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春ドラマが露呈したオリジナル脚本の難しさ 説得力&共感性が高いのは1本 ほか都合のいい話ばかり

武井保之ライター, 編集者
『約束 ~16年目の真実〜』(読売テレビ)公式サイトより

春ドラマがほぼ最終回を迎えた。今期の特徴として感じたことのひとつは、「登場人物の記憶喪失設定がかぶっている」とも言われたなか、意欲的なオリジナル脚本のサスペンスが並んだこと。

特異な主人公設定と意外性のあるストーリーで話題になった『アンチヒーロー』(TBS系)のほか、ヒューマンドラマの要素が色濃かった『Believe -君にかける橋-』(テレビ朝日系)、どぎつい韓国ドラマそのままだった復讐劇『Re:リベンジ-欲望の果てに-』(フジテレビ系)、第1話から本筋以外でも話題になった『Destiny』(テレビ朝日系)などは、ネットニュースで取り上げられ、SNSも盛り上げた。

そんななか、サスペンスの王道とも言えるストーリーテリングで視聴者を引き付けていたのが『約束 ~16年目の真実〜』(読売テレビ)だ。

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『アンチヒーロー』になかったカタルシス

『約束』がほかのドラマと異なっていたのは説得力だ。多くのドラマが、物語の起点となる設定そのものにリアリティが乏しく、その後の展開も謎のための“都合のいいストーリー”と感じてしまう点が多かったのに対して、『約束』は終始違和感を抱かせずに、事件の謎と物語の行く末に関心を向けさせた。

ポイントは、“都合のいい話”になっていなかったことだろう。

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『アンチヒーロー』は、自身の利益のためには手段を問わないダークヒーローとして描かれる主人公の根底には正義があることが後半明らかになるが、検事が証拠を捏造し、判事もそちら側に取り込まれているような、周囲に正義がない極端な設定のなかでは、策略を巡らせて敵を欺いても、カタルシスがないばかりか、逆に鼻白んでしまう。

ラストのすべてをひっくり返す逆転劇は、『コンフィデンスマンJP』を思わせるが、同作のようなカタルシスが『アンチヒーロー』にはなかったように感じる。

『Destiny』は、12年にわたる謎の大元になる事件が政財界を巻き込む大規模収賄というわりに起点の罠がチープだったり、主人公の父の自死の動機や大学時代の仲間が亡くなる事故の過程にリアリティと説得力が弱かったりと、ストーリー、演出ともに共感性が乏しかった気がする。

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社会性の高い王道サスペンスだった『約束』

それに対して『約束』は、現実の社会問題を取り込みつつ、時代をまたいで発生した事件と16年前の謎に迫っていく骨太なサスペンスだった。

本作は、地方の閉鎖的な社会のなかで、主人公の回りの登場人物それぞれの過去や苦悩、闇などがさらされながら、地方以外の地域にも通じる複雑な人間関係のあり方や、人の心の弱さに切り込んでいる。

ラストでは、裏の裏の展開があり、真犯人が明らかになるが、その過程も真犯人の正体も、根底の動機も見事だった。真犯人が判明したあとも釈然としなかったドラマタイトルは、終幕の直前でパズルの最後のピースがカチッとはまるように、それまでのストーリーとつながる。

派手さはないものの、社会性の高い王道のサスペンスであり、見応えのあるドラマだった。その綿密に練られたストーリーテリングは、小説としてもおもしろく読めるであろう奥深さがあった。そこもほかドラマとの違いになるだろう。

テレビドラマ的フォーマットの是非

ただ、テレビドラマというドラマティックで映像的おもしろさが求められる側面があるメディアにおいては、地味なコンテンツになるのかもしれない。

『Believe』のようなアクション要素もある人間ドラマの脱獄劇や、『アンチヒーロー』のような大仰な逆転劇、『Re:リベンジ』のような突き抜けた愛憎劇のほうが、テレビドラマ的フォーマットおよび従来のセオリーに則った優秀なコンテンツなのだろう。

しかし、メディアが多様化し、さまざまなスタイルのドラマが生まれている昨今、視聴者の嗜好もニーズもこれまでとは変わっている。

そんななか、おもしろいと感じるドラマの指標になるのは、ストーリーに都合のよさを感じさせない説得力と物語としての共感性の高さだろう。それは時代やメディアのあり方が移り変わっても、ずっと変わらない普遍的なものだ。

春ドラマからは改めてそんなことを感じさせられた。

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ライター, 編集者

音楽ビジネス週刊誌、芸能ニュースWEBメディア、米映画専門紙日本版WEBメディア、通信ネットワーク専門誌などの編集者を経てフリーランスの編集者、ライターとして活動中。映画、テレビ、音楽、お笑い、エンタメビジネスを中心にエンタテインメントシーンのトレンドを取材、分析、執筆する。takeiy@ymail.ne.jp

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