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現役バリバリ!92歳のレジェンド俳優、坂本長利。「今回の役は町に体をなじませることから始まりました」

水上賢治映画ライター
「モルエラニの霧の中」に出演した坂本長利  筆者撮影

 2011年に東京から故郷である北海道室蘭市に移住した映画作家、坪川拓史が、出会った地元の人々からきいた逸話を元に、実際にその場所で、ときに本人も出演者となって撮影した映画「モルエラニの霧の中」。

 完成まで5年の歳月がかけられた本作は、コロナ禍による劇場閉鎖の影響も受け、そこからさらに2年の時を要して船出を迎え、現在も全国各地での公開が続く。

 本作に携わった各人に登場いただき、その作品世界に迫るインタビュー特集。菜 葉 菜(前編後編)、坪川監督と草野康太(前編後編)、香川京子、音楽家の穂高亜希子(前編後編)、新進女優の久保田紗友(前編後編)、橋本麻依・さくらの母娘(前編後編)に続いて登場いただき、最後を締めていただくのは吉井武治役を演じた坂本長利。

 人気ドラマ「Dr.コトー診療所」の村長役などで知られ、今年92歳を迎えたレジェンドに訊いた。(全二回)

佐野のほうまでわざわざ坪川監督が来てくれた

 はじめに坪川監督作品には前作「ハーメルン」にも出演している。監督との出会いは同作だったという。

「いま僕は栃木県の佐野市に住んでいるんです。

 そうしたら、佐野のほうまでわざわざ坪川監督が来てくれてね。

 『ハーメルン』では、廃校になった学校で暮らす元校長を演じたんだけど、いま考えるとその役に僕が合うのか合わないのか、監督はオーディションをしてたのかな(笑)。

 なにを話したかはよく覚えてないけど、とにかくよくしゃべりました。で、最後に『決めましたから』と坪川監督に言われたんですよ。

 まあ、それで元校長役を演じることになりました。

 撮影でよく覚えているのは、役のことよりも(苦笑)、映画にも登場していますけど、あの大きなイチョウの木。

 あの木に僕は心を惹かれちゃって、思わず根っこのところに座り込んでしまったことをよく覚えています。

 あと、あの場所は雪深いところでね。ものすごく寒い。

 学校のトイレはもう使えなくなっていたので、近くのお家に借りにいかなければならなかった。

 だから、男の連中はともかく、女優のみなさんは大変だったんじゃないかな」

「モルエラニの霧の中」に出演した坂本長利  筆者撮影
「モルエラニの霧の中」に出演した坂本長利  筆者撮影

僕はこれまで監督やスタッフと仲良くなって、連絡を取り合うになった人は

ほとんどいない。なぜか坪川監督とは連絡をとるようになった

 「ハーメルン」以後、坪川監督とは連絡をとるようになったという。

「僕はこれまで監督やスタッフと仲良くなって、連絡を取り合うになった人はほとんどいないんですよ。

 ただ、坪川監督だけはどういうわけか、連絡をとるようになって。電話でときどきお話をするようになったんです。

 『ハーメルン』の公開が2013年で、今回の『モルエラニの霧の中』の撮影が2015年に始まっているので、監督から『また撮るので』という話をいただき、どういう映画か知りたくて話し始めたのがきっかけだった気がするんですけど、気づけば連絡をとりあうようになっていた(笑)。

 そのうち、坪川監督の奥さんとも話たりして(笑)。単なる俳優と監督というよりかは身内じゃないけど知り合いみたいな感じで連絡を取り合うようになりました。

 その流れで今回の出演もお願いされて、いろいろと説明されたんですけど、もうこれは現場に行ってみないとわからないなと。

 それで、『わかった。じゃあ、とりあえず現場行ってみるか』と室蘭に行きました(笑)」

よそから来た自分はどうするとなったとき、

もう体をどうにかして町になじませるしかなかった

 出演者のひとり、今は亡き俳優、大杉漣は、この土地になじまないと室蘭の市民キャストの人たちに到底太刀打ちできないと町を徹底的に歩いたという。坂本もまったく同様で役作りは町になじむことから始めたという。

「この映画には、地元で実際に暮らしている市民キャストのみなさんが多く出演されている。

 みなさん、室蘭の町や風景で実際に生きていることが伝わってくるし、その土地に自然にとけこんでいる。

 正直、かなわないと思いましたよ。じゃあ、よそから来た自分はどうするとなったとき、もう体をどうにかして町になじませるしか術はない。

 となると、町を歩いてその土地の空気を体で感じて、風景や町並みをよくみて自分の中での日常の風景にしていく。そういったことが必要で。

 とにかく町中をくまなく歩いて、土地勘をつけていったというかな。よく歩きましたよ。

 映画に登場する水族館までは町の中心部からはけっこう離れているんですよ。

 バスがあることはきいていたんですけど、いつ来るか分からない(笑)。

 で、『歩いちゃえ』と思って歩いていくことにしました。

 そして、着いたら水族館がその日、閉館日で(笑)。がっくりしながら復路もとりあえず歩き始めて、時々立ち止まって後ろを振り向くんだけど、バスが来る気配はない。

 で、結局、何時間かかったのかな、ほんとうに往復歩きましたね。

 あと、室蘭駅は室蘭本線の確か終点なんだけど、そのひとつ前に『母恋(ぼこい)』駅があって、響きがいいなと思って。その駅にも歩いていきました。

 もう覚えてないけど、なんか山の中も歩いた記憶があります。神社をみつけたら石段を上がって参拝したりと。

 でも、そうするとだんだん空気が肌にぴたっとくっついてくるというか。

 体にその土地がなじんだようになってね、ようやく役のベースができた感じだったかな」

(※第二回に続く)

「モルエラニの霧の中」より
「モルエラニの霧の中」より

「モルエラニの霧の中」

11/4(木)まで佐賀・THATER ENYAにて公開中

詳しい情報は公式サイトにて http://www.moruerani.com/

筆者撮影以外の写真はすべて(C)室蘭映画製作応援団 2020

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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