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『スロウトレイン』『朝顔』能登半島地震から1年、命と家族のつながりを映す優しい正月ドラマだった

武井保之ライター, 編集者
フジテレビ『監察医 朝顔2025新春スペシャル』公式サイトより

能登半島地震から1年。平穏な年明けを願うなか放送された新春スペシャルドラマ『スロウトレイン』(TBS系)と『監察医 朝顔2025新春スペシャル』(フジテレビ系)は、どちらも命の終わりと家族のつながりを映しながら、人それぞれの人生を温かく包み込むような優しいドラマだった。

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被災者の苦しみと悲しみに思いを馳せさせる『監察医 朝顔』

『監察医 朝顔』シリーズは、もともと震災が物語に深く関わっている。主人公・朝顔(上野樹里)の母・里子(石田ひかり)は東日本大震災で行方不明になり、父・平(時任三郎)は母を探しながら、朝顔とともにその悲しみを少しずつ乗り越えてきた。

新春スペシャルでは、引退し施設に入る平が現役時代に関わっていた誘拐事件の資料が掘り起こされる過程で、朝顔が2人の幼い娘を育てる現在までのさまざまな家族の出来事が、過去のシーンとともに綴られた。

同時に、死期が迫る平がかつての部下であり、朝顔の夫・真也(風間俊介)に託した家族への思いが明らかになる。父と娘には、それぞれの惜別の念と後悔があり、心優しい父は自分だけが孫の顔を見る人生を送ることに対して心を痛めてもいた。

その父が選んだ人生の終わらせ方は、真也を悩ませる。最終的に真也は、朝顔への気持ちを優先する。困惑する朝顔だったが、父に会いに行く途中に、真也から受け取った父のメッセージを聞き、母を思い出し、父の真意に思いを馳せる。そして、受け入れる。

震災で母を失った朝顔の人生はその後も続いてきた。

朝顔の娘には、いなくなった父の記憶がある。

ひとり先に旅立った母の記憶は、朝顔が娘たちに語り継ぐ。

みんなが心のなかにいるから、家族はいつまでも一緒。

これからもつながっていく。

ひとり先に旅立たざるを得なかった母は、命ある限り精一杯生き抜いた父を待っている。

そして、いずれ朝顔も真也もふたりが待つところへ行く。

そこで再び家族一緒に暮らす。

朝顔と父・平それぞれの人生から、そんなことを思わされた。

ラストで前を向いた朝顔の顔には、優しさと心の温もりがにじんでいた。同時に、朝顔とその家族だけでなく、東日本大震災や能登半島地震による悲しみや苦しみを抱える被災者へ思いを馳せさせた。

ラストシーンから何を感じ、どう解釈するかは視聴者に投げかけられている。そこから次につながる何かが生まれるかもしれない。

涙して笑って涙する心温まる傑作『スロウトレイン』

一方、『スロウトレイン』は両親を突然の事故で失った3人の子どもたち(姉妹弟)の物語。

事故後に幼かった中学生の妹と小学生の弟を育てることに必死になって生きてきた気が強い姉(松たか子)、仕事も恋愛も長続きしない刹那的に生きる妹(多部未華子)、江ノ電オタクで堅実に生きる同性愛者の末っ子(松坂桃李)。

大人になった3人のどこか屈折した人生は、それぞれ両親の死とお互いへの複雑な感情が絡み合っている様が、おもしろおかしく、ときに優しく、繊細に映し出されていく。

本作で描かれるのも、家族のつながりと、それぞれの人生。どこにでもいそうなふつうの男女3人の人生の分岐点からは、人それぞれ感じ方は異なるが、誰もが抱いている“寂しさ”を多角的に描く一方、誰もが平等に迎える人生の終わり=死についても考えさせる。

しかし、重くも暗くもなく、たまに松たか子が大豆田とわ子に見えたりしながら、笑って楽しめるドラマになっている。ラストは、江ノ電に乗るかつての3人の姿に涙させられ、現在の3人の他愛ない会話に笑い、腕を絡ませる姿にまた涙する。

ほっこり心が温まる家族愛の傑作になっている。

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ライター, 編集者

音楽ビジネス週刊誌、芸能ニュースWEBメディア、米映画専門紙日本版WEBメディア、通信ネットワーク専門誌などの編集者を経てフリーランスの編集者、ライターとして活動中。映画、テレビ、音楽、お笑い、エンタメビジネスを中心にエンタテインメントシーンのトレンドを取材、分析、執筆する。takeiy@ymail.ne.jp

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