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アメリカが対人地雷を禁止条約批准のウクライナに供与する方針、条約違反行為になる恐れ

JSF軍事/生き物ライター
米陸軍フィールドマニュアルより155mm砲弾クラスター空中散布対人地雷ADAM

 アメリカが対人地雷をウクライナに供与する方針です。AP通信がオースティン国防長官から供与する方針と使用の容認を聞き出して伝えています。出典

 信じ難い決定です。ウクライナは対人地雷禁止条約(オタワ条約)に参加していますので、これは条約違反行為になります。使用だけでなく備蓄や持ち込みでも違反です。また同条約は留保の規定は無く、紛争中の脱退も出来ません。参考:対人地雷禁止条約の主要規定 | 日本外務省 

 これはクラスター弾供与の時とは次元が異なる決定です、ウクライナはそもそもクラスター弾規制条約(オスロ条約)に参加していなかったのですから、人口密集地に撃ち込まない限りはクラスター弾の使用は条約違反ではなかったのです。(※ロシアもオスロ条約に参加していないが、人口密集地にクラスター弾を撃ち込んだので無差別攻撃と見做されてジュネーブ条約等で違反となる)

 ですが対人地雷の使用は明確なオタワ条約違反行為となるでしょう。オースティン国防長官は供与する対人地雷は一定時間後に不活性化する種類のものだとしていますが、それはオタワ条約の禁止する対人地雷であることに何ら変わりがありません。クラスター弾でも自爆機能を付けても不発弾の問題は解決しないことが判明していますから、対人地雷でも同じことです。

 そもそもウクライナはオタワ条約の規定に違反して備蓄していた旧ソ連時代のPFM-1空中散布対人地雷を廃棄しきれておらず、この戦争で秘密裏に一部を使用している疑いが濃厚です。大量使用ではありませんが既に違反行為を行っている中でアメリカが使用のお墨付きを与えてしまうと、ウクライナはアメリカ供与分だけでなく残存した旧ソ連製の備蓄分も大量投入し始める上に、それどころかまた新しく対人地雷を自力で製造してしまうことになるでしょう。なおPFM-1の改良型PFM-1Sは散布後に80時間で自爆する機能がありますが、3割前後は上手く作動せず戦場に残存します。

空中散布跳躍対人地雷「ADAM」

 アメリカからウクライナへの供与が検討されている対人地雷はおそらくADAMです。ADAM(Area denial artillery munition、エリア拒否砲弾)は155mm砲弾の内部に36個の跳躍型対人地雷2種類(M67地雷:48時間後に自爆、M72地雷:4時間後に起爆)のどちらかを内蔵するクラスター散布型です。

  • M692: M67地雷36個(長時間遅延)
  • M731: M72地雷36個(短時間遅延)
米陸軍フィールドマニュアルより155mm砲弾内蔵クラスター空中散布式対人地雷ADAM
米陸軍フィールドマニュアルより155mm砲弾内蔵クラスター空中散布式対人地雷ADAM

 36個のM67/M72跳躍対人地雷(重量540g)は空中散布されて地表に着地した後に各個が7本のトリップワイヤー(最大6m)をスプリングで射出し、これに何かが触れて400gの張力が掛かると本体から上向きに球状弾頭を射出、高さ1~2mの空中で炸裂して約600個の破片を撒き散らします。

米陸軍フィールドマニュアルよりADAM内蔵のM67/M72跳躍対人地雷
米陸軍フィールドマニュアルよりADAM内蔵のM67/M72跳躍対人地雷

 M67/M72の内部の球状カプセルの中には球状弾頭と液体爆薬が内蔵されており、空中散布されてどのように地表に転がろうと止まって落ち着いたら液体爆薬が球状弾頭の下部に溜まって来るので、起爆するとどのような姿勢でも球状弾頭は真上に射出される構造です。跳躍対人地雷は適切な高さで炸裂することで破片を広範囲に届かせることが可能になります。

米陸軍研究開発工学コマンド(RDECOM)資料よりM67/M72の弾頭の構造
米陸軍研究開発工学コマンド(RDECOM)資料よりM67/M72の弾頭の構造

 空中散布跳躍対人地雷ADAMは空中散布対戦車地雷RAAMの除去を遅らせるための妨害支援用で、通常はセットで用いられます。あるいは別の空中散布対戦車地雷と組み合わせることも出来ます。

 なおM67/M82を単体で手動で設置する仕様のものをM86追跡妨害弾薬(PDM)と呼び、特殊部隊が敵の追跡を妨害する目的で設置します。(※このM86PDMが既にウクライナの戦場で使用されている疑惑もあります)

 M67/M72跳躍対人地雷は一定時間経過後の自爆機能を持ちますが、おそらく3割前後は上手く作動せず残るでしょう。7本のトリップワイヤーに繋がった起爆装置は電源が尽きると作動しなくなりますが、弾頭の信管はまた別にあり、不発弾となるので、ちょっとした拍子に何時爆発するかは分かりません。ゆえに自己不活性化機能をもって問題無いとすることは出来ません。そもそも対人地雷を禁止するオタワ条約には自爆機能や自己不活性化機能があれば対人地雷を使用してよいなどとは何処にも書かれていないのです。

【外部参考記事】ADAMやM86PDMの解説絵や実物写真

※アメリカ陸軍研究開発工学コマンド(RDECOM)は組織再編で現在は存在しない。戦闘能力開発コマンド(DEVCOM)に移行。

※クレイモアのような遠隔操作型の指向性対人地雷は禁止対象の対人地雷に該当しない。

※対戦車地雷は禁止されていない。

※ウクライナは対人地雷禁止条約(オタワ条約)に参加、クラスター弾規制条約(オスロ条約)は不参加。ロシアはどちらにも参加していない。アメリカはどちらにも参加していないが自主規制を行っていた。

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軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

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