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ニセモノだった国際信州学院大学による50人無断キャンセルは、何が本当の問題か?

東龍グルメジャーナリスト
(ペイレスイメージズ/アフロ)

偽りのノーショー

Yahoo!ニュースのトピックスにも取り上げられていましたが、<うどん屋「ドタキャン受けた」とTwitter投稿 「気の毒」と拡散したが、店も加害者も架空>で言及されている事件が大きな話題となりました。

記事は以下のような件で始まります。

「50人分の料理を用意したら、ドタキャンされた。国際信州学院大学の教職員の皆さん、二度と来ないでください」――「うどん屋」を自称するアカウントによるこんなTwitter投稿が5月13日夜から話題になり、「気の毒」などと同情が集まった。

出典:うどん屋「ドタキャン受けた」とTwitter投稿 「気の毒」と拡散したが、店も加害者も架空

最近では、よく見掛けられる不幸なノーショー(無断キャンセル)やドタキャンに関する事件ですが、今回に関してはこれまでとは根本的に性格が異なっています。

何が異なっているかというと、ノーショーを行った「国際信州学院大学」も、被害を蒙った「うどんや 蛞蝓亭」も、どちらとも実在していないのです。

最近起きたノーショー事件と酷似

ノーショーにまつわる一連の出来事は、公式サイトを作成したり、Twitterでアカウントを作成して投稿したり、まとめサイトで記事を作成したりして、用意周到に準備されました。

私の推測ですが、おそらく<小学校の教頭によるワインバー貸切25人のドタキャンは他と何が違うのか?>でも取り上げた、数ヶ月前のドタキャン事件がモデルとなっているのではないでしょうか。

ノーショーしたのが学校の関係者であること、飲食店がTwitterに予約のために用意した料理の写真をアップロードしたり、学校名を名指しして怒ったりしたことが似ています。

ディテールも細かく作られていました。信州は、信州そばが代名詞となっているようにそばが有名ですが、ねずみ大根の搾り汁を使った「おしぼりうどん」も郷土料理として知られています。この事件では、そば屋ではなく、うどん屋という設定となっており、そこが逆に実際に存在する飲食店であるという雰囲気を醸しだしているのです。

このように作り込まれたフェイクニュースが、あたかも本物のニュースであるかのように拡散していったことから、識者からはメディアやインターネットのあり方を問う意見が散見され、様々な議論が展開されました。

私は外食産業にとって、ノーショーやドタキャンは大きな問題であると考えており、いくつも記事を書いてきました。

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食を中心に活動している立場からすると、他の識者が述べたり、記事で展開されたりしていることと感じ方がやや異なっています。今回の偽りのノーショー事件は、ノーショーやドタキャンに対して以下の悪影響を及ぼしていると言及しておきたいです。

  • 関心低下
  • 疑心暗鬼
  • 矮小化

関心低下

今回の事件において、多くの方が怒ったり、問題とみなしたりしているのは、ノーショーが捏造されたものであったからです。主張のほとんどは、情報の発信元を精査することが重要であるとか、インターネット時代だからこそ起きうる現代ならではの事件であるとか、フェイクニュースの新しい形であるとか、インターネットメディアやメディアリテラシーに関したものが多いです。

私としては、50人ものノーショーが起きたことが偽りであったという強烈なインパクトによって、実際にはノーショーやドタキャンがあまり起きていないのではないかと、みなさんの関心が薄れることを心配しています。

数十人という大規模なノーショーやドタキャンはさすがに頻発しませんが、4人以下の規模であればノーショーやドタキャンは日常的に起きているのです。ホテル規模の席数の大きなレストランでは週に何度も起きていますし、町場の20席以下の小さなレストランでも週に1回くらいは起きています。

架空のノーショーによって、飲食店を疲弊させるノーショーやドタキャンがしばしば起きているにも関わらず、関心が薄れてしまうのは非常に危険なことではないでしょうか。

疑心暗鬼

今回の事件は、識者などから指摘を受けた結果、愉快犯による創作であると種明かしされました。

こうした嘘が善意ある人々を傷付けたことにより、もしかすると今後は、ノーショーやドタキャンが起きて飲食店がピンチに陥り、オーナーやスタッフがTwitterやFacebookなどのSNSに投稿して助けを求めた時に、今度もまた偽物ではないかと疑って「それなら食べに行ってあげよう」という人が少なくなるのではないかと危惧しています。

SNSでSOSを発信する飲食店を疑いもせず、純粋に救いの手を差し伸べてきた善良な人々が、この事件を機会にしてSOSを疑い、もしもニセモノだったら無駄足になると考え、飲食店に訪れることを躊躇するようになったとしたら、悪い意味で大きなターニングポイントになるでしょう。

これまで通り、ノーショーやドタキャンで困っている飲食店に対して、食べに行こうとする人々が変わらないことを願います。

矮小化

この悪質なフェイクニュースは結局、刑事事件として立件されることはありませんでした。愉快犯たちは法的に罰せられることはないと見越した上で入念に計画したと思いますが、その結果、ノーショーやドタキャンがネタとして消費されたことに対して、憤りを感じます。

「大学による50名の予約がノーショーとなり、うどん屋が損害を被って著しく憤慨してる」ことをエンターテイメントにしてよいものでしょうか。愉快犯はジョークとして創作したと述べていますが、私は決してネタにしてよいものではないと考えています。

その理由は、ノーショーやドタキャンによって被害を蒙り、頭を悩ませている飲食店がいくらでもあるからです。飲食店は明日が分からないような日銭で稼いでいく業種であるだけに、客から予約を一方的かつ不当にキャンセルされることをジョークにしたところで、全く面白いとは思えません。

やや極端な例かもしれませんが、会社員であれば、1ヶ月働いたのに給料が支給されなかったとしたら、洒落にもならないでしょう。客が飲食店を予約する行為は、客と飲食店との契約であるだけに、飲食店がしかるべき準備をしたにも関わらず、客が一方的に契約を破棄する事件がジョークになってよいはずはありません。

ノーショーやドタキャンによって、食べられなかった食材や料理は廃棄されることになります。世界的に問題として掲げられている食品ロスにもダイレクトにつながるだけに、ノーショーやドタキャンの問題は決して軽んじられてはならないのです。

フェイクニュースの意味

ノーショーの事件がTwitterで発信された時は、多くの方が「うどんや 蛞蝓亭」に同情し、「国際信州学院大学」は非常識であると徹底的に叩きました。そして、これが嘘であると判明すると、「国際信州学院大学」を叩く人はいなくなりました。

当然といえば当然の反応ですが、これが嘘偽りであったからといって、ノーショーやドタキャンが毎日どこかで平然と起きていることに変わりはありません。

この嘘偽りの事件を機会にして、もしもこれまで関心を持っていなかった人々が、ノーショーやドタキャンの問題に向き合ってもらえるのであれば、まだ少しは意味があったのではないかとささやかながら期待しています。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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