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前代未聞の“穴”ドラマ『滅相も無い』がすごい 深夜ドラマならではの奇抜な撮影で攻める、春ドラの大穴

武井保之ライター, 編集者
MBSドラマイズム『滅相も無い』公式サイトより

春ドラマの大穴といっていいだろう。突然日本に現れた巨大な穴をめぐる8人の人間ドラマを描くMBSドラマイズム『滅相も無い』。奇抜なストーリー性と革新的なアナログ映像演出、豪華実力派俳優陣の芝居が融合する、稀に見るエンターテインメント性の高いドラマになっている。

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突然現れた謎の大穴、入って戻ってきた者はいない

オリジナル脚本によるSF群像劇となる本作の舞台は、7つの巨大な穴が突然現れた現代日本。ビルよりも大きなその穴に日本中が混乱し、さまざまな調査が行われたが、穴の正体はわからず、中に入った調査隊が戻ってくることはなかった。

やがて人々は穴がそこにあるものとして暮らすようになる。動画配信者など穴に入る者も出てきたが、そこから戻ってきた者は1人もいない。そんななか、穴を神と崇める男・小澤(堤真一)が現れ、「穴の中には救済がある」と説く。

彼のもとには8人の男女が集まり、1人ずつそれまでの人生を語ってから穴に入っていくことになる。

毎週1話ごとに1人が自身の過去を語り、その回のラストで穴に入っていく。

穴に入る8人の過去エピソードの人間ドラマ

本作はまず設定が興味深い。穴に入ると戻ってこられないことがわかっていて集まった8人は、現実の生に対しての執着がない人々や、穴の中に救いや希望、未来を求める人々。そんな彼ら1人ひとりの人生には、痛みや苦しみを内包する人間ドラマがある。

そして最大の謎は、その穴に入った人はどうなるのか、その先に何があるのか。8人の人生のエピソードが綴られる回を重ねるに連れて、彼らが穴に入った先でどうなるのか、という謎への関心は高まっていく。

しかし、その謎は明かされないまま終わるのかもしれない。本作の本筋は8人それぞれが背負った人生のヒューマンドラマであり、穴はその舞台装置だからだ。最終話で8人の運命をどう締めくくるのかが注目される。

一方、第4話まで見たなかで気になっているのはタイトルの意味。辞書などで「滅相もない」は、「とんでもない」「恐れ多い」など相手の言葉への否定や謙遜の意味とされるが、本作の内容を表す言葉としてしっくりこない。

また、「滅相」は仏語として、生死がない万物の永久不変の真理とある。こちらは、穴の中の世界を示すタイトルの意として当てはまる。しかし、それを「無い」と否定していることでまたわからなくなる。8人が思い抱くような世界は、穴の中にはないのか。物語のすべてがタイトルに込められていそうだ。

生のステージのように芝居を堪能できる演劇パート

もうひとつおもしろいのが、映像演出。オープニングの世の中の動きや社会情勢はイラストレーター・若林萌氏による画の漫画的な流れで映し出され、現代パートはふつうのドラマとして進行するが、登場人物それぞれの過去は演劇的な演出で撮られている。

毎話のストーリーは、8人のうちの1人の過去エピソードの人間ドラマがメインとなる。

そのシーンは、ワンシチュエーションでセットが変わる演劇になり、本人が子ども時代から現在までをスタジオキャストとともに演じるが、まるで生のステージを見ているかのように俳優陣の芝居をじっくりと堪能できる。

ドラマファン、演劇ファンを満足させる連続ドラマ

メインキャストには、豪華実力派俳優が集結している。リーダー役の堤真一のほか、8人の男女役を中川大志、染谷将太、上白石萌歌、森田想、古舘寛治、平原テツ、中嶋朋子、窪田正孝。8人それぞれが背負う過去の心の傷や人生の痛みが、演劇のステージの芝居として映し出される。

ストーリーで作品を選ぶドラマファン、俳優の芝居を楽しみにする演劇ファンの双方を満足させるエンターテインメント性の高い連続ドラマになっている。

監督・脚本を務めるのは加藤拓也氏。第67回岸田國士戯曲賞、第30回読売演劇大賞演出家賞部門優秀賞、第10回市川森一脚本賞、ナント三大陸映画祭ディストリビューション・サポート賞などを受賞。舞台作家・映像作家として国内外から高く評価される気鋭クリエイターだ。初めて連ドラ全話脚本&監督を務める本作でも、その異才ぶりがにじみ出ている。

5月14日深夜に第5話が放送されるが、Netflixで全話配信されている。この先にどんな展開が待ち受けているかわからないが、ドラマファン、演劇ファン必見の注目作であることは間違いない。

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ライター, 編集者

音楽ビジネス週刊誌、芸能ニュースWEBメディア、米映画専門紙日本版WEBメディア、通信ネットワーク専門誌などの編集者を経てフリーランスの編集者、ライターとして活動中。映画、テレビ、音楽、お笑い、エンタメビジネスを中心にエンタテインメントシーンのトレンドを取材、分析、執筆する。takeiy@ymail.ne.jp

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