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米、ロシアの核攻撃に備えてウクライナに放射線センサーを配備か 露前大統領「第3次世界大戦寸前」と警告

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
ウクライナのゼレンスキー大統領は反転攻勢開始を示唆。(写真:ロイター/アフロ)

 ウクライナによる反転攻勢が始まることが予測される中、アメリカが、ウクライナに高精度の放射線センサーのネットワークを配備すると4月28日付け米紙NYタイムズ電子版が報じている。

 放射線センサーの配備により、ウクライナはロシアによる核攻撃や原子力発電所の砲撃により生じた放射性物質を検知したり、核攻撃者のアイデンティティーを特定することができたりするという。

ロシア前大統領、第3次世界大戦寸前と警告

 これまで、ロシアのプーチン大統領は核による威嚇を何度も繰り返してきた。

 4月25日には、ロシア国家安全保障会議副議長のメドベージェフ前大統領も、ロシアが侵略行為に直面したら核兵器を使う可能性があると言及、「世界は病んでおり、第3次世界大戦寸前にある。ロシアは最初に核兵器を使用する可能性がある。敵国はこのことを過小評価すべきではない。ロシアは絶対に核を使わないというのはくだらない憶測だ。西側諸国のアナリストや指揮官らは、我々のルールや考えをただ評価すべきだ」と警告している。西側諸国の識者の多くは、ロシアによる核使用の言及についてはハッタリだとする見方をしているが、それを、真っ向から否定するかのような発言だ。

 懸念されているのは、放射性物質が核使用により拡散されることだけではない。侵攻直後から、ウクライナにある原子力発電所がロシア軍に占領されたり、砲撃を受けたりしたことから、ダメージを受けた原発から放射性物質が拡散される恐れも危惧されてきた。

 核の危機に曝されているウクライナだが、アメリカでもロシアによる核兵器使用を懸念する見方が高まっている。CBSニュースが最近行った世論調査によると、約70%の成人が、ロシアのウクライナ侵攻は核兵器を使用する戦争に繋がる可能性があると懸念している。

ロシアの偽旗作戦を抑止

 放射線センサーをウクライナに配備するのは、The Nuclear Emergency Support Team (NEST)と呼ばれる、米エネルギー省の国家核安全保障局下にある核緊急支援隊。NESTはウクライナ軍のトレーニングを行うとともに、放射線センサーが収集したデータをモニターする。

 放射線センサーは、核攻撃者や核爆発の規模、場所、影響を特定できることから、偽旗作戦かどうかも明らかにできるという。「例えば、ロシアは、ウクライナが西側諸国の軍事支援を引き出すために戦場で核を爆発させたと虚偽の主張をする可能性がある。しかし、放射線センサーが配備されると、アメリカ政府は核の属性を分析し、(ウクライナではなく)実はロシアが核攻撃したことを明らかにすることができる」とNYタイムズは述べている。

 偽旗作戦はロシアの常套手段だと言われている。昨年、ロシアは、何の証拠もなく、ウクライナが放射性物質を撒き散らす「汚い爆弾」を使う計画をしていると主張したが、これは、ロシアによる偽旗作戦だと捉えられた。

 また、5月3日、ロシア大統領府は、プーチン大統領を狙ったウクライナの2機のドローンによる暗殺未遂があったと主張したが、ウクライナ側はドローン攻撃を否定している。これも、意図的に虚偽の情報を流すことで、ウクライナへの報復攻撃を正当化したり、ロシア兵の士気を高めたりするための偽旗作戦の可能性もあるだろう。

 偽旗作戦に訴えるロシアの戦略を考えると、核攻撃者を特定できる放射線センサーはロシアによる偽旗作戦を抑止する役割も果たしそうだ。放射線センサーの配備を知ったロシアは、偽旗作戦が露呈することを恐れて、偽旗作戦を行わなくなる可能性があるからだ。

 放射線センサーの配備についてNYタイムズは「アメリカ政府が、ロシアのウクライナ侵攻による最悪の結果に備えて具体的措置を取っていることを示す、これまででは最も確固たる証拠だ」という見方を示している。

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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