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国内外で反響を呼んだ18分の日本映画。まとめたものの1年放置、応募締切日にほぼ即興で完成へ

水上賢治映画ライター
「それはとにかくまぶしい」より

 2年に一度の隔年で開催されるドキュメンタリー映画の祭典<山形国際ドキュメンタリー映画祭>(以下、YIDFF)。

 コロナ禍でオンライン開催となった2021年を経て、昨年の開催は実に4年ぶりのリアル開催に。本来の姿を取り戻した映画祭には、連日盛況で終幕を迎えた。

 その本開催の翌年に行われている恒例の特集上映が<ドキュメンタリー・ドリーム・ショー 山形in東京2024>だ。

 本特集は、昨年のYIDFFの<インターナショナル・コンペティション><アジア千波万波>部門に選出された作品を中心に上映。そこに今年は「パレスティナ-その土地と歩む」と銘打たれたパレスティナに思いを寄せる特集プログラムが加わり、約2万人の観客が押し寄せた昨年のYIDFFが、東京で実感できる貴重な機会となる。

 そこで、この機会に二作品の監督へのインタビューをお届けする。

 映画「Oasis」の大川景子監督に続いては、「それはとにかくまぶしい」の波田野州平監督。

 YIDFFのコンペティション<アジア千波万波>部門に選出された同作は、18分の短編作品。あえて分類するならばアヴァンギャルド、映像詩、アート・ムービーといった枠組みに入るのだろう。

 ただ、前衛的ではあるけれども、わかる人だけ分かればいい、わかる人だけがわかる的な、相手を選ぶような難しさもなければマニアックな作品でもまったくない。

 コロナ禍という人と人の交流が途絶え、閉ざされた時期を背景に生まれた作品でもあるのだが、色のないモノトーンの世界にもなっていない。

 わたしたちはほかに気をとられてしまって見過ごしてしまってはいまいか?実はそこかしこにあるのだけれど、普段はなかなか気づけない、そんな日々の営みの中にある素敵な出来事、誰かとの愛おしい時間、幸せな思い出、ふとした瞬間に甦る忘れられない過去の記憶の断片が紡がれている。

 そのショットの数々は、題名通りに「とにかくまぶしい」。

 そして、何気ない日々の営みにある「輝ける瞬間」をとらえた映像は、まぎれもなく美しく、幸せが溢れている。

 言葉ではなかなか説明を尽くせない体験を約束する本作について波田野監督に訊く。全四回/第三回

「それはとにかくまぶしい」の波田野州平監督   筆者撮影(昨年のYIDFFにて)
「それはとにかくまぶしい」の波田野州平監督   筆者撮影(昨年のYIDFFにて)

当初は映画としてまとめようという意識はあまりなかった

 前回(第二回はこちら)は、本作の背景にあるコロナ禍について語ってくれた波田野監督。

 コロナ禍の中で毎日カメラを回し、そこに映る日常の断片を収めていく中で、どのようにして作品は出来上がっていったのだろうか?

「当初は映画としてまとめようという意識はあまりありませんでした。

 きっかけとしてはビデオレターといいますか。

 2020年の4月から毎日毎日、その日あったことを撮って、撮った映像を編集してまとめる。まとめたら前日にまとめたものとつなげる。

 そのような付け足していく編集を続けていったら、ちょうど1カ月した4月30日に音の入っていない5分ぐらいの映像にまとまったんです。

 翌日、5月1日でちょうど区切りもいいし、直接会うこともできないでいたので、知人や友人に『みなさん元気でやってますか?』みたいなことでメールにその5分の映像をつけて送ったんです。

 そうしたら、ことのほか好評で。みんなからいろいろな感想が返ってきました。

 そこで味をしめたというか(笑)、いい近況報告にもなるしちょっと続けてみようと思ったんです。

 それから同じことを繰り返して、撮影して夜に編集して1カ月すると1本にまとまって、それを近況報告も兼ねて友人や知人らに送る。

 ただ、経済活動がだんだんと戻りはじめると、みんなも忙しくなって反応も減り始めて(苦笑)。

 それでも翌年2021年の4月まで、1年続けて、合計すると1時間ぐらいのサイレント映像になっていました」

「それはとにかくまぶしい」より
「それはとにかくまぶしい」より

ほんとうに必要なものだけ残そう

 そこからどのようになっていったのだろうか?

