営業の「2030年問題」 プレイングマネジャーが生き残れない理由と営業DXの役割【法人営業大学】
営業の「2030年問題」について私見を披露する。ポイントは「プレイングマネジャーの時代が終わり、マネージングプレイヤーの時代となる」ことだ。
もちろん単なる「マネジャー」は絶滅する。
2030年問題をご存じだろうか。業種・業界、規模に関係なく、日本企業にとって大きな問題に直面する。それが深刻な人材不足である。
国内人口の3人に1人が65歳以上となり、労働人口は現在よりも650万人ほど減る。日本企業の50%以上が「人材不足」に陥るという調査結果もあり、企業の半分近くが「栄養失調」のような状態になるのは確実視されている。
(※パーソル総合研究所の「労働市場の未来推計2030」より)
私は営業コンサルタントとして20年近く活動してきた。そのうえで、今後の営業組織のあり方、組織マネジメントのやり方について、どう変わっていくのかを考えていきたい。
冒頭に紹介した通り、間違いなくマネジャーの役割が変わるだろう。というか、そもそもマネジャーという役割は存続しなくなると考えている。なぜか? とくに10~50人程度の営業職を抱える中小企業に向けて解説したい。
■なぜ営業はAIに置換されないのか?
深刻な人材不足による「営業の2030年問題」。営業組織で考えた場合、具体的にどんな問題が考えられるか?
マーケティングとセールス(営業)で考えると、AIの進化によって置換される可能性が高いのは、断然マーケティングの分野である。
実際に「マーケティングオートメーション」等が高度なAIを実装していけば、とくに法人営業における「見込み客獲得」を人間に頼る機会は減っていくであろう。人材不足を補えるだけでなく、精度も大幅にアップする。
どのお客様に、どのタイミングで、どのようなプライスの商材を提案すればいいか。この「戦略」に関しては、DX推進によって生産性が上がっていく。
しかし、人間の意思決定に近付けば近付くほど「生の人間」が影響を与えるのだ。人間は「論破」されることが嫌いだ。理にかなっていれば、確実に従うかというと、そんなはずはない。
もしそうなら、なぜ企業の不祥事はなくならないのだ。なぜ企業は不祥事を隠そうとするのか。なぜ経営者は外部コンサルタントの言うことを聞かず、部下も上司の指示に従わないのか。
「傾聴」が必要と言われて久しい。理由は、相手と関係を構築するためには、まず自分の言い分を受け止めてほしい、自分の頑張りを承認してほしいという欲求があるからだ。相手が人間ではなくロボットであれば、そのような欲求が芽生えることはないだろう。
お客様も同じだ。
お客様の課題解決に繋がる提案なら、確実に受けるだろうか? そんなことを信じる営業はいない。最終的な意思決定は、機能的な視点はもちろんだが、情緒的な視点がより重要なのだ。
だからこそ、まさに企業競争力は「営業」次第だ。法人相手に営業をしている中堅中小企業は、生身の営業で勝負しないと大企業には勝てないだろう。
したがって、人材不足は大きな打撃だ。デジタルの力で代替できるものではない。
■「マネージングプレイヤー」という考え方について
野球でたとえると、9人も選手が集まらないチームが増えるということだ。試合を成立させたいなら監督やコーチもグラウンドに出なければいけない。
そこで必要となるのは、企業全体の「可処分営業時間」の維持だ。働き方改革法により、一人当たりの労働時間を延ばせないため、一人当たりの「可処分営業時間」を大幅に増やすしかない。
だからマネジャーはもちろん、プレイングマネジャーも全員が「プレイヤー」に戻ることが重要だ。
そのため営業戦略の立案やマネジメント(仮説検証サイクル)はDXに委ね、個人でマネジメントしながらプレイヤーに専念する。このようなスタイルの営業を私は「マネージングプレイヤー」と呼びたい。
■若い営業は本当に「マネジャー」なしで大丈夫か?
