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米国が核攻撃を受けた場合、どこで、どれほどの死傷者が出るのか? ゼレンスキー氏が第3次世界大戦を警告

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 ゼレンスキー大統領が国連総会で演説し、ウクライナ侵攻を続けるロシアを倒すために世界が「団結しなければならない」とあらためて国際社会に支援を呼びかけた。背景には、ロシアと結びつきが強く、ウクライナ侵攻の長期化により食糧やエネルギー価格の高騰の影響を大きく受けているグローバル・サウスの国々から即時停戦の声があがっている状況がある。

 米国内でも共和党議員の中から支援反対の声があがっている。米国民にも「支援疲れ」が見られるようになった。CNNなどが先月行った世論調査によると、回答者の55%が議会がウクライナへの追加支援を認可することに反対している。また、「米国はウクライナを助けるためにより多くのことをすべきだと思うか」との問いに「そう思う」と回答した人は2022年2月時点では62%だったが、先月の調査では48%に低下した。

 しかし、米国やNATO諸国からの支援が得られなくなれば、反転攻勢を続けていても限定的な領土の奪還に止まっているウクライナが苦戦に追い込まれるのは必至だ。また、これからは、エネルギーインフラがロシアにより攻撃のターゲットにされる可能性が高まる秋冬に突入することから、ウクライナが不利な状況に置かれることも懸念される。戦闘が長期化する中、隣国へ逃亡するウクライナ兵も増えているとも報じられている。

 ウクライナが敗北した場合どうなるのか? 国連総会での演説に先立ち、ゼレンスキー大統領は米CBSテレビの“60 Minutes" のインタビューで「ウクライナが敗北すれば、10年後には何が起きるか考えてみて下さい。ロシアがポーランドに侵攻したら、次は何が起きるでしょう? 第3次世界大戦?」と答え、プーチン大統領は第3次世界大戦を引き起こしかねないとの警告を発した。

核攻撃のターゲットになる米国の6都市

 第3次世界大戦に発展した場合、懸念されるのは核兵器の使用だ。ロシアはこれまで何度も核使用の可能性をちらつかせているし、8月下旬に起きた戦術核兵器のベラルーシへの移送や「サルマト」の実戦配備も懸念されるところだ。

 実際、「サルマト」のような米国のミサイル防衛を 「無効化」できる大陸間弾道ミサイルに核弾頭が搭載されて、米国が核攻撃された場合、どこで、どのような被害が起きる可能性があるのだろうか?

 以下のマップでは、核攻撃のターゲットになる可能性がある米国の地点が示されている。

黒い点:核攻撃のターゲットが2000カ所のシナリオの場合に投下されると推定される地点。紫の三角:核攻撃のターゲットが500カ所のシナリオの場合に投下されると推定される地点。
黒い点:核攻撃のターゲットが2000カ所のシナリオの場合に投下されると推定される地点。紫の三角:核攻撃のターゲットが500カ所のシナリオの場合に投下されると推定される地点。

 災害対策の研究をしているコロンビア大学のアーウィン・レドレナー教授によると、ニューヨーク、シカゴ、ヒューストン、ロサンゼルス、サンフランシスコ、ワシントンDCの6都市が核攻撃のターゲットになる可能性があるという。これらの都市には、米国にとって重要な金融、政治、エネルギーのインフラがあるからだ。

マンハッタンではどれほどの死傷者が出るのか?

 では、これらの都市が核攻撃を受けた場合、どれほどの死傷者が出る可能性があるのか? 

 スティーブンス工科大学で核の歴史を研究するアレックス・ウェラースタイン氏は核弾頭の種類や威力とその核弾頭の投下地点での死傷者数のシミュレーションができる「ヌークマップ(Nukemap)」と呼ばれるマップを制作したことで知られるが、この「ヌークマップ」を使ってシミュレートしてみた。

 現代の戦術核兵器は通常10〜100キロトンの威力があるが、例えば、広島に投下された原爆と同じ15キロトンの威力の核弾頭がニューヨークのマンハッタンに投下されるという条件をこの「ヌークマップ」に当てはめた場合、死者数は26万3560人、負傷者数は51万2000人になると推定される(下のマップ参照)。ちなみに、この数は、爆発により生じた、軽度の爆風の範囲内に平均1,647,190人の人々がいると想定してシミュレートされたものだ。

