ラーメンに餅が乗る!? 創業145年の老舗が作る一杯とは?
町の食堂の役割を持っていた「甘味処」
かつて町中華や日本蕎麦店などの多くは、ジャンルにとらわれないメニューを揃えていた。中華料理店にオムライスがあったり、日本蕎麦店にカツカレーがあったり。いわゆる「大衆食堂」のみならず、個人が経営する飲食店の多くは「町の食堂」としての役割を果たしていた。
和菓子店が営む甘味処もその一つ。和菓子を売るだけではなく、空いているスペースで和菓子とお茶を出すようになり、さらにはあんみつやアイスクリームなどの甘味も出し、いずれ麺類や定食も出すようになった。ファミリーレストランなどがなかった時代、甘味処は町に根付いたレストランだったのだ。
文人の町で愛される老舗甘味処『ゑちごや』
文京区春日菊坂は東京大学にもほど近く、樋口一葉、宮澤賢治、石川啄木、二葉亭四迷、谷崎潤一郎など、古くから多くの文人が居を構えた町だ。今もなお古い家屋が多く残るこの町で、長年愛されている老舗甘味処が『ゑちごや』(東京都文京区本郷4-28-9)だ。
新潟出身の創業者が八百屋『ゑちごや』として創業したのが、明治10(1877)年のこと。その後、二代目からは甘味処として商いを続けた。現在の三代目店主である太田泰さんが店を継いだのは20歳の時。太田さんの代になってから和菓子を作り始め、さらに食事のメニューを増やした。以来、60年以上ものあいだ店に立ち続けている。
丼物から麺類までメニューも豊富
『ゑちごや』では豆大福や草餅に団子など、毎朝作る和菓子が店先で売られ、地元の人が次々と買い求める。そしてお昼時ともなると、店の中は地元客やサラリーマンなど、定食や丼物に麺類などを食べる客で満席となる。狭い厨房の中で太田さんは奥さんの禮子さんと共に忙しくなる。
かつ丼や中華丼から焼肉定食まで、『ゑちごや』のメニューは甘味処とは思えないほど豊富だ。その中でも人気の逸品「カレーライス」は、懐かしい楕円の「ベーカー皿」に盛られたノスタルジックなもの。ほんのりと甘さもあるカレーソースには鶏や野菜の旨味がたっぷり入り、懐かしさと共に食欲を喚起する味わいだ。
餅が入る専門店顔負けのラーメン
『ゑちごや』で忘れてはいけないメニューが「ラーメン」だ。近隣にあったラーメン店の味に感動して、その店主から手ほどきを受けた製法を変えることなく、60年ものあいだ提供し続けている『ゑちごや』の看板メニューだ。
豚バラや鶏ガラに煮干し、さらにはキャベツ、ニンジン、タマネギなどの野菜がたっぷりと入ったスープは、優しくも力強い味わい。かつては麺も自家製だったが、今は製麺所の中細縮れ麺を使う。しっかりと味が染みた豚モモチャーシューに、メンマ、海苔、なると。郷愁誘うノスタルジックな東京ラーメンだ。
そこに餅が乗る「もち入りラーメン」は、甘味処ならではの逸品。毎朝もち米を蒸してつきたての餅を注文を受けるごとに焼いて乗せる。つきたて焼きたての自家製の餅と、煮干しが香る醤油味のスープとの相性が悪いわけがない。ラーメン専門店には真似が出来ないメニューだ。
「身体が動く限りは続けていきたい」と語る三代目店主の太田さん。85歳とは思えないほど明るく元気な声で、今日も地元のお客さんを出迎える。
※写真は筆者によるものです。
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