営業組織を改革するための正しい手順、間違った手順【法人営業大学】
法人営業の組織を改革しようとしたとき、次のような順番でしていくと、間違いなくうまくいかない。改革どころか、いつまで経っても、営業活動そのものが変わっていかないのだ。
(1)ソリューション営業、提案営業力の向上
(2)営業支援システム(SFA/CRM)導入による顧客情報の整備
(3)顧客リストの作成
(4)業務の効率化
それはなぜか? 20年以上、法人営業の組織改革を担ってきた経験をもとに、その理由と、どのような順番が正しいのかを解説していきたい。
法人営業を変えようとしたときに、まず真っ先にやろうとするのが、御用聞き営業からの脱却だ。だから個人個人の提案営業、ソリューション営業力をアップさせようとする。
そのために、ヒアリングスキルや問題解決力をアップするための研修を積極的に行ったり、そのためのマニュアルや営業シナリオ、販促ツールを作り込もうとする。
その次にやりがちなのが、SFA/CRMなど顧客情報を管理するためのシステムを導入することだ。お客様のことをよく知らなければ、適切なタイミングで提案ができないと考えるからだ。
お客様の情報(名刺情報含む)だけでなく、日頃からの接点情報も詳しく蓄積して見える化し、プロセス管理することでチャンスロスを減らせるとも考える。私自身が日立製作所でSFA/CRMの設計開発・導入支援を担当してきたので、その重要性はよくわかる。
さらに、顧客情報が蓄積されていけば、見込み客のリスト作りも容易にできることだろう。SFA/CRMがなくとも、社内に蓄えられた情報を集めたり、展示会などイベントを通じて名刺を集めれば、顧客リストを作ることはできる。
次に着手するのが業務効率化だ。
リストをもとに能動的なアプローチしようとしても、そのための時間がないケースが多い。法人営業では既存のお客様対応がメインであることが多いので、ムリ・ムダ・ムラをなくすために業務の棚卸しをして、業務効率を上げようと試みるのだ。
■なぜ結果が出ないのに満足するのか?
順番はこの通りではないかもしれない。だが、なかなか営業組織を改革できない会社では、だいたいが前出した4つのどれかから始めようとする。
しかし、どんなに努力しても改革が進まない。いつまで経っても期待した結果は出ないし、営業生産性も上がらない。
それでも満足感はあるはずだ。なぜかというと、コミュニケーションスキルを上げようとしたり、情報システムを導入しようとしたり、見込み客を増やそうとしてリストを作ったり、何らかのイベントを開催したり、業務の棚落しをして業務効率を上げようと努力しているからだ。
忙しそうにいろんなことに着手していると、その「チャレンジしている意欲」に人は満たされてしまう。
だが、私は「絶対達成」のコンサルタントだ。いくら頑張っているからといって、目標が達成しない限りは、その努力を評価すべきではない、と思っている。少しばかり遠回りするのならいいが、2年も3年も経っているのにもかかわらず、いっこうに営業活動が変化しないのであれば期待した成果は手に入らない。
■営業活動が劇的に変化しない限り何も変わらない
「地頭力」が高い人なら、もうおわかりだろう。
研修を受けても、仕組みを導入しても、リストを作っても、業務を効率化しても、営業活動そのものを劇的に変えない限りは何も始まらないのだ。
営業活動以外の時間に意識が向いてしまえば、お客様と向き合う時間が減り続けていくだけ。
研修を受けても、問題解決力やコミュニケーションスキルが上がることはない。コミュニケーションはスポーツと同じ。日々の練習や試合で鍛錬されていくものだ。現場に行かなければ、スキル向上は見込めない。
SFA/CRMなどの情報システムを導入しても、ただの日報代わりに使っているのであれば、入力作業の工数が増えるだけ。顧客リストを作っても、作るだけで実際にアプローチしなければ意味がないし、たとえ時間を確保したとしても、
行きやすい先に行って、会いやすい人に会う
ことを繰り返しているなら、何も変化することはない。
ただ、営業が努力しなくても結果が出てしまうことはある。法人営業の「あるある」だ。
もともと「引き合い」が多いのなら、環境が変化することで、また仕事は増えることも多い。だから「結果オーライ」の体質から抜け出せないと、いつまで経っても組織改革はできないのである。
■正しい法人営業の組織改革の手順
それでは法人営業における正しい営業組織改革は、どのような順番で実行したらいいのか?
