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“話題作”失速の春ドラマ終盤、最後まで見続けたい5本 今年最注目の配信ドラマ6月スタート

武井保之ライター, 編集者
MBSドラマイズム『滅相も無い』公式サイトより

スタート当初こそ話題性の高い作品が多かった春ドラマだが、終盤に入る現在までにその多くが失速。前期の『不適切にもほどがある!』のように、毎週の放送日前後にSNSやネットニュースを席巻する社会的ヒットは生まれていないのが残念なところだ。

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しかし、おもしろい作品がないわけではない。最終話に向けて、ストーリーの行方を注目しているドラマとしては、『滅相も無い』『季節のない街』『RoOT/ルート』『アンメット ある脳外科医の日記』『約束 ~16年目の真実〜』が挙げられる。

『滅相も無い』『季節のない街』が今期トップ2

とくに『滅相も無い』と『季節のない街』は、ほかを大きく引き離した今期のトップ2だろう。

『滅相も無い』は、現代社会や自身の人生に何らかの思いを持つ人たちの人間ドラマ。そのストーリー設定が秀逸だが、演劇とドラマをかけ合わせた映像演出のほか、70年代アニメふうのオープニングクレジット、クエンティン・タランティーノやデビッド・フィンチャーを思わせる海外ドラマふうのタイトルクレジットなど、クリエイティブの粋を集めたドラマであることを節々から感じさせる。

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山本周五郎の同名小説を原作に、宮藤官九郎が脚本を手がけた『季節のない街』は、12年前の災害によって建てられた仮設住宅でいまも暮らす、ちょっと風変わりな人々の人間模様と悲喜こもごもを描く。

ホームレス親子の子どもの食中毒死や、叔父に性的暴行を受ける姪など、被災者の暮らしの陰の部分もしっかりと映す。本テーマに臨んだクドカン脚本の落としどころに期待と注目が集まる。

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『RoOT/ルート』『VRおじさんの初恋』もおもしろい

『RoOT/ルート』は、2021年に放送されコアな人気を得たTVアニメ『オッドタクシー』のストーリーを、若手探偵コンビの視点から、現実的な人間ドラマとして再構築。アイドルの世界を舞台にした重厚なサスペンスが、ドラマオリジナルストーリーでより生々しさを増して描かれている。アニメを見ていても改めてストーリーに引き込まれる、クオリティの高い人間ドラマになっている。

また、すでに放送終了しているが、NHK夜ドラ『VRおじさんの初恋』がすばらしかった。

人付き合いが苦手で恋愛経験もない中年男性と、頑固で家族と折り合えず孤独な生活を送る高齢男性が、VRの世界で、社会的属性や地位、さらには年齢や性別からも解き放たれる。何のしがらみも障壁もなく、自由になった心には、リアルでは理解できなかった感情が生まれ、それを違和感なく受け入れる。

さまざまな現実の社会問題を投影したリアルとVRの二軸の物語は、双方の出来事や感情が影響し合うことで、人の心の多面性や本来自由である生き方への気づきを促す。多様性や性的マイノリティへの理解や共感を深める作品になっているようにも感じる。

夜ドラは、前期の『作りたい女と食べたい女2』に続いての良作。枠としてのブランドが浸透しつつあり、次作『柚木さんちの四兄弟。』はスタートしたばかりだが期待がかかる。

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『アンチヒーロー』政治家も検事も判事さえも“悪”の極端なストーリー

一方、キー局のゴールデン枠ドラマが冴えない。ネットでは記憶喪失かぶりが話題になっているが、ストーリーそのものが都合良い展開ばかりでツッコミどころ満載だったり、共感も感情移入もしにくい作品が多いように感じる。

期待値の高かった『アンチヒーロー』は、政治家や検事だけでなく、罪を裁く判事までもが不正に手を染める、主人公の弁護士以外に正義がない物語だった。弁護活動の手段を問わないダークヒーロー的に描かれるが、まわりに公正な存在がいないなか、アンチという意味が薄れている気がする。ただ複雑なだけの事件の相関と謎、大仰な芝居の登場人物たちからは、視聴者が置き去りにされているように感じてしまう。

『Re:リベンジ』『Destiny』は、不幸の連続が襲いかかる韓国ドラマのどぎつい愛憎劇フォーマットの日本版という印象。『Re:リベンジ』は、不穏な空気を感じさせる次回予告の映像演出が、ドラマの世界観を象徴していて秀逸。つい引き込まれる。

『Destiny』第8話は、真樹(亀梨和也)が放火の罪をかぶった理由が驚くほど薄っぺらかったり、唐突なガールズトークがあったり、何を見せられているのかと思わされたが、最終話ですべての事件がつながるようだ。説得力のある終わり方になるのか注目される。

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アメリカの暴力と権力を投影する『ザ・ボーイズ』シーズン4

そして、今年最注目の配信ドラマの1本である『ザ・ボーイズ』シーズン4(Prime Video)が、いよいよ6月13日に配信スタートする。

特殊能力を持つ“アベンジャーズ”的なスーパーヒーローたちが、実は企業に管理された私利私欲にまみれる俗物の集団であり、その正体に気づいた一般人のグループである“ザ・ボーイズ”が、彼らの悪事を暴き、その本性を白日のもとに晒そうとする戦いを描く本作。ブラックユーモアとバイオレンスがあふれる人間ドラマだ。

これまでにシーズン3まで配信されており、エミー賞での作品賞ノミネートのほか、同賞テレビ映画スタントコーディネーション賞を受賞。世界的にコアなサブカルファンに大人気のヒットドラマシリーズになっている。

シーズン4では、暴走する極悪非道ヒーロー軍団に対して、劣勢を強いられるザ・ボーイズが起死回生の“能力者を殺すウイルス”を入手するために壮絶なバトルを繰り広げる。

本作は「暴力は権力なのか」という問いを投げかける。能力者(=モンスター)に立ち向かい、“人間らしく”あっては勝てないときに、主人公は正義と悪の間で揺れ動く。

そこには、分断と暴力がはびこる現実のアメリカが投影されているのかもしれない。権力に立ち向かう一般人(ザ・ボーイズ)が世界に発信するメッセージに注目したい。

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ライター, 編集者

音楽ビジネス週刊誌、芸能ニュースWEBメディア、米映画専門紙日本版WEBメディア、通信ネットワーク専門誌などの編集者を経てフリーランスの編集者、ライターとして活動中。映画、テレビ、音楽、お笑い、エンタメビジネスを中心にエンタテインメントシーンのトレンドを取材、分析、執筆する。takeiy@ymail.ne.jp

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