51歳からのチャレンジ 再びラーメン店の暖簾を掲げた男
煮干醤油ラーメンの新店が千葉にオープン
千葉県千葉市の郊外に新しいラーメン店がオープンした。店の名前は『煮干拉麺専科 慶雲海(けいうんかい)』(千葉県千葉市中央区生実町2524-1)。店名の通り、煮干しラーメンの専門店だ。
店主の長谷川英雄さんは、千葉市内の人気ラーメン店『海空土』(千葉県千葉市)での修業を経て独立。同じ『海空土』出身者が営んでいたラーメン店が移転するのを機に、その店舗の場所をそのまま譲り受けて開業した。
10月14日にプレオープンした後、2ヶ月近くの試運転を経て12月10日にグランドオープン。プレオープン期間中から地元客やラーメン好きの間で話題になり、早くもお昼時などは行列が出来るほどの人気店になっている。
老舗の味を受け継ぐ東京煮干醤油
ラーメンは修業先の味と同様、煮干しの旨味が凝縮された正統派の煮干醤油ラーメン。修業先の『海空土』は柏の老舗『大勝』(千葉県柏市)出身。さらに『大勝』のルーツは、1955(昭和30)年創業の老舗『永福町 大勝軒』(東京都杉並区)。『慶雲海』は伝統の東京煮干醤油ラーメンの味を受け継いでいるのだ。
鳥取産大山鶏をベースに、千葉県産をはじめとする国産煮干しを大量に使用したスープは、化学調味料や添加物を一切使わずに仕上げた。前日のスープを元に新たな材料を継ぎ足して作っていくことで、味に深みが増していく。
醤油の深いコクと香りが広がり煮干しがしっかりと効いた和風スープに、しなやかな食感の細麺が合わせられている醤油ラーメンは、しつこさが一切なくまろやかで優しい味わいで、老若男女幅広い人たちに受け入れられる味になっている。
もう一度ラーメン店をやってみたい
実は長谷川さんは、以前一度ラーメン店を営んでいた。2000年に『麺工房 しろきや』を千葉市内に創業。自家製麺が評判で県内外から多くの客が訪れる人気店だったが、店の周辺の環境が変わり客足も落ち、2016年に断腸の思いで閉店。その後、和食店で働いていた時に旧知の仲だった『海空土』の店主、楠田賢一さんに声を掛けられた。
「もう一度ラーメン店にチャレンジしたいという思いはあったのですが、16年続けてきたラーメン店を一度やめた時に、緊張感が一回途切れてしまったんです。そこから自分の気持ちを再び鼓舞するというのはパワーが要ることで。そんな時に大将の楠田さんに『やってみれば』と言われ、楠田さんの下でもう一度ラーメンの基礎から学ばせて頂けるということで、再びやってみようという気持ちになりました」(煮干拉麺専科 慶雲海 店主 長谷川英雄さん)
長谷川さんと楠田さんは同時期に千葉でラーメン店を開業し、共に切磋琢磨しながら千葉のラーメン界を盛り上げてきた同志のような間柄でもあった。楠田さんに背中を押される形で、ラーメンの世界へと戻ってきた長谷川さん。『海空土』で3年間の修業を経て、新しい味と新しい屋号で再び自分の店を持つこととなった。
「以前のラーメンと違い、今回のラーメンは化学調味料を使わず、大量の煮干しが軸になっているスープです。自然のものなので同じ産地や同じ箱の煮干しでも毎日状態が異なっている中で、いかに味を組み立てていくか。スープの状態を見ながら毎日仕込み方を変えていく。それがラーメン職人としてやりがいのある楽しさでもありますし、難しいところでもありますね」(長谷川さん)
間違いのない味を出し続けていきたい
これまでの豊富な経験から色々と引き出しを持つ長谷川さんだが、メニューはラーメンとつけめん、餃子にご飯ものとシンプルで、かなり絞った印象を受ける。色々とメニューを揃えることは出来たはずだが、なぜメニューを絞ったのだろうか。
「やはり間違いのない味を出したいという思いが一番です。大将の下で教わったラーメンをまずはしっかりと出し続けていきたい。兄弟子の皆さんのお店もどこも美味しいですし、僕は一番の若輩者なので大将や先輩たちに恥をかかせないようなラーメンを作らなければなりません。その中でうちの店ならではの、何か光るものが加えられたら良いなとは思っています」(長谷川さん)
毎年多くの新しい店がオープンし、ほぼ同じ数の店が閉店していく厳しいラーメン業界。30歳で自身のラーメン店を創業し、断腸の思いで暖簾を畳んで早5年。再びラーメンの世界へと帰ってきた長谷川さん。51歳からの再チャレンジが始まった。
※写真は筆者によるものです。
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