(1)戦略立案とルール設定
(2)大量行動&大量試行錯誤
(3)戦略とルールのメンテナンス
(4)スキルアップや仕組みの構築
まず最初にすべきは、戦略立案だ。とくに重要なのはターゲット戦略である。「引き合い」が多い法人営業は、このターゲット戦略が曖昧だ。
だから、最初にすべきことは「行くべき先の基準」を目標から逆算して決めることだ。どのお客様には能動的に接点を持ち、どのお客様にはしないのか、組織のルールとして統一する。
(※ただし、時間をかけてはならない。これぐらいの仮説は、1日あれば十分に立てられると覚えておこう)
<参考記事>
■「法人営業大学」生産性をアップする2つのステップ ~引合い依存の営業から 戦略的な組織営業へ~
そして営業時間をしっかりとって、大量行動をするのだ。
何に対しても「時間があったらやる」と言う人がいる。この思考は、営業活動をするうえでも持つべきではない。
「時間がないから、運動ができない」
「時間がないから、読書ができない」
ではなく、
「運動の時間を確保するから、運動する時間ができる」
「読書の時間を確保するから、読書する時間ができる」
が、基本的な考えだ。できない理由が「時間がないから」「忙しいから」と反射的に言ってしまうのはやめよう。
ここで、私が好きな言葉を一つ紹介する。
「決断が条件を整える」
である。条件が整ったら決断する、という発想をしていると、いつまで経っても何も始められない。まずは決断するのだ。そうすると自然と条件が整っていくものなのだ。
■大量の試行錯誤を続ける
もちろん、ただなんとなく大量行動すればいいわけではない。「現場・現物・現実(三現主義)」という言葉がある。
実際に現場に行ってみないことには、わからないことはとても多い。たとえわかっていたとしても、現場に行かないと思い出せないこともある。
だから仮説を立てたらすぐに行動するのだ。しかも大量に、である。そうすることで最初に立てた仮説をアップデートさせ続けることができる。
それに大量行動を続けることで、どのお客様と接触すべきか、誰とコンスタントに会うべきかがわかってくる。
もしわからなければ、お客様に聞けばいい。
組織図を手に入れ、誰に会えばいいか、誰と接触すべきかを、あの手この手で調査し、考えるのだ。保険営業や、車のセールスとは違う。個人宅をまわって呼び鈴を鳴らすような営業活動をする必要はない。
法人営業であれば、相手も「大人の対応」をしてくれる。よほど失礼な態度をとらない限り、邪けんに扱われることは、そうそうないだろう。
どれほど入念に準備し、仮説を立てたとしても、一度も会わない人のことを考えて、その人に合わせた時間に、その人が欲しがっている情報を提供することなどできない。
1回や2回では、なかなか仮説の精度は上がらないわけなので、何度も何度も接触することが重要だ。上司が部下のことをなかなか理解できないのと同じで、営業がお客様のことを理解するのに1回や2回の対話で実現するはずがない。
■戦略とルールを修正し続ける
大量行動を継続すると、当然リストが足りなくなってくる。
ここで初めて、目標達成するには、どれぐらいのリストが足りないのかが判明する。どのようなお客様が、あとどれぐらい必要かがわかってくると、そのようなお客様とどのように知り合うのか? という知恵も湧いてくる。
こうなって初めて、定期的に参加しているイベントや展示会の意義、顧客管理システムの有効性が腹に落ちる。「もっと活用しよう」という気持ちが芽生えるのだ。
どんなに素晴らしい情報システムを導入し、どれほど情報を蓄積しようと、このような知恵が湧いてこない限り、宝の持ち腐れになることが多い。
ここまで来ると、間違いなくコミュニケーションスキルは上がっていくことだろう。
先述したとおり、コミュニケーションはスポーツと一緒。訓練しない限り上達することはない。行きやすいお客様に行って、会いやすい人に会い続けて、はたしてスキルが向上するだろうか?
営業は舞台役者と同じだ。舞台に立って芝居をすることで、どんどん演技力が上がっていくもの。
このような流れで高速に試行錯誤を繰り返し、最初に立てた戦略やルールを少しずつ修正していくのだ。
法人営業を改革するためには、必ず順番を間違えてはいけない。
「引き合い」が多いと、どうしても営業の前工程を疎かにしてしまう。それどころか、そんな活動は営業の仕事ではない、と思い込んでいる人もいるのではないか。
営業活動の大半は、お客様との関係の「構築」か「維持」に費やすべきだ。仕様検討や要件定義、手続き処理などは本来の仕事ではない。オプションのようなものだ。
お客様を安心させ、その気にさせるには、情緒的な要素がとても重要である。頭でっかちになることなく、とにかくまずは営業活動そのものの時間を増やすことだ。このような意識をもって、法人営業の組織改革をしてもらいたい。
<参考記事>