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現在21歳、注目集める新進女優、久保田紗友。「14歳だったわたしがそのまま映っている気がします」

水上賢治映画ライター
「モルエラニの霧の中」より

 2011年に東京から故郷である北海道室蘭市に移住した映画作家、坪川拓史が、出会った地元の人々からきいた逸話を元に、実際にその場所で、ときに本人も出演者となって撮影した映画「モルエラニの霧の中」。

 完成まで5年の歳月がかけられた本作は、コロナ禍による劇場閉鎖の影響も受け、そこからさらに2年の時を要していま全国各地での公開を迎えている。

 本作に携わった各人に登場いただきその作品世界に迫るインタビュー特集。菜 葉 菜(前編後編)、坪川監督と草野康太(前編後編)、香川京子、音楽家の穂高亜希子(

前編後編)に続いてご登場いただくのは、久保田紗友。

 現在「藍に響け」も公開され、新進女優として脚光を浴びる彼女のインタビューを2回に分けて届ける。

 映画、ドラマと出演作が相次ぎ、現在注目を集める彼女だが、「モルエラニの霧の中」の出演は、上京する前。作品をみても、まだあどけなさが残るころだった。

 はじめに坪川監督との出会いをこう振り返る。

「当時、地元の北海道でスクールに通ってダンスなどを学んでいました。

 そのときスクールのスタッフの方と坪川監督と3人で、お会いして雑談をした記憶があります。

 なにを話したかはあまり覚えていないんですけど(笑)、場所と坪川監督とお会いしたことは鮮明に覚えています。

 映画出演へのお話をいただいて、まだお芝居の経験も少なかったので、純粋にうれしくて、『よろしくお願いします』とお返事しました」

俳優になりたい気持ちとまだ何者にもなれていない気持ち、これからどうしようという気持ちが混在していて、どこか宙ぶらりんの状態だった気がします

 当時、まだ14歳。すでにドラマやCMに出演していたが、この先、どういう道を歩むのか決めていたわけではなかった。

「物心ついたときから、芸能の世界には憧れていて、この道に進みたいとは思っていました。

 ただ、14歳のときはまだあやふやといいますか、覚悟自体はできていなかったと思います。

 私が本格的に『この世界(芝居)でやっていきたい』と覚悟が決まったのは、上京して高校に通い始めてから。

 芸能コースのある高校に進学したんですけど、同時に母も一緒に上京してくれたので、『もう後には引けない』と、この世界で頑張ることを誓いました。

 『モルエラニの霧の中』は、その前。俳優になりたい気持ちとまだ何者にもなれていない気持ち、これからどうしようという気持ちが混在していて、どこか宙ぶらりんの状態だった気がします」

桃子は私自身が投影されている役だなと感じました

 こうした微妙な時期に当たっていたが、演じた桃子(とうこ)についてはすんなり自分の中に入ってきたという。

「坪川監督はほとんどの役があてがきとおっしゃっていますけど、桃子も私自身が投影されている役だなと感じました。

 桃子は父を亡くし、いまは老人介護施設で働く母の七海と二人暮らし。思春期の多感な年ごろを迎えて、どこか父の不在に寂しさを覚えながら、父との思い出を探しに科学館に行ったりする。

 こうした境遇や性格的な部分まで自分と重なるところがあって、坪川監督とお話して、『ここまで反映された役ができてしまうんだ』と驚きました。

 あと、少し話が脱線するかもしれないんですけど、私が東京に出てきて間もなく舞台に出演したんです。坪川監督も観にきてくださったんですけど。

 その舞台というのが、亡くなったお父さんが、娘に会いに来るというお話で。

 亡くなったお父さんが、娘に会いに来るんですけど、その娘には父の姿がみえない。それで、ある女の子を通して、再会する。

 この役に引き合わせてくれたのも、坪川監督なんじゃないかと思いました。

 なので、坪川監督には勝手ながらご縁を感じていますし、桃子という役を与えてくださったことに感謝しています」

「モルエラニの霧の中」より
「モルエラニの霧の中」より

 久保田が演じる桃子がメインを務めるのは<第5話 秋の章/科学館のはなし「名前のない小さな木」>。

 7年前に父を亡くした中学三年生の桃子は、母の再婚を機に別の町へ越すことに。

 そのとき、父とのある思い出に気づいた彼女のちょっとした冒険と、愛着ある土地との別れの近づいた心境が描かれる。

「自分が投影されているので少し説明するのは恥ずかしいんですけど、桃子には共有できる部分が多くありました。

 たとえば、彼女は引っ越すことが決まっていて、この町のことをずっと忘れないと思いながらも、忘れてしまったらどうしようという不安もある。この町を出ていってしまう後ろめたさのようなものもある。

