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北朝鮮の核無人水中攻撃艇「ヘイル」とロシアの原子力推進超大型核魚雷「ポセイドン」

JSF軍事/生き物ライター
北朝鮮・朝鮮中央通信より核無人水中攻撃艇「ヘイル」

 北朝鮮は3月24日、新兵器の核無人水中攻撃艇「ヘイル」を初公開しました。3月21日から23日に実験を実施したとしています。

핵무인수중공격정〈해일〉核無人水中攻撃艇「ヘイル」

 朝鮮語の해일(ヘイル)は漢字で書くと海溢(かいいつ)で、日本語での意味は津波です。核爆発により津波を引き起こして港湾にダメージを与えるという発想の兵器です。これはロシアの原子力推進超大型核魚雷「ポセイドン」と共通しています。ただし北朝鮮は原子力推進機関を実用化していないので、ヘイルは電池などの通常動力を用いているでしょう。

 またヘイルの開発構想は2012年からとあり、ロシアがポセイドンの計画を初公開した2018年よりも早かったとアピールしていますが、事実かどうかは不明です。

核無人水中攻撃艇「ヘイル」計画

  • 2012年?? 核無人水中攻撃艇の構想を開始
  • 2018年03月 ※ロシアがポセイドン計画を公開
  • 2021年01月 朝鮮労働党第8次大会でヘイルと命名
  • 2021年10月 展示会「自衛2021」で党中央委員会政治局にヘイルを公開
  • 2022年12月 党中央委員会第8期第6回総会でヘイルの作戦配備を決定
  • 2023年03月 核無人水中攻撃艇ヘイルの存在を一般向けに初公開

去る3月21日、咸鏡南道利原郡の海岸で訓練に投入された核無人水中攻撃艇は、朝鮮東海(日本海)に設定された楕円および「8」字形針路を80~150メートルの深度で59時間12分を潜航して3月23日午後、敵の港を想定した洪原湾水域の目標点に到達し、実験用戦闘部が水中爆発した。

出典:重要兵器実験と戦略的目的の発射訓練:朝鮮中央通信(2023年3月24日)

 なお実験の写真も公開されて水中で起爆する様子もありますが、通常爆薬で起爆しているだけで特に意味がありません。貴重な開発試験機材を無駄に失うような真似をするとは思えず、水中起爆は宣伝用でヘイルの試験機とは直接関係が無い可能性があります。

 ヘイルは直径が巨大な魚雷のような形状ですが水中ドローンの一種で、大き過ぎるので潜水艦の魚雷発射管からは撃てません。沿岸の基地から直接発進するか、水上船舶が曳航して作戦に投入されます。

ヘイルとポセイドンの共通点

  • 通常サイズの魚雷発射管に入らない大きさ
  • 沿岸基地から直接発進
  • 核弾頭

ヘイルとポセイドンの相違点

  • 大きさ(ポセイドンの方が直径が大きく、しかもかなり長い)
  • 特殊潜水艦ベルゴロド(ポセイドンを発射可能な巨大発射管を持つ)
  • 原子力推進(ポセイドンは原子力推進だがヘイルはおそらく電池推進)

 ヘイルとポセイドンは発想は似ていますが推進システムと発射母艦の違いが決定的です。ヘイルは長距離作戦が不可能ですし、水中速力も大したことがありません。電池式で水中高速を発揮するとあっというまに電気を使い果たしてしまいます。ヘイルが59時間連続潜航する場合は、推測ですが平均で数ノットしか発揮できていないでしょう。航続距離は数百kmくらいではないかと思われます。

2021年の朝鮮労働党第8次大会で命名されながら秘匿されたヘイル

 北朝鮮は2021年1月5日から1月7日まで朝鮮労働党第8次大会を開き、1月9日の大会報告でいくつかの新型兵器の開発計画を公表しています。

北朝鮮の党大会で発表された新型兵器開発計画(2021年1月9日)

 ところがこの中に核無人水中攻撃艇「ヘイル」が該当するような兵器は記載されていませんでした。第8次大会を報告する労働新聞の記事アーカイブ(朝鮮語)を再確認して見ても、やはり該当する兵器は見当たりません。핵잠수함(核潜水艦)は原子力潜水艦(原子力推進)の意味であり、前後を読んでも核無人水中攻撃艇(事実上の核魚雷)と受け取れる文脈ではありませんでした。

 ところが最近の2023年3月24日の発表では、この2021年1月の第8次大会で内々でヘイルと命名されていたと後出しで書かれています。核無人水中攻撃艇ヘイルは存在を秘匿されて計画は公表されずにいて、最近になって突然公表されたことになります。

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軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

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