「すぐに手をつけることはなくて、しばらく置いたままになっていました。

 なにがきっかけでそうなったのかいまひとつ覚えていないんですけど、あるとき、ちょっとこれ形になるかもしれないと思って見直すことにしたんです。

 でも、 最初に(約1時間のサイレントのものを)見たときは、正直、これでは成立していないと思いました。

 月単位でまとめた5分の映像としては成り立っていても、それをつなげた60分の映像となると、どうも余計なところが目について、もっと削った方がいいと思いました。

 そこで、少し手を入れて編集し直すことにしました。

 編集を重ねることで、自分の納得できる全体像が見渡せる形になりました。

 自分が感じていたことやカメラでとらえようとしていたこと、そういったものを整理してまとめることができました。

 ただ、それで飽き足らずといいますか。これはもう極限まで切り詰めてみようと思ったんです。ほんとうに必要なものだけ残そうと。

 そのときに時系列や順序も少し入れ替えて、いまの18分の形になりました」

「それはとにかくまぶしい」より
「それはとにかくまぶしい」より

まとめたものの1年間放置状態に……

 ただ、これで完成というわけではなかった。

「いまの形にまとまって、そこからたぶん1年ぐらい寝かせてしまったんです。

 というのもサウンドで躓いたといいますか。

 当初はサイレントのままでもいいのかなと思いました。

 でも、それこそ自分が映画で表現したいと思っている『記憶』などを伝わるものにしたいと考えると、やはり語りや言葉が必要だなと思って。きちんとサウンドを入れた方がいいと思ったんです。

 でも、究極にカットしたこともあって矢継ぎ早に映像がつながれている。ここにどんな語りや言葉を入れるのがいいのか、わからない。

 そもそも言葉や語りのテキストやサウンドを入れ込む余地がないようにも思える。

 最終的に使うことになる、パンデミックのときにちょっと思いついたことや感じたことを書いたりメモしたり録音したりしてたので、この言葉を使いたいなと思うんですけど、どうはめればいいのか皆目見当がつかない。

 それと誰に頼まれているわけでもないから、いつまでに終わらせなきゃいけないということもない。

 それで放置状態になってしまったんです。

 そうこうしているうちに、YIDFF2023の応募作品の募集が始まって。『これだ』と。

 これをデッドラインにしないと、もう一生手をつけないで終わると思って、もう山形に行きたい一心で、悩みに悩んだ挙句、結局、応募締切日にすべてつけて完成させたんです。

 もう最後はいい意味で開き直って、自分の閃きを大切にして、即興のような形で言葉をつけていきました。

 結果論ではあるんですけど、1年寝かせたことも今はよかったかなと感じています。

 1年間を置いたことでいい意味で映像と距離を置くことができました。パンデミックという事実ともいい具合に距離がとれて、冷静に向き合うことができました。

 落ち着いてあのときを振り返ることができたから、自分の気持ちやそのとき感じたことを素直に作品に反映することができたと思います」

(※第四回に続く)

【「それはとにかくまぶしい」波田野州平監督インタビュー第一回】

【「それはとにかくまぶしい」波田野州平監督インタビュー第二回】

「ドキュメンタリー・ドリーム・ショー 山形in東京2024」ポスタービジュアル  提供:シネマトリックス
「ドキュメンタリー・ドリーム・ショー 山形in東京2024」ポスタービジュアル  提供:シネマトリックス

<ドキュメンタリー・ドリーム・ショー 山形in東京2024>

11/9(土)~11/20(水)までアテネ・フランセ文化センターにて開催

「それはとにかくまぶしい」(※波田野監督作品「旅のあとの記録」と

「影の由来」併映)は11/11(月)14:00~

波田野州平監督トークあり

詳細は公式サイト https://cinematrix.jp/dds2024

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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