なぜ戦略が戦術より先なのか? 営業生産性をアップする2つのステップ【法人営業大学】
■法人営業で生産性を高めるためにはどうしたらいいのか?
多くの法人営業が生産性アップに苦戦している。
労働時間を削減すれば、その分だけ営業活動が減るし、若手教育もうまくいかなくなる。正しいステップを踏まなければ、工数を減らせば減らすほど業績が落ちていくという本末転倒なことが起こるだろう。
そこで今回は、私の20年に及ぶ営業コンサルタントとしての経験をもとに、生産性向上のためのシンプルな2ステップを提案したい。
まず、多くの営業担当者が優先順位を誤っている、と伝えたい。具体的には、目先の商談に捉われすぎだ。
「なかなか『うん』と言ってくれないお客様をどのように説得したらいいか?」
「お客様の問題を正しく解決するためには、どんな論理的な提案をすべきか?」
私のところにも、こういった相談ばかり寄せられる。
だから商談のシナリオ作り、営業トークのスキルアップ、問題解決型の営業スタイルの追求……等、難しいチャレンジを好むことになる。
「やってる感」「努力してる感」をアピールすることが目的ならいい。しかし残念ながら、努力している割には成果に繋がらないはずだ。とくに法人営業ではそうだ。
稲盛和夫氏の名言を思い出そう。
バカな奴は、単純なことを複雑に考える
普通の奴は、複雑なことを複雑に考える
賢い奴は、複雑なことを単純に考える
日本人はどうも「複雑なことを単純に考える」ことが苦手だ。苦労して遠回りすることを美徳と感じているからだろう。遠回りするのならいいが、これからの時代は迷子になって抜け出せなくなることも多くあるはずだ。そうなると、負のスパイラルに陥っていく。
■本当に戦略はあるか?
長い歴史がある会社、高い技術力を保持する会社は、営業戦略を疎かにしがちだ。とくにターゲット戦略である。
・どのお客様(法人)に営業を仕掛け、どのお客様(法人)からの引合いはスルーするのか?
・どのようなシチュエーションで、どんな人(法人の中の個人)にどんなコミュニケーションをとるのか?
この2つのうち、前者が「戦略」であり、後者が「戦術」だ。歴史が長い会社、技術力が高い会社は、総じて「引合い」が多い。あまりにブランド力が高いと「引合い依存」になっていく。問合せや紹介が多い会社ほど「戦術志向」になり、
・戦う技術(営業スキル、営業シナリオ、営業プロセス)
にばかり焦点を合わせてしまう。
結果としてマーケット感覚を養えずに、いざという時に業績が悪化する。外部環境の変化についていけないからだ。
■営業の生産性を高める2つのステップ
それでは、法人営業の生産性をアップするにはどうしたらいいのか? 2つのステップを紹介する。
(1)戦略
戦略とは、何をして、何をしないのかを決めることだ。明確な基準を決めることで「複雑なことを単純に考える」思考が身につく。
営業戦略の基本は、どの市場を狙うか(行くべき先)を明確にすることだ。これは、マーケット全体を俯瞰するズームアウト思考がなければいけない。引合い依存の営業だと、
「行くべき先と言っても、どこに行けばいいかわからない」
と、ついつい口にしてしまうことだろう。これがマズい。
「行くべき先」を決めることは、組織営業をするうえで基本中のキホンだ。決め方も重要だ。過去の経験から決めてはいけない。目標から逆算して基準を決めるべきだ。基準さえ決めて、行くべき先にのみリソースを集中的に投下すれば、シンプルにマネジメントサイクルを回すことができる。
※戦略はマネジメントサイクル(PDCAサイクル)を回すことができるが、戦術は難しい。戦術の仮説検証は、現場でのOODAループを回すことでしかできない。
(2)戦術
戦略を決め、徹底できてからはじめて戦術について考えていこう。
戦術とは「戦う技術」のことだ。営業スキル、営業シナリオ、営業プロセスといった、多くの営業が関心を寄せる要素だ。法人営業の場合は、とくに「会うべき人に会う」ことが重要だろう。
できる限りはやく組織図を手に入れ、どの人がキーパーソンなのか。商談のシチュエーションごとに移り変わるキーパーソンを特定し、能動的に接点を持っていこう。
行くべき先を決めてから、会うべき人に会う
とてもシンプルだが、この順番を間違えてはいけない。
■属人的営業と組織営業の違い(事例)
繰り返すが、行くべき先を間違えたら、どんなにスキルが高くても営業の生産性は上がらない。次の例を見てもらいたい。
<引合い依存の属人的営業>
・500万円の受注
・80万円の受注
・2300万円の受注
・600万円の受注
・120万円の受注
・3200万円の受注
・2100万円の受注
・60万円の受注
・210万円の受注
・130万円の受注
・200万円の受注
・70万円の受注
・合計9570万円の受注
<戦略的な組織営業>
・2300万円の受注
・2200万円の受注
・1600万円の受注
・3200万円の受注
・1500万円の受注
・合計1億800万円の受注
極端な例を書いたが、参考にしてもらいたい。
「引合い依存」の営業スタイルだと、お客様を自分で決められない。だから当然、受注額もコントロールができない。自然と受注の数が増え、受注後の工数も増えることになる。細かい砂を集めて砂の山を作る感覚だ。
しかも目標が1億円だった場合、「引き合い依存の営業」は430万円足りない状態だ。引合いは自分でコントロールできないため、この430万円をどのように作るのか? 引合いが多いときはいいが、外部環境が変化したときには大変だ。受け身の営業活動をしている限り、目標未達成リスクが高くなる。
いっぽう戦略的な組織営業をするなら、攻める先、攻めない先の基準がある(今回は1500万円を基準とした)。もちろん50万円の仕事でも、100万円の仕事も受ければいいが、積極的に追いかけたりはしない。結果的に受注する数は少ないため、受注後の工数も少なくなる。
ただし受注率は確実に低くなる。その分、商談のリードタイムが長くなることも多いだろう。つまり戦略的な組織営業に転換する場合は、必ず長期目線が必要だ(転換したあとは、問題は減っていく)
■言葉の使い方で「待ちの営業」がわかる
先述したとおり、定期的にマネジメントするうえでの指標は戦略がベースだ。組織で決めた戦略、基準、ルールなどが守られているかどうかを、マネジャーが定期チェックするだけでいい。
したがって戦略が決まっていないのに、定例の営業会議をすると、ほとんどが戦術に関する報告確認となるだろう。会議で使われる資料も複雑なものになる。
まさに複雑なことを単純に考えるの正反対。「単純なことを複雑に考える」思考となっている。戦略も基準もルールもないのに定例会議をやれば、会議は自然と長くなる。使われるマネジメント資料も煩雑になる。どんなに優れた営業支援システムを導入しても、優先順位が間違っている限り生産性がアップすることはないのだ。
最後に。「引き合い依存」の営業は、必ず受け身になっていく。だから無意識のうちに「売れる」という表現を口にしてしまう。
「売れるにはどうしたらいいか」
「売れる商品はどこにあるのか?」
「どの業界なら売れるのか?」
こんな具合にだ。
動詞を「売れる」で表現している限り、自責ではなく他責思考になっていく。なぜなら「売れる」の主語は「私」にならないからだ。
しかし能動的に営業をしている人は「売れる」ではなく「売る」という意識が強い。だから主語が「私」になる。「私が売る」という意識が営業としての責任感を植え付け、マーケット感覚を芽生えさせるのだ。営業が「待ち」になってしまったら、やりがいも感じられないし、楽しさも覚えることはできないだろう。
<参考記事>