 もしかしたら、二度とこの土地には来ないかもしれない、一抹の寂しさも抱えている。

 私自身も地元を離れて上京することを考えていたころでしたから、ひとつひとつ自分の身に置き換えて考えてましたね」

「モルエラニの霧の中」メイキングより
「モルエラニの霧の中」メイキングより

ありのままの14歳だったわたしがそのまま映っている気がします

 桃子は、<第5話 秋の章/科学館のはなし「名前のない小さな木」>をメインを務める一方で、<第6話 晩秋の章/蒸気機関車の話「煙の追憶」><第7話 初冬の章/樹木医のはなし「冬と虫と夏の草」>にも関わる。

 後半の3章に関わる重要な役どころといっていい。ただ、不思議と気負いはなく、等身大で臨めたという。

「さきほども少しお話した通りに、当時はまだ中学生だったので、この仕事でやっていけるかも定かではなかった。

 キャリアもほとんどなかったですから、ある意味、怖いモノ知らず。もう、そのままの自分でやるしかなかった。

 そのような中で、ありがたいことにいただいたのが、坪川監督がわたしにあてがきしてくださった桃子という人物で、等身大で演じることができた。

 また、共演者である橋本まゆ役の竹野留里ちゃんは、同じ年で。彼女がいてくれたおかげで、撮影現場も学校の延長線上で友だちと話しているような感覚で、楽しかったです。

 確か撮影の日に初雪が降ったんです。制服だったのでスカートでしたけど、当時は全然寒くなかったんです。いまだったら寒さに耐えられないかもしれないです(苦笑)。

 それぐらい『モルエラニの霧の中』には、ほんとうに等身大、ありのままの14歳だったわたしがそのまま映っている気がします。桃子なんだけど久保田紗友でもある。あのときのわたしそのものがいる

 ただ、まぎれもないわたしなんですけど、撮影から7年が経っていて、いまみると、なんだか別人にも思えて、不思議な感覚になります」

「モルエラニの霧の中」メイキングより
「モルエラニの霧の中」メイキングより

桃子は、自分のひとつの指標になってくれた大切な役

 また、桃子という役を通して、いまこんなことも感じているという。

「<第5話 秋の章/科学館のはなし「名前のない小さな木」>の中で、桃子は大きな変化に直面する一方で、たとえば自らのルーツといった自身の核となることを意識することになる。

 いまわたしは俳優の道に進んでいますけど、役を演じる上ではある意味、変化していかなければならない。

 変化を恐れてはいけないと思うし、新しいことにどんどんチャレンジしていかないといけない。

 でも、一方で、変わらないことも大切にしたい。自分の中で、北海道という場所は大切なルーツで自分の原点はここにある。それは見失ってはいけない。

 いいこともあれば悪いこともあると思うんですけど、どんなときもおごらず、卑屈にならず、自分という人間を見失わないようにしたい。そういうところは、いくつになっても変わりたくない。

 ある意味、桃子は、自分のひとつの指標になってくれたというか。自分がきちんと変化して成長しているか否かもわかれば、自分を原点にいつでも戻してくれるような大切な存在になった気がします!」

(※後編に続く)

「モルエラニの霧の中」より
「モルエラニの霧の中」より

「モルエラニの霧の中」

6月18日(金)より シネマ・クレール丸の内(岡山)、

6月21日(月)より ガーデンズシネマ(鹿児島)、

2021年6月25日(金)より 京都みなみ会館(京都)、

2021年7月16日(金)より 静岡東宝会館(静岡)にて公開予定。

詳しい上映劇場は公式サイトにて http://www.moruerani.com/

写真はすべて(C)室蘭映画製作応援団 2020

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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