは「そんなことをやるのはリスクが高過ぎる」「フードバンクは、あくまで日持ちをする食品を扱うだけで、弁当とかは違う」と、否定的な声が聞かれた。コンビニの余剰食品に関する報道では、必ずといっていいほど「困っている子どもに寄付すればいいじゃないか」という声があがるが、現実は、そう簡単にはいかない。
余剰食品を寄付する仕組みが法整備されている米国 フランスは給食の残りを寄付
私が以前勤務していた食品メーカーは、米国に本社があった。その米国本社では、これまで30年以上、米国のフードバンクに寄付している。米国では、寄付すれば税金が控除されるという税制優遇があるためだ。また、万が一、寄付した食品で事故が起こったとしても、善意でおこなった行為に対しては責任を問わない「善きサマリア人(びと)の法」という免責制度がある。
米国には、余った農産物を国が買い上げ、国内のフードバンクなどに寄付できる法律もある。また、フードスタンプといって、生活に困っている人がスーパーなどに持っていくと、アルコールや嗜好品を除く飲食物と交換してもらえる制度もある。余剰食品を、捨てずに活かす法制度や仕組みが、日本よりも整っている。
また、2017年2月に視察で訪問したフランスの農業省では、学校給食や社員食堂の残りを福祉施設などに寄付する活動についてうかがった。給食の寄付により、食品ロスの削減につながるだけでなく、普段、肉や魚、野菜などを摂っていない困窮者の方たちの栄養バランスがとれるようになるというメリットがあると、担当者の女性は語っていた。
また、小学生などの学生が、給食の寄付をきっかけに、福祉施設を訪問することもあるという。普段触れ合うことの少ない人たちとの出逢いがあり、視野が開かれるとのことだった。日本でいうところの農林水産省の職員が、困窮者の栄養バランスや、子どもたちの視野を拡げるといった教育機会についても語っていることに感銘を受けた。
日本も発想を換えなければならない
日本では、コンビニオーナーが善意で販売期限切れ食品を提供したとしても、そこで食中毒などが発生すれば、食品衛生法上、オーナーが責任を問われる。どの業界でも食品の安全性を守ろうとする意識が非常に高く、反面、リスクが発生しそうなことを嫌う傾向にある。外食店での持ち帰りが、多くの店で禁止されているのもその一例である。もしも食中毒が発生し、客が店を訴えたら、営業停止になり、売上や評判が落ち・・・と考えると、そのようなリスクを冒すくらいなら、いっそ全面禁止にしておいたほうがいい、という考えが働くのだ。
私が3年間広報責任者を担当していた日本のフードバンクでも、寄付を検討していた企業の中には、「転売されたら・・」「もし食品事故が発生したら・・・」などのリスクを懸念する声があった。そのリスクを回避するため、フードバンク側と企業側とで同意書を締結するのだが、それでもリスクをゼロにしようとする「ゼロリスク志向」の会社は、「だったら捨てたほうがまし」となってしまう。特におにぎりや弁当などは集まらなかった。
しかし、そういった考え方も転換が必要ではないだろうか。今回の取材では、コンビニエンスストア本部側でも課題意識を持っていることがうかがえた。セブン‐イレブン・ジャパンは、セカンドハーベスト・ジャパン(2HJ)がおこなうフードバンク活動に賛同し、2017年8月から支援を始めたという。ただ、あくまで改装時などに発生する在庫商品の一部であり、日常的に発生する弁当やおにぎりなどの、いわゆる「日販品」と言われる日持ちのしない食品ではない。
本部の担当者は、「もし日販品を寄付するとなると、セカンドハーベストさんにも温度管理をする設備を用意してもらうことが必要になってくる。それが今の段階では現実的じゃないですね」と説明する。しかし、「チェーン全体でやっていくとなると、確実な仕組みにしていかなければいけませんので、そうなっていった時にいろいろ検討課題があまりに多すぎるなというところで進められてないですけど、社内では検討はしています」と言い、「フードロスは我々もなくしていかないと思っていますし、頭の痛いというか、重い課題だと捉えています」と話した。
フランスの事例からは、たとえ消費期限の短い調理済み食品であっても、寄付する行為が100%できない、ということはないということがうかがえる。食品の安全性に高い配慮をする日本では難しいのかもしれないが、寄付する側を免責にする法整備を今後は検討する必要があるだろう。コンビニではないが、米国に本社を持ち、全国でスーパーマーケットを展開する合同会社西友では、2009年から、総菜などの日販品も含めたフードバンクへの提供をおこなっている。
最もやらなければならないのは棚に並べ過ぎないこと
取材を通じて、コンビニエンスストア本部側と店舗オーナー側で、認識の違いが大きいことも食品ロスを生んでいるように感じた。
取材や、これまでの経験を踏まえると、私は本部とオーナーの間にはヒエラルキー(上下関係)があると思う。オーナーは、フランチャイズ契約を継続するためには本部の意向を尊重せざるを得ず、立場的に下になってしまう。この2者の関係は半永久的に対等になり得ないのではないかというのが率直な感想だ。
今回、本部側が、本部内での努力をしていることは理解できたが、本部の外にある店舗と一丸になって取り組んでいる、とは感じられなかった。本来、同じ会社の「仲間」であるはずなのに、本部と店舗との間に乖離があるように思えた。たとえばセブン‐イレブン・ジャパン本部が公式サイトでうたう「エコ物流」について、取材対象者のオーナーが全員「エコ物流って何?」「ホームページで見たけど、どこの店舗でやっているのか、逆に本部に取材して聞いてきて欲しい」などの声を聞いたことからも、それは感じられた。
コンビニエンスストア本部は、取材に対し、「オーナーが大量発注して店舗にたくさん商品を並べることをよしとする」考えはない、と否定した。しかし、オーナー側は、日常的に商品をたくさん並べるよう指導されているという。適正に売り切れる量を店に納入するのが最善であるという意識を両者で揃えられれば、食品ロスは大きく減るだろう。
本部が、本部の中(=オフィスの中)だけで努力するのでなく、外に出て、店舗のオーナーさんと話し合って、あるいは現場をみて・・、本部側がオーナー側に歩み寄る姿勢が必要ではないだろうか。限られたごく一部の店舗では見切り販売をして廃棄を減らしているし、別の店舗では見切り販売以外の対策によって減らせる可能性もあるかもしれない。今日できるところから、店舗での対策が、今以上に進んでいくことを望んでいる。
撮影:島田幸治
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