仮説:RS-26ルベーシュ派生型ケードル複合体オレシュニク
11月21日にウクライナのドニプロを攻撃したロシア軍の新型ミサイルについて初期の暫定情報でICBM(大陸間弾道弾)、後からの分析情報でマッハ10級のMRBM(準中距離弾道ミサイル)と報告されています。
しかしロシア側から新たに「新型ミサイル『オレシュニク』は欧州全土を射程に収める性能」という説明が出て来て情報が錯綜しています。本当に欧州全土を射程に収めるならば少なくとも3000kmは飛ばねばならず、マッハ15前後は必要になります。ただし欧州全土ではなくパリやロンドンを射程に収めるという意味なら、ロシア飛び地カリーニングラードから発射すれば射程1500km(マッハ12前後)の弾道ミサイルで届きます。
2024年11月21日ドニプロ攻撃ミサイルの種類情報錯綜
- 宇:RS-26ルベーシュ ※前日の発射準備の推定報道
- 宇:ICBM ※空軍司令部の初期推定
- 米:RS-26ルベーシュの派生型 ※政府報道官
- 露:オレシュニク(マッハ10、欧州全土を射程) ※大統領及び軍関係者
- 宇:ケードル(マッハ11、約800kmを15分間飛行) ※情報機関の推定
※RS-26ルベーシュは最大射程5500kmをやや上回りぎりぎりICBM。
※マッハ10~11は最大射程1300km前後の準中距離弾道ミサイル。
- RS-26ルベーシュは最大射程5500km(ICBMとIRBMの境目)
- 実際に観測されたのはマッハ10~11で最大射程1300kmのMRBM
- 欧州全土を射程に収めるならば射程3000km(IRBMとMRBMの境目)
一部の情報が矛盾しているように見えます。しかし敢えて全ての情報が正しいとした場合、次のような説明が可能です。ロシアの新型弾道ミサイル「オレシュニク」は弾頭重量の違いで3種類の射程を持つという仮説です。
仮説:RS-26ルベーシュ派生型「ケードル」複合体
○軽量弾頭:ICBM(射程5500km)
○中量弾頭:IRBM(射程3000km)
○重量弾頭:MRBM(射程1300km) ※オレシュニク
※あくまで仮説です。
ICBM・IRBM級の巨大な弾道ミサイルでありながら破格の8トンもの大重量弾頭を搭載しSRBM級の短い射程しかない特殊なミサイルの前例としては韓国の「玄武5」があります。
ただし玄武5は通常弾頭での貫通弾頭なので貫通力の為に重くする必要があったという理由がありますが、クラスター弾頭ではわざわざ大きなミサイルに大きな親弾頭を積む必要がありません。どのみち子弾は小さいので複数の小さなミサイルに小分けして搭載しても問題が無いので、だったら少ない労力で用意しやすい複数の小さなミサイルの方が適切なのではないかという疑問が残ります。しかし11月21日のドニプロ攻撃ミサイルはクラスター弾頭型だったのです。
【関連記事】
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【用語解説】弾道ミサイルの射程と速度(速度は大まかな数値)
- ICBM:大陸間弾道弾、射程5500~1万数千km、マッハ18~23
- IRBM:中距離弾道弾、射程3000~5500km、マッハ15~18
- MRBM:準中距離弾道弾、射程1000~3000km、マッハ9~15
- SRBM:短距離弾道弾、射程1000km未満、マッハ9未満
【用語解説】複数弾頭
- MIRV(Multiple Independently-targetable Reentry Vehicle:複数個別誘導再突入体)
- MRV(Multiple Re-entry Vehicle:複数再突入体)
【RS-26ルベーシュ】
- РС-26 «Рубеж» | 露語の綴り
- РС-26 «Рубіж» | 露語を宇語に転写
- RS-26 "Rubezh" | 露語を英語に転写
【オレシュニク】
- Орешник | 露語の綴り
- Орєшнік | 露語を宇語に転写
- Oreshnik | 露語を英語に転写
【ケードル】
- Кедр | 露語の綴り
- Кєдр | 露語を宇語に転写
- Kedr | 露語を英語に転写
※ケードルはロシア語でヒマラヤ杉の意味。この植物名としてはウクライナ国内では露語と同じ綴り「Кедр」を使い、「Кєдр」はロシア軍の兵器名称で使われる。
※オレシュニクはハシバミ(榛)というブナ目カバノキ科ハシバミ属の落葉低木のロシア語名称。この植物に対してはウクライナ語では全く別の呼び方でリシュチィナ(Ліщина)と呼称する。ロシア軍の兵器名称はロシア語準拠で転写した綴りを使用する。
※ルベーシュはロシア語で国境や防衛線などの意味。ウクライナ語ではルビージュ。