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米・ロシアだけではなくウクライナや同盟国もスパイ 米紙 漏洩した米軍事機密文書で明らかになったこと

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 アメリカの軍事機密文書の漏洩問題が深刻化している。4月7日付ニューヨーク・タイムズ電子版は、ウクライナだけではなく、中国、中東に関するアメリカの国家安全保障上の詳細が記載されている別の機密文書もツイッターなどのSNSで見つかったと報じている。

 同紙は4月8日付ニューヨーク・タイムズ電子版で、その詳細について報告しているが、機密文書は慌てて撮影されたもののようだ。折り畳まれてポケットに入れられ、安全な場所で、狩猟雑誌と思われるものの上に置いて撮影されたのではないかと見られている。

 また、同紙は「情報収集は難しく、間違うこともあるものの、この文書は、たぶん、ここ数十年でヨーロッパ本土で起きた最大の戦争の内幕をこれまでで最も完全に描き出している」と述べている。

アメリカはロシアの軍事情報を把握

 機密文書は具体的にどんなことを明らかにしているのか? 4月8日付ニューヨーク・タイムズ電子版によると、アメリカはロシアの国家安全保障に関わる情報機関の情報を把握しており、その情報がウクライナにシェアされていたことが窺える。

 例えば、機密文書には、アメリカの情報機関にロシアの攻撃のタイミングや攻撃の具体的ターゲットに関する警告をリアルタイムに与えていることやウクライナに防衛上重要な情報を伝えることが許されていることなどが示されているという。

 トップ・シークレットと記されている項目では、ロシアが、NATOによってウクライナに供与された戦車への反撃を計画していることやさまざまな砲撃地帯が生み出されること、ロシア兵が同盟国のいろいろな戦車の脆弱性を踏まえたトレーニングを開始していることなどが議論されているようだ。

 また、ロシア国防省が、3月3日にオデッサとミコライウのある地域でウクライナ軍にミサイル攻撃をする計画をしていることを議論していたことや、アメリカの情報機関はその攻撃がドローンの倉庫や防空砲を破壊してウクライナ兵を殺害する攻撃だと考えていたことも示されているという。

ウクライナ軍に対するスパイも

 アメリカはロシア軍だけではなく、窮地に陥っていたウクライナ軍のアセスメントも行っていた。例えば、2月終わりから3月初めの機密文書では、ウクライナ軍の防空用の砲弾が危機的に不足していることが述べられ、バフムート周辺でロシアが勢いを得ていることが議論されているという。

 機密文書は、アメリカが、ウクライナ軍上層部や政治的リーダーもスパイしていることも示しており、スパイしているのは、アメリカ政府が、ウクライナの戦略を明確に把握するのに苦労していたことの表れだと同紙は見ている。

 また、機密文書は、アメリカがロシアの軍事計画を依然として広範囲に渡って把握していることや、アメリカがロシアの今後の軍事作戦について同盟国に警告を与えることができることも記しているという。

同盟国に対する盗聴も

 同紙は、機密文書が漏洩したことにより生じる問題についても懸念している。

 漏洩は、ウクライナの軍事作戦にダメージを与える可能性があるというのだ。ロシアはアメリカが情報を得ている機関がどこかを突き止め、情報の流出を食い止めるために、アメリカに情報を与えている機関を切る可能性があり、そのことはウクライナ戦争に影響を与える恐れがあるという。

 また、同紙は漏洩問題は同盟国との関係に影響を与えるとも見ている。「漏洩は、アメリカの同盟国との関係を複雑化し、アメリカの守秘能力について疑問を提起した」とし、さらに「文書は外交的結びつきを傷つける可能性がある」と懸念している。「機密文書は、アメリカの情報機関が、ロシアをスパイしているだけではなく、同盟国の傍受を行っていることも明らかにしている」としている。

 例えば、アメリカの情報機関は、韓国内部で、ウクライナ戦争用の砲弾をアメリカに供与すべきかどうかに関する議論が行われていたことを把握していたようだ。機密文書には、バイデン大統領が韓国の大統領に電話をして兵器を供与するよう圧力をかけるのではないかと韓国の高官が懸念していたことが記されているという。

 同紙は、アメリカの情報機関が同盟国のスパイも行っていることについて「そのことは同盟国の高官をほとんど驚かせはしないだろうが、傍受が公になったことは重要な同盟国との関係の妨げになる」と問題視している。

 機密文書は約100ページで、同紙はこれまで50ページ以上をレビューしているが、未レビューの文書にどのようなことが記載されているのか? また、バイデン大統領はこの機密文書漏洩問題について、何らかのステイトメントを出すのか? どのように漏洩したかを突き止めるのは難しいという声もあがっているが、漏洩した人物にたどり着くことができるのか? 今後の動きが注目されるところだ。

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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