核弾頭の投下のターゲットをニューヨークとし、投下する弾頭を広島に投下された15キロトンの核弾頭として死傷者数を算出してみた。
核弾頭の投下のターゲットをニューヨークとし、投下する弾頭を広島に投下された15キロトンの核弾頭として死傷者数を算出してみた。

半径339メートル内では100%近い人が亡くなる

 また、15キロトンの威力の核弾頭が投下された場合に想定される被害状況も、以下のように示されている。

 火球半径は最大で180m。地上でどのような被害が起きるかは爆発が起きた高度次第。地面に触れた場合、放射性降下物の量は大幅に増加。火球内にあるものは事実上蒸発する。放射性降下物が無視できる最低爆発高度は162メートル。

 重度の爆風により被害を受けるのは爆心地から半径339メートル内。この半径内では、頑丈なコンクリートビルでもひどいダメージを受けたり、破壊されたりする。この半径内にいる人の100%近くが亡くなる。

 放射能の影響を受けるのは爆心地から半径1.2キロメートル内。この半径内にいる人は約1ヶ月後には亡くなる可能性がある。サバイバーの15%は被曝の結果、最終的に癌で亡くなる可能性がある。

 中程度の爆風により被害を受けるのは爆心地から半径1.67キロメートル内。この半径内では、多くの住居が崩壊し、死傷者が多数出る。商業施設や住居で火事が起きる確率が高まり、大きなダメージを受けたビルは火事を広げるリスクが高い。

 熱放射能の影響を受けるのは爆心地から半径1.91キロメートル内。この半径内では、第3度熱傷が皮膚の多層に広がるが、第3度熱傷は痛覚神経を破壊するのでしばしば痛みを引き起こさない。また、第3度熱傷は深刻な瘢痕や障害を引き起こし、切断手術が必要になることもある。

 軽度の爆風により被害を受けるのは爆心地から半径4.52キロメートル内。この半径内ではガラス窓が壊れることもある。核爆発の閃光を見に窓に近づいた人々が負傷する可能性がある。

800キロトンの戦略核兵器が投下された場合、死傷者数は250万人を超えると推定される。
800キロトンの戦略核兵器が投下された場合、死傷者数は250万人を超えると推定される。

戦略核兵器使用の場合、死傷者数は250万人超に

 ロシアは500~800キロトンの威力がある核弾頭も保有していることから、800キロトンの威力の核弾頭がマンハッタンに投下されたと仮定して算出すると、死者数は推定約116万6,000人、負傷者数は推定約140万7,000人にも上る。

 この場合、火球半径は1.15km。爆心地から半径2.02km内にいる人は100%近くが亡くなる。爆心地から半径2.43km以内にいた人々は1ヶ月後には亡くなる可能性があり、サバイバーの15%は被曝の結果、癌で亡くなる可能性がある。

 中規模の爆発のダメージを受ける半径4.25km内では、多くの住居が崩壊し、死傷者が多数出る。商業施設や住居で火事が起きる確率が高まり、大きなダメージを受けたビルは火事を広げるリスクが高い。

 また、爆心地からの半径が9.7km内の人々は熱放射能の影響で第3度熱傷を被り、10.9km内では爆風がガラス窓を破壊する可能性があることから、核爆発の閃光を見に窓に近づいた人々が負傷する可能性がある。

優先的に攻撃されるのは空軍基地

 しかし、核攻撃を真っ先に受けるのは必ずしもこれらの大都市ではないかもしれない。「アメリカ核戦略のロジック」の著者マシュー・ケーニッヒ氏は、ロシアはアメリカの報復能力を抑えるために、モンタナ州やノースダコタ州、ネブラスカ州、ワイオミング州の空軍基地にある核ミサイル格納庫を優先的に攻撃すると述べている。

 この場合、死傷者数は大都市への投下よりも限定的だ。例えば、モンタナ州のマルストローム空軍基地が15キロトンの威力の核弾頭による攻撃を受けた場合、死者数は2,270人、負傷者数は3,590人、ノースダコタ州のミノット空軍基地が同様のクラスの核弾頭による攻撃を受けた場合、死者数は1,750人、負傷者数は1,510人と推定される。

 NATOのストルテンベルグ事務局長は「NATOの目的は、戦争、特に核戦争を阻止することだ。我々は信頼できる抑止力を保有している」と核に対する備えがあると強調しているが、戦争が長期化するほど、アメリカとロシアが直接対決するリスクが高まるという見方もあることから、ロシアによる核使用の可能性については予断を許さないところだ。

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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