おそらく多くの人は、こう思うだろう。
「新人営業とか、経験の浅い営業はマネジャーなしで、大丈夫なのか?」
と。
しかし、大丈夫だ。
ある25歳の営業が、このような不満を口にしていた。
「ある日、突然ミーティングルームに集められて、他社の成功事例を聞かされたんです。そんなことに30分もかけるなんて意味がわからない」
「配布された資料を読めばわかることだし、いきなりその場で意見を求められても、何を言ったらいいかわかりませんでした」
課長の呼びかけで、中堅から若い営業までの8人が集められ、30分近く拘束されたという。しかも一度や二度ではない。こういった日々の出来事に、強い不満を感じるようだ。
「あれで、お客様のところへ行く時間が大幅に遅れました。あんなことやっておいて、生産性を上げろ。残業はダメと言われても、できません」
「私が参加しているオンラインサロンではSlackを使っています。Slackを使えば、サクッと情報共有できるし、活発に議論もできる。職場でもそうしてほしい」
こう訴える。
これまで一般的な営業マネジャーは「目標管理」ではなく「情報管理」しかしてこなかった。だから会議では「進捗の報告」ばかりさせてきたのだ。実はこの姿勢がDX推進を妨げてきた。
■なぜマネジャーは「情報管理」しかしなくなったのか?
そもそもの問題は、ほとんどのマネジャーが自分の役割をわかっていないことだ。マネジャーの仕事は「目標管理」である。どのように目標を達成させるのか。そのための管理がマネジメントである。
おそらく組織が小さなころは、マネジャーも本来のマネジメントの仕事を果たすことができたであろう。
しかし組織が大きくなると、いつの間にか、それができなくなる。
組織の規模に伴って、階層が深くなるからだ。本部長がいて、部長がいて、課長がいる。経営陣の下に、3階層も組織マネジャーがいると、上からの情報を下へ伝達すること。下からの情報を吸い上げて上に伝達することがマネジャーの仕事だと思うようになる。
つまり、いつの間にかマネジャーの仕事が「目標管理」から「情報管理」に変わってしまうのだ。
そう勘違いすると、マネジャーも都合がいい。自分の存在意義を肯定できるからだ。会議で報告させたり、情報共有することで仕事をした気分になれる。
しかし、デジタル技術の発達とともに、その役割はほとんど不要になった。
世の中には、便利なITツールが星の数ほどある。しかるべきタイミングで、しかるべき情報を入力することで、情報資産が蓄積され、それが組織の問題を解決する重要な手掛かりを見つけてくれたりする。
25年以上前のこと。私が日立製作所にいたころに、営業活動を見える化する「SFA/CRM」の設計開発に携わった。このシステムがあることで、営業マネジャーが、
「現状どう?」
「今期の数字はいきそう?」
と部下の営業たちにヒアリングする必要がなくなるのだ。
日々の営業活動で知り得た情報を正しく蓄積することで、商談のどこに問題があるのか? どのようなお客様に何を提案すれば受注する確率が高まるのか? システムが教えてくれるようになる。
昨今は、進化したAIを実装しているため、これらのシステムは精度の高い売上予測までできるようになった。
「目標管理」こそがマネジャーの仕事だと理解している人は、このようなシステムを導入したいと思う。しかし、これまでやってきた「情報管理」が自分の仕事であり、「情報管理」することで「責任」を全うできると誤解しているマネジャーは、このような便利なシステムを使いたがらない。
自分の仕事がなくなるからだ。
■「部下育成」と「マネジメント」を混同してはならない
営業DXが推進されるとマネジャーによる「情報管理」が不要だ。現状のデータに基づいて、どこに問題があり、どのように問題解決すべきか。「仮説検証スキル」さえあれば、営業個人でできる。
経験があったほうが「仮説検証スキル」がアップするかというと、そうでもない。デジタル技術で補えるし、何より経験が多い人間が仮説を立てようとすると、どうしても「確証バイアス」にかかりやすくなる。
都合のいい情報ばかりを集め、都合の悪い情報をスルーしてしまうバイアスだ。無意識のうちにそうしてしまうため、過去の成功体験がある人ほど逃れることが難しい。
部下個人のスキルアップや意識付けは上司の仕事かもしれない。しかしそれを「マネジメント」とは呼ばない。
したがって、今後は、
「現状どう?」
「今期の数字はいきそう?」
と会議でヒアリングする必要はなくなるし、なくさなければならない。
本来のマネジメントである「目標管理」は個人に委ねる。そして営業全体のリソース配分は経営陣がやればよい。「マネージングプレイヤー」の定着により、マネジメントコストを削減し、全員プレイヤーの組織を実現させられるだろう。
このように「営業の2030年問題」を乗り越えるには、DX推進とともに、マネジャーの役割を根本的に見直すことだ。
マネジャーやプレイングマネジャーが昔ながらのやり方で「情報管理」する企業はもう生き残れない。
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