SMの女王様から毒母、孝行娘まで豹変する女優、菜葉菜。異端作「どんずまり便器」では狂気の女に
SMの女王様に毒母、孝行娘に脱獄囚、特殊詐欺犯の青年を手玉にとる盲目の女性に不倫妻などなど。
「いろいろな人物を演じ分けるのが俳優」といってしまえばそれまでだが、にしても一作ごとに違った顔を見せて、常に驚かせてくれる。
いま、いやデビュー時から、そのような独自の活躍を見せてくれているのが、菜 葉 菜だ。
バイプレイヤーとしてしっかりと作品にアクセントを加えることもできれば、主演も堂々と張れる。
映画を中心に独自の輝きを放つ彼女のこれまでの歩みをひとつ振り返る特集上映が、この度組まれることになった。
横浜のシネマノヴェチェントにて開催される「女優 菜 葉 菜 特集」は、彼女の主演作、出演作、そして顔の映っていない作品(?)まで12作品を一挙上映。これまでのキャリアをたどる。
本特集については、菜 葉 菜本人に訊く全三回インタビューを届けた。ここからはそれに続くインタビュー。
これまでの役者人生を振り返りながら上映作品について彼女に話を訊く。全十二回。
狂気の女、ナルミを「演じてみたい」と思った理由は?
前回(第七回のこちら)、デビューして10年を過ぎたころ、ルッキズムに対してのコンプレックスのある種の呪縛をふっきることができ、次の一歩を踏み出せたことを明かしてくれた菜 葉 菜。
いわゆる汚れ役を厭わない、むしろ切望していたときに出合ったのが小栗ハルヒ監督の「どんずまり便器」だった。
演じたナルミは、下手に触れたら瞬時に切りつけてくるような危うい女性。あるとき、同僚を刺して刑務所に服役している。
両親を事故で失った彼女にとって、唯一信じられるのは弟のケイのみ。しかし、その弟に一方的な歪んだ愛情を抱いている。
狂気の女といえる人物、ナルミを「演じてみたい」と思った理由はどこにあったのだろうか?
「まず前にお話ししたように、まさにきれいじゃない、言葉がちょっと悪いですけど、世間から『けがれている』と言われそうな女性で。
決して周囲から理解を得られるような女性ではない。
この彼女の汚れた部分、負の感情であったり、歪んだ弟への思いだったりをきちんと表現したいと思いました。
で、きちんと表現するためには、自分のすべてをさらけださないといけない。それこそ見た目なんて気にした時点でアウト。ナルミは成立しない。
だからこそ挑みたいと思いました。
それから、ナルミはほめられた人物ではない。同僚を刺すという大きな罪も犯している。
そういったことのひとつひとつを合わせると、完全な『悪女』で。
出所後、態度を改めるようなところがないことから、彼女には同情の余地はないとみなさんの目には映るかもしれない。
でも、わたしはそういったことで彼女を切り捨ててほしくなかった。
こうでもしないと生きていけない彼女の苦しみや悲しみが、脚本を読めば読むほど感じられる。
わたしの中で、どんどん彼女は愛おしい存在になっていった。
小栗監督も同じで。ナルミという人物をものすごく愛していた。
で、ひとつひとつ深く考察していくと、ナルミは抵抗のシンボルというか。
男性上位の日本社会や、かわいさばかりが求められる日本映画への反発みたいなものが透けて見えてくる。
だからこそナルミの存在は、見た人、とりわけ男性の心をざわつかせるところがある。
たぶん小栗監督も当時、そうとうとんがっていて、わたしもなにものにもとらわれないようになって、マイルドなことよりもとんがったことにチャレンジしたかった。
ある種の反骨精神をもっていた二人が出会って共鳴した。だから、当時のわたしたちでしかなしえなかったことが『どんずまり便器』には詰まっている気がします。
そういうことも含めて、ナルミを『演じみたい』と思ったと、いま振り返ると感じますね」
ナルミが発していることってけっこう切実な声
あらためて「どんずまり便器」をみると、いろいろな点で驚かされる。
たぶん物申すことがどこかはばかられる、いろいろなところの顔色をうかがわないといけないいまの時代、なかなか口に出せないことが描かれている。
「さっきも話しましたけど、たぶんナルミの存在は特に男性は嫌悪感を抱くかもしれない。そういう声は公開当時もありました。
でも、彼女の置かれた状況をきちんとみてほしい。
彼女のように社会からはみでて、孤立してしまう女性っていると思うんです。
