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アロー2とアロー4の違い

JSF軍事/生き物ライター
米ミサイル防衛局とイスラエル国防省の発表したアロー2の写真とアロー4のイメージ絵

 2月18日にイスラエルの弾道ミサイル防衛システム「アロー」の低層防御(高度10~50km)を担当する「アロー2」迎撃ミサイルの後継となる「アロー4」の開発開始が発表されました。

 アロー2は低層防御担当といっても、大気圏外迎撃用のアロー3(推定迎撃高度70km~数百km)に対して低いというだけで、地対空ミサイルとしては異例な高度50kmまで駆け上がることができます。通常の地対空ミサイルは空気が薄くなり空力操舵が効き難くなる高度25km前後が限界です。

 空気の薄い高高度でも機動を行える技術としてアローに用いられたのがTVC(推力ベクトル制御)です。ロケット噴射の方向を偏向させることで空力操舵に頼らず機動を行います。TVCの方式には幾つかあり、以下は軍用ミサイルで使われる場合の代表的なものです。

  • 可動ノズル式・・・ノズルそのものが可動する
  • 排気ベーン式・・・固定ノズル内に可動する排気制御板
  • 排気パドル式・・・固定ノズル外に可動する排気制御板
  • サイドインジェクション式・・・固定ノズル内で横からガス噴射

 推定になりますが、アロー各ミサイルの第一段ロケットのTVCはおそらく可動ノズル式かサイドインジェクション式です。(他国の迎撃ミサイルの例ではTHAADが第一段ロケットTVCで可動ノズル式を採用。スプリント、53T6、9M82、9M83などでは第一段ロケットTVCでサイドインジェクション式を採用。)

 アロー各ミサイルの第二段ロケットのTVCはどの形式かは不明ですが、アロー3の大気圏外迎撃体のTVCは可動ノズル式であることがほぼ確定しています。

アロー1、2、3、4の比較

IAIおよびイスラエル国防省よりアロー弾道ミサイル防衛システムの各ミサイル形状比較
IAIおよびイスラエル国防省よりアロー弾道ミサイル防衛システムの各ミサイル形状比較
  • アロー1・・・1段目(操舵翼+TVC) 2段目(操舵翼+TVC)
  • アロー2・・・1段目(TVC) 2段目(操舵翼+TVC)
  • アロー3・・・1段目(TVC) 2段目(TVC付き大気圏外迎撃体)
  • アロー4・・・1段目(操舵翼+TVC) 2段目(操舵翼+TVC)

参考:米国およびソ連の対弾道ミサイル迎撃ミサイル

  • スプリント(米国)・・・1段目(TVC) 2段目(操舵翼)
  • 53T6(ソ連)・・・1段目(TVC) 2段目(サイドスラスター?)
  • 9M82(ソ連)・・・1段目(TVC) 2段目(操舵翼) ※S-300V
  • 9M83(ソ連)・・・1段目(TVC) 2段目(操舵翼) ※S-300V
ウクライナ戦略ロケット博物館。手前が53T6
ウクライナ戦略ロケット博物館。手前が53T6写真:CavanImages/イメージマート

 アロー以前の大気圏外専用を除く弾道ミサイル迎撃ミサイルには、冷戦時代に開発された低層用ABM(核弾頭)のスプリントおよび53T6と、通常弾頭のS-300V(9M82/9M83)がありますが、どれも第一段はTVC(サイドインジェクション式)で機動します。スプリントのTVCサイドインジェクションのガスはフロン(freon)です。

 スプリントと53T6は鋭角の純粋な円錐形をしており、S-300V(9M82/9M83)も第一段は円錐形の末広がりになっています。この形状は明らかにイスラエルのアロー1でも真似されています。このためアロー1の第一段のTVCはスプリント等と同様のサイドインジェクション式の可能性が高いでしょう。アロー2以降の第一段のTVCはおそらく可動ノズル式になっているものと思われます。

 スプリントとS-300V(9M82/9M83)は第二段は操舵翼のみなので最大迎撃高度は約30kmです。空気の密度が高高度で薄くなるので空力操舵では頑張ってもこれが限界です。

 53T6の第二段は操舵翼が見当たらないのでTVCかサイドスラスターを用いている筈ですが、公開されている資料はほとんどありません。ウクライナの戦略ロケット博物館で公開されている53T6には第二段の重心付近に4つの円形の部品があり、サイドスラスターの可能性があります。空力操舵を行わないので53T6は最大迎撃高度50km、改良型の53T6Mは最大迎撃高度100kmと伝えられています。

第一段の違い:アロー2とアロー4

イスラエル国防省公開写真(左:アロー2)およびイメージ絵(右:アロー4)
イスラエル国防省公開写真(左:アロー2)およびイメージ絵(右:アロー4)
  • アロー2・・・TVC+スカート
  • アロー4・・・TVC+操舵翼(4枚)

 アロー2の第一段(ブースター)には操舵翼(可動翼)がありません。後端部に展開式スカートが付いており発射後に広がりますが、これは安定翼(固定翼)の代わりです。空気の薄い高高度では通常の安定翼では効き難いためです。

 これに対してアロー4は大型の操舵翼を装着しています。ピボット(回転軸)が付いているので操舵翼で間違いないでしょう。アロー2からアロー4で大きく変わったのはこの点で、おそらく目的としてはアロー2より低い高度でも機動が可能なようにしたいのだと考えられます。

 アロー2の迎撃可能高度は10~50kmという数字が伝えられていますが、アロー4では最大迎撃高度はそのままで、最低迎撃高度がもっと下がるかもしれません。

第二段の違い:アロー2とアロー4

イスラエル国防省公開写真(左:アロー2)およびイメージ絵(右:アロー4)
イスラエル国防省公開写真(左:アロー2)およびイメージ絵(右:アロー4)
  • アロー2・・・TVC+操舵翼(4枚)+謎の部品(2個)
  • アロー4・・・TVC+操舵翼(4枚)

 第二段(サステナー)はアロー4の方が直径が太くなっているようです。構成は基本的にアロー2もアロー4も同じです。どちらも操舵翼にはピボットが付いているのが見えます。アロー4の操舵翼の方が高さがあり、空力設計が異なっています。

 アロー2の謎の部品については現時点でも何も分かっていません。動くような構造では無さそうです。赤外線シーカーが此処に入っている可能性も考えましたが、アロー4では見当たらない理由の説明が付きません。

※2021年4月23日追記:アメリカのレイセオン社製SM-2ブロックⅢBおよびSM-2ブロックⅣA迎撃ミサイルには、赤外線シーカーがミサイル側面に追加されており、これを覆う投棄式の空力保護カバーが装着されています。アロー2の謎の部品も同じ構造である可能性。

 アロー2の第二段は判明している情報では、アクティブレーダーシーカー/パッシブ赤外線シーカー複合センサー、誘導装置、炸薬(近接爆破方式)、固体燃料推進ロケット、TVC、操舵翼といった部品で構成されています。

 アロー4の第二段の部品構成はおそらくアロー2に準拠する筈ですが、一部で変更されている可能性もあります。

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軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

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