イスラエル軍のアロー3大気圏外迎撃ミサイルが実戦初投入、弾道ミサイル迎撃に成功
11月9日夜(現地時間)、イスラエル南部の紅海沿岸都市エイラートで対弾道ミサイル迎撃戦闘が発生、史上初めてイスラエル軍の大気圏外迎撃ミサイル「アロー3」が実戦投入されて目標の撃墜に成功しました。飛来した弾道ミサイルはイエメンのフーシ派が発射したものだと推定されます。
イスラエル国防省:アロー3迎撃成功(写真は過去の試験時のもの)
エイラートで目撃されたミサイルの光
エイラートで目撃されたミサイルの光
イエメンのフーシ派が射程1700km級のイラン製の準中距離弾道ミサイル「ブルカン3」でイスラエル南部の紅海沿岸都市エイラートを狙って来たとすると、100km離れた会敵位置はサウジアラビア上空となります。(ただし100km”以上”と説明されているのでもっと遠い可能性はある。)
10月7日からハマスの奇襲攻撃で始まったガザ紛争に、イエメンのフーシ派が限定的な参戦(ミサイルを遠くから撃つだけ)を表明したのが10月31日ですが、実際にはフーシ派がイスラエルを狙ったミサイル攻撃を始めたのは10月19日からです。
フーシ派は弾道ミサイル(ブルカン3)、巡航ミサイル(Quds-3)、自爆ドローン(サマド系)などをイスラエル攻撃に投入、対するイスラエル側は巡航ミサイルやドローンに対してF-35戦闘機やパトリオット防空システムなどで迎撃を行い、弾道ミサイルに対しては既にアロー2迎撃ミサイルを使用して迎撃しています。実はアロー2については今回が実戦初投入ではなく、2017年に既に実戦経験済みでした。アロー2は大気圏内用、アロー3が大気圏外用です。
なおアロー3の実戦初投入で大気圏外迎撃システムが史上初めて実戦で宇宙空間での弾道ミサイル迎撃に成功したという報道もありますが、実は昨年の2022年1月17日にUAEがアメリカ製のTHAAD防空システムでフーシ派の弾道ミサイルを撃墜しており、実戦での宇宙空間での初迎撃はこちらが先である可能性があります。出典:DefenseNews
アロー防空システムの実戦記録
- アロー2:2017年03月17日 イスラエル北部で、シリアが発射したS-200地対空ミサイルを撃墜 ※アロー防空システムの実戦初投入
- アロー2:2023年10月31日 エイラートで、フーシ派の発射したブルカン3弾道ミサイルを撃墜 ※アロー2による弾道ミサイル初迎撃
- アロー2:2023年11月04日 アラバで、ハマスが発射したアヤシュ250ロケット弾を撃墜
- アロー3:2023年11月09日 エイラートで、フーシ派の発射したブルカン3弾道ミサイルを撃墜 ※アロー3による弾道ミサイル初迎撃
※敵目標のミサイルの種類は何れも推定。
アロー防空システムの性能(推定)
- アロー1:試作型
- アロー2:大気圏内用、迎撃高度1万m~50km、射程70~150km
- アロー3:大気圏外用、迎撃高度70km以上(推定)、射程数百km?
- アロー4:大気圏内用、開発中。極超音速兵器にも対応予定
- アロー5:不明、開発予定
※アロー2は大気圏内用といっても高度1万m未満は対応しておらず、その代わりに通常の地対空ミサイルでは自由な機動ができなくなる、空気がほとんど無くなり操舵が効かなくなる高度25km~50kmを、TVC(推力ベクトル制御)を用いて機動が可能。
※アロー2の最大射程は資料によって異なり、過去のイスラエル空軍公式サイト(2017年当時のアーカイブ)では70km、他の推測値では90kmや150kmという数字がある。
※アロー3の大気圏外迎撃体は可動範囲の大きな首振りシーカーを装備しており、空力を考えていない設計の為、アメリカのSM-3と同様に空力を考慮しなくてよい高度70km以上での運用を想定していると推定。なお公式発表数値は高度100km以上。
※アロー3の射程について2400km以上という報道があるが、ミサイルの推進部分の大きさや段数(主ロケット部分は1段のみ、大気圏外迎撃体が推進ロケット付きで2段目扱い)、守るべきイスラエル国土の狭さから筆者は懐疑的。2400kmとは目標となる敵弾道ミサイルの射程の意味だと推定し、アロー3自体の有効射程は数百km程度だと推定。なお2023年11月09日の迎撃戦闘でアロー3はイスラエル国土から100km以上先で迎撃との発表。
※アロー(Arrow)のヘブライ語はヘッツ(חֵץ)。イスラエル本国での名称はヘッツ防空システム。
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