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「プーチンは核を使っても敗北し続ける」元CIA長官 ロシアが核攻撃したら米国はどう対応するのか?

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
核使用による「世界最終核戦争」に危機感を高めているバイデン大統領。(写真:ロイター/アフロ)

 ウクライナ戦争をめぐり、アメリカとロシアの間でこれまでになく緊張が高まっている。

 ウクライナ軍の猛烈な反撃を受けて危うい戦況に直面しているプーチン氏は、核兵器使用は「ハッタリではない」発言に続き、不正な住民投票によりウクライナの4地域を併合し、ロシア領にしてしまった。予備役招集が始まったロシアからは多くの国民が逃げ出しており、プーチン氏の支持率は下降している。クリミア大橋も爆発し、プーチン氏は苦戦する一方だ。

 少年時代、廊下で追い詰めた鼠に襲い掛かられるという苦い体験をしたプーチン氏だが、今、まさに自身が“追い詰められた鼠”となっている。同氏は核で襲いかかるのか?

 そんなプーチン氏に対し、アメリカの国家安全保障アドバイザーのジェイク・サリヴァン氏は「核兵器を使ったら、壊滅的結果を招く」と警告。

 バイデン大統領も「戦術核や生物・化学兵器の使用を語る時、彼(プーチン氏)は冗談を言っているのではない。キューバ危機以来、我々はアルマゲドン(世界最終戦争)の可能性に直面したことがない。事態がこのまま推移すれば、キューバ危機以来初めて核兵器が使用されるという脅威に直面する」と言って危機感を高めている。

 国家安全保障に関わる人々からも状況を懸念する声が高まっている。

「ハッタリではない。彼は戦場で負けている。そのため、ウクライナや西側諸国が敗北するよう威嚇している」(トランプ政権下で国家安全保障カウンシルのスタッフを務めたフィオナ・ヒル氏)

「もし、プーチンが、戦争に負けそうだと切羽詰まったら、敗北する前に、核兵器を使う可能性がある。少なくとも1980年代以来、核が使用される可能性に最も近づいている」(元ペンタゴンのストラテジストで、アトランティック・カウンシルのマシュー・クローニグ氏)

 では、プーチン氏はどのような核攻撃を仕掛けてくる可能性があるのか? 

 米紙ロサンゼルス・タイムズはいくつかの可能性をあげている。一つは、アメリカやNATOの注目を集めるために黒海か遠隔地でデモ爆撃する可能性、二つ目は地上戦の勢いを取り戻すためにウクライナ兵が集中している地域を攻撃する可能性、3つ目はウクライナ政府を打倒しようと首都キーウを攻撃する可能性だ。

核対核にはならない

 では、プーチン氏がそんな核攻撃を仕掛けてきた場合、アメリカやNATOはどのように対応するのか?

 それについて、元CIA長官のデヴィッド・ペトレイアス氏がABCテレビの“This Week"に出演し、こんな見解を示した。

「仮の話だが、我々は、NATOを率いて集団的に取り組み、ウクライナやクリミアの戦場で確認できるロシアの全ての常備軍や黒海の全ての艦隊を殲滅させるだろう」

 ロシアが戦術核を使った場合、その威力は10〜100ktのダイナマイトの威力に相当し、原爆並みの破壊を引き起こすといわれている。そのため、放出された放射能が近隣のNATO諸国にも到達する可能性があるが、それが同盟国への攻撃と見なされる可能性について、同氏は「そうだ、たぶんそうだろう。対応しなければならないほど非常に酷いケースは、無視するわけにはいかない。しかし、対応は拡大しない。核対核にはならない。核で戦況がエスカレートする状況には入りたくないからだ。しかし、(核攻撃は)決して受け入れられないことを示す必要がある」とロシアが核攻撃を仕掛けたとしても、核による反撃には至らないものの軍事的に対応することになるという見方を示している。

 ではどんな軍事的対応になるのか? 

 前述のロサンゼルス・タイムズで指摘されているのが、精密誘導弾頭搭載の長距離ミサイルで反撃するという対応だ。それにより、(放射能が引き起こすような)ネガティブな影響を出さずに、核同等のインパクトをロシア軍に与えることができるという。ロシアの核兵器打ち上げ基地を破壊したり、黒海のロシア艦隊を撃沈したりするのに使うことができるというのだ。

核兵器で反撃しないアドバンテージ

 アメリカやNATOがロシアの核攻撃に対し、核で反撃しないことにはいくつかのアドバンテージがあるという。

 まず、アメリカとロシアが、核による対立がエスカレートした冷戦時代のような状況に置かれることがない。

 また、プーチン氏がウクライナ戦争をNATOとの争いと捉えないようにさせられる。

 また、アメリカとその同盟国は、ロシアが核兵器を使用した場合、核兵器を使用しないという第二次対戦後のタブーを破った唯一の国ロシアに対して、世界的に反ロシアの声を結集することができる。

 さらには、バイデン政権は、ロシアとNATOの直接の闘いを回避するか、あるいは少なくとも直接の戦いを抑えつつ、その一方で、ウクライナにロシアを撃退するための兵器を供給し続けることができる。

 “追い詰められた鼠”となったプーチン氏は核兵器を使うのか? ペイトレイアス氏は今後の戦況をこう予測している。

「どんなに予備役を動員しても、どんなに併合しても、どんなに核で脅しても、プーチンは負けの戦況から抜け出すことはできない。プーチンは現時点ではどうすることもできない。プーチンは敗北し続けるだろう。戦況はプーチンにとってもっと悪化し得る。戦術核を使ったとしても、状況は変わらないだろう」

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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