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ウクライナ情報機関:ドニプロ攻撃ロシア軍ミサイルはICBMではなく「ケードル」新型中距離弾道ミサイル

JSF軍事/生き物ライター
ウクライナ国防省情報総局より「ケードル」ミサイル複合体の詳細について

 ウクライナ国防省情報総局は、11月21日のロシア軍のミサイル攻撃に対してウクライナ空軍司令部がドニプロ市にICBM(大陸間弾道ミサイル)が飛来したと初期報告した件(関連記事)について、11月22日に新しい分析報告を行いました。

「ケードル」複合体 - ロシアがドニプロ攻撃に使用した新型弾道ミサイルについての詳細 | ウクライナ国防省情報総局(宇語)

○ミサイル複合体「ケードル」をロシア軍が使用

○アストラハン発射からドニプロ着弾まで飛行時間15分

○弾道の最終段階の速度は最大マッハ11以上
○ミサイルには6個の弾頭、各弾頭に6個の子弾(合計36個)

○過去のケードルの実験は、2023年10月と2024年6月に「ロシア連邦第4国家中央試験場」(アストラハン州カプースチン・ヤール)で行われた

※ウクライナ国防省情報総局の記事リンク先はウクライナ語。

※ケードルのロシア語は”Кедр”でヒマラヤ杉の意味。“Кєдр”はロシア語からウクライナ語に転写した綴り。ただしウクライナ国内でヒマラヤ杉はロシア語と同じく”Кедр”という綴りで書くことが普通。

※過去に2021年3月1日付けでタス通信が「ロシアが新型戦略ミサイルシステム『ケードル』を開発中」と報じている。出典:タス通信(露語)

 これが正しいとするとICBMではありません。飛行時間15分で速度マッハ11は準中距離弾道ミサイル(MRBM)に相当する性能で、通常弾道で発射した場合は最大射程1300km前後となります。アストラハン州カプースチン・ヤール試射場からドニプロ市まで約800kmなので、極端な山なりの高いロフテッド軌道ではありません。やや高く上がったか、あるいは逆にやや低く発射して射程調整している筈です。

発射前日からミサイル種類推定の流れ

  • 11月20日:ウクライナ報道「ロシア軍がRS-26ルベーシュを発射準備」
  • 11月21日:ウクライナ空軍司令部「ロシア軍がICBMでドニプロを攻撃」
  • 11月21日:ロシア政府「新型中距離弾道ミサイル『オレシュニク』を使用」
  • 11月21日:アメリカ政府「ロシア軍のRS-26ルベーシュの系統のミサイル」
  • 11月22日:ウクライナ国防省情報総局「ロシア軍新型ミサイル『ケードル』

※『RS-26ルベーシュ』はINF条約の制限を回避すべく中距離弾道ミサイルの上限5500kmをやや上回る射程でぎりぎりICBMに分類。

※『オレシュニク』のロシア説明は速度マッハ10で準中距離弾道ミサイルに相当。

※『ケードル』とウクライナ国防省情報総局が分析したミサイルは15分飛行・速度マッハ11で準中距離弾道ミサイルに相当。

 具体的なミサイルの名前だけでも「RS-26ルベーシュ」「オレシュニク」「ケードル」と3種類も出て来て錯綜していますが、最新の分析であるウクライナ国防省情報総局の判断では準中距離弾道ミサイル相当のミサイルとなっています。

 それともあるいは、ICBM級の大型ミサイルに大重量弾頭を搭載して準中距離に飛ばした特殊な仕様であった可能性もあります。ただし大型のクラスター弾頭を大型ミサイルに積んで近い距離に飛ばすことはほとんど意味がありません、近い距離ならば複数の小さなミサイルを飛ばした方がクラスター弾頭の運搬手段としては効率が良い筈です。

 しかしながらドニプロに飛来したロシア軍のミサイルは特殊なクラスター弾頭仕様だったのです。これは弾頭の総重量はいったい何キログラムのペイロードだったのでしょうか? 

○ミサイルには6個の弾頭、各弾頭に6個の子弾(合計36個)

 「ケードル」ミサイル複合体について「ミサイルには6個の弾頭、各弾頭に6個の子弾(合計36個)」というウクライナ国防省情報総局の説明は、目撃された11月21日のドニプロ攻撃映像の特徴と合致します。6個の弾頭がぞれぞれ6個の子弾を内蔵する合計36個のクラスター弾頭搭載は、これまで聞いたことがない搭載方法です。少なくとも弾道ミサイルでは聞いたことがありません。

 もしかするとこれはMIRV(複数個別誘導再突入体)ではなく、もっと原始的なMRV(複数再突入体)の一種なのかもしれません。MIRVは複数の離れた場所に個別に再突入体を送り込めますが、MRVは同じ場所に複数の再突入体を送り込みます。ドニプロ攻撃はMRV的な運用です。

 しかしMRVなのに1個の弾頭に36個の子弾ではなく、6個の弾頭それぞれに6個の子弾と分ける理由が不明です。MIRVなら分ける意味は理解できるので、今回のドニプロ攻撃ではMRV的な運用を行ったが、能力的にはMIRV的な運用を行える可能性は残っています。

MIRVMultiple Independently-targetable Reentry Vehicle:複数個別誘導再突入体)

MRVMultiple Re-entry Vehicle:複数再突入体)

※上記二つの用語は本来は核弾頭を想定したもの。

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

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