どんずまり状態でにっちもさっちもいかない。だから、ここでナルミが発していることってけっこう切実な声で。ままならない人生のただ中にいる女性の本心や本音がつまっている。
いかにそこから脱して、個として力強く生きていくのか。それが映画の根底のテーマにある。
なかなかそう見えないですけど、女性賛歌の映画という見方もできるのではないかと思います」
それにしてもよくぞこの役を引き受けたと思う。
それぐらいナルミは覚悟が必要な役といっていい。
「ふっきれましたから、ためらいみたいなことはなかったです。
ただ、ふっきれたといっても、すべての意識がガラッとかわるわけではない。
『かわいく映りたい』『きれいに映りたい』といったような気持ちはもうなくなっているんですけど、どこかに『かわいい役は自分のところにこない』みたいな自分の役者としての状況へのやっかみは残っている。
それも含めてすべてをナルミというダーク・ヒロインにぶつけた気がします。
だから、当時の自分という人間がそうとうあらわになっていると思います。
ナルミを通して、自分の中にもある負の感情を爆発させているところがありますから。
で、ナルミはまさにそれが許される役だったんですよね」
(※第九回に続く)
【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第一回はこちら】
【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第二回はこちら】
【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第三回はこちら】
【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第四回はこちら】
【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第五回はこちら】
【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第六回はこちら】
【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー(作品編)第七回はこちら】
【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー第一回はこちら】
【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー第二回はこちら】
【<女優 菜 葉 菜 特集>菜葉菜インタビュー第三回はこちら】
<女優 菜 葉 菜 特集>
「ハッピーエンド」(2008 年/山田篤宏監督)
「どんづまり便器」(2011 年/小栗はるひ監督)
「百合子、ダスヴィダーニヤ」(2011 年/浜野佐知監督)
「雪子さんの足音」(2019 年/浜野佐知監督)
「モルエラニの霧の中」(2020 年/坪川拓史監督)
「赤い雪」(2019 年/甲斐さやか監督)
「夕方のおともだち」(2021 年/廣木隆一監督)
「夜を走る」(2021 年/佐向大監督)
「TOCKA[タスカー]」(2022 年/鎌田義孝監督)
「鋼-はがね-」※オムニバス『コワイ女』より(2006 年/鈴木卓爾監督)
「ワタシの中の彼女」(2022 年/中村真夕監督)
「ヘヴンズストーリー」(2010 年/瀬々敬久監督)
以上、主演作、出演作あわせて12作品を一挙上映!
開催期間:9月16日(土)~10月1日(日)
横浜・シネマノヴェチェント
<トークイベント決定>
9月24日(日)11:30~「百合子、ダスヴィダーニヤ」
ゲスト予定/菜葉菜、浜野佐知監督、山崎邦紀(脚本)
14:00~「雪子さんの足音」
ゲスト予定/菜葉菜、浜野佐知監督、山崎邦紀(脚本)
9月30日(土)11:00~「ヘヴンズストーリー」
ゲスト予定/菜葉菜、寉岡萌希、瀬々敬久監督
10月1日(日)12:00~「鋼-はがね-」オムニバス『コワイ女』より」
『ワタシの中の彼女』
ゲスト予定/菜葉菜、鈴木卓爾監督、中村真夕監督
14:30~「ハッピーエンド」
ゲスト予定/菜葉菜、長谷川朝晴、山田篤宏監督
詳細は劇場公式サイトへ → https://cinema1900.wixsite.com/home