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「回収された船体で“いくつかの異常”が見つかった」米国家運輸安全委員会 潜水艇タイタン事故公聴会

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
(提供:OceanGate Expeditions/REX/アフロ)

 アメリカでは、9月16日から、昨年6月に、豪華客船タイタニック号の残骸見学ツアーに向かう途中で爆縮し、5名の乗船者が亡くなった潜水艇タイタンの事故を審理するための公聴会が行われており、タイタンを運航していたオーシャンゲート社の元関係者たちが証言している。

回収された船体で見つかった“異常”

 9月25日は、米国家運輸安全委員会(輸送に関する事故調査や原因究明を行うアメリカの国家機関)のエンジニア、ドン・クレイマー氏が、昨年6月に海底で発見されたタイタンの残骸の新たな画像を見せ、証言を行った。

 クレイマー氏によると、タイタンの船尾ドーム、船尾セグメント、上部レール、サイドレール、複合船体後部は一緒に発見された一方、潜水艇の前方ドーム、前方セクション、尾部はそれぞれ別々に発見されたという。「前方船体の大部分は複数の破片に砕け散り、海底に散らばっていた」と同氏は述べた。

 また、クレイマー氏は、いくつかの破片ではカーボンファイバーの層が剥がれていたと説明、これは「層間剥離」と呼ばれるもので、そのほとんどは、接着接合面の内部かその近くで起きていたという。

 さらに、船体の製造時に使用した材料を検査したところ「複合材と接着接合部にしわ、空洞、隙間などいくつかの異常が見つかった。海底から回収された船体の一部も検査したところ、同様の異常が見つかった」と述べている。

 回収された船体には、接着接合部の1つに擦れによる損傷があったことを示す特徴も見られたという。もっとも、これらの異常が、爆縮によって引き起こされたものなのか、爆縮前からあったものなのかは確認されていない。

大きな音の後にひずみ反応が変化か

 クレイマー氏は、沈没事故の1年前に潜水中に聞こえた大きな音がタイタンの構造に損傷を与えた可能性があるとも言及した。2022年7月15日に行われた、「ダイブ80」と呼ばれる潜水中にタイタンが浮上する際、乗船者は大きな音を聞いていた。この音は、音響現象を検知するセンサーと機械的ひずみを監視するひずみゲージを備えたリアルタイム監視システムでも出されたという。クレイマー氏は、この大きな音の発生後、船体のひずみ反応が変化したと分析している。

 もっとも、タイタンを運航していたオーシャンゲート社の元エンジニアリングディレクター、フィル・ブルックス氏は9月23日の公聴会で、「ダイブ80」の潜水で大きな音がした後のひずみゲージの変化はわずかで、その後の潜水でもひずみケージのさらなる変化は見られなかったと証言していた。ブルックス氏によると、本当に異常なことは何もなかったため、同社CEOのストックトン・ラッシュ氏は潜水を続ける決定をしたという。ラッシュ氏は、大きな音は水面に戻る際に、船体のフレームが元の形に戻ろうとしたために起きたのではないかと推測していたという。

大きな音の原因は不明

 ケンパー・エンジニアリングの主任エンジニア、バート・ケンパー氏は、タイタンの沈没に関する予備調査結果を調査員に提出し、大きな音の原因は「現時点では不明」と証言、「単一モードの故障が複数発生しており、その1つが故障するだけで全体が壊れる可能性がある」と述べている。

 また、ケンパー氏はタイタンの潜水寿命が不明な点も指摘し、システムの設計寿命が不確かな場合、たとえそれが人を運ぶ実験用の潜水艇であったとしても設計することは「完全に間違っている」と訴えた。

 同氏は、タイタンの事故原因として、カーボンファイバー素材の累積的な破損、製造による欠陥、潜水艇がタイタニック号のある外洋に運ばれる際に露出されたことによる破損、潜水艇のアクリル窓の破損などをあげた。アクリル窓については、潜水するたびに窓が変形し、最後にはひび割れにつながる可能性があるという。ただ、正確な分析を行うにはデータ不足ということだ。

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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