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北朝鮮の党大会で発表された新型兵器開発計画。MIRV、極超音速滑空兵器、原子力潜水艦

JSF軍事/生き物ライター
北朝鮮発表より2020年10月10日の軍事パレードで登場した11軸車載移動発射機

 北朝鮮は2021年1月5日から1月7日まで朝鮮労働党の党大会を開き、幾つかの新たな発表を行いました。中でも1月9日に北朝鮮の国営報道機関である労働新聞で発表された内容には、驚くべき新型兵器の開発計画が記されています。

北朝鮮が計画している新型兵器

  • 多弾頭個別誘導技術(ICBM用のMIRV)
  • 極超音速滑空弾頭(極超音速滑空ミサイル)
  • 新型原子力潜水艦(水中発射弾道ミサイル搭載)
  • 固体燃料式長距離弾道ミサイル(地上発射及び水中発射)
  • 長距離弾道ミサイルの命中精度向上(射程15000km)
  • 中長距離巡航ミサイル(詳細不明)
  • 様々な電子戦兵器
  • 無人攻撃兵器と偵察観測手段(行動半径500km)
  • 軍事偵察衛星

 北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)用に多弾頭式の個別誘導複数目標再突入体(MIRV)を開発していることが明言されました。また極超音速滑空ミサイルの開発も開始されています。

 どちらも実用化までには長い時間が掛かると思われますが、北朝鮮が完成させた場合にはアメリカは対抗できる新たな迎撃手段を用意せねばならず、それはアメリカと北朝鮮の軍事バランスのみならずアメリカとロシア・中国との大国間の核抑止力のバランスに影響を与えてしまうことになりかねません。

 本来、弾道ミサイル防衛とは冷戦時代のABMとは異なり「大国間の核抑止力に影響を与えず、中小国のミサイル脅威を完封する」という方針で迎撃能力をわざと制限されており、アメリカとロシアが談合して成立したものでした。しかし中小国のミサイル技術の向上に合わせて迎撃能力を向上させていくと、この基本方針が崩れてしまうことになります。それは大国間の核軍拡を誘発させてしまいます。

 アメリカが開発計画を準備している多弾頭迎撃体(MOKV)を本格始動することは必至です。また中国に対抗するために既に始動している極超音速兵器迎撃ミサイルと衛星探知手段(コンステレーション化された早期警戒追尾衛星群)の開発計画が、北朝鮮対策としてさらに加速することになるでしょう。中国の極超音速兵器は現時点では中距離のものしかありませんが、北朝鮮が長距離のものを開発する前提で新たに迎撃システム開発計画が組み直されることになります。それはロシアの長距離極超音速兵器「アヴァンガルト」の抑止力に影響を及ぼします。

 また北朝鮮の水中発射弾道ミサイル(SLBM)を搭載する新型原子力潜水艦の建造計画はそれだけでも脅威ですが、これは韓国が以前から計画していながらアメリカが良い顔をしないために始動できない原子力潜水艦保有計画に大義名分を与えてしまいます。北朝鮮の戦略原潜を監視攻撃するために韓国が攻撃原潜を保有したいと改めて言い出す可能性が高いでしょう。

 北朝鮮が新たに発表した新型兵器の数々は、もしそれらが本当に実戦配備された場合、周辺国のみならず全世界規模で大規模な核軍拡を誘発する可能性が生じます。北朝鮮とアメリカとの間で軍備管理が進まない限り、この望ましくない未来が訪れることになってしまいます。

 そして今回の北朝鮮の発表内容には「核先制、報復攻撃能力を高度化する」という文言が含まれており、先制核攻撃を手段として排除していません。これはアメリカのバイデン新政権の核政策にも影響を及ぼしてしまう可能性があります。

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軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

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