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トランプ氏、起訴直後の支持率でライバルを2桁リード “獄中の大統領候補”となって当選を狙う?

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 「魔女狩りはジョー・バイデンにとってとんでもなく裏目に出るだろう。アメリカの人々は、急進左派の民主党がやっていることをはっきりと認識している」

 トランプ氏による元ポルノ女優への「口止め料」支払い疑惑をめぐって調査を行っていたニューヨーク州の大陪審に、1つの重罪を含む複数の罪状で起訴されたと報じられているトランプ氏は声明文を出して民主党を非難した。

 窮地に追い込まれたかに見えるトランプ氏だが、米国史上初の大統領経験者の起訴というビッグニュースが世界を駆け巡ったことは、トランプ氏にとって追い風になったのだろうか、トランプ氏の支持率が大きく上昇している。

 トランプ氏起訴が発表された直後、1089人の有権者に対して行われた世論調査Yahoo! News/YouGov pollによると、トランプ氏と大統領選に出馬したら最大のライバルになると目されているフロリダ州知事ロン・デサンティス氏の1対1対決では、共和党支持者と共和党寄り無党派層の間では、トランプ氏支持が57%、デサンティス氏支持が31%という結果となり、トランプ氏がデサンティス氏を26ポイントと2桁リード、先月行われた同じ世論調査の8ポイントリードを大きく上回った。

 また、「今日、共和党大統領予備選が行われたら誰に投票するか?」という質問に対しては、共和党支持者と共和党寄り無党派層の52%がトランプ氏、21%がデサンティス氏、5%がニッキー・ヘイリー氏、3%がマイク・ペンス氏に投票すると、起訴後も、過半数がトランプ氏に投票すると答えている。

起訴で支持率上昇

 起訴による大幅な支持率上昇。これは、トランプ氏にとっては、嬉しい展開だろう。さる3月25日、トランプ氏は、テキサス州で開いた大統領選出馬表明後初の大規模集会で、精彩を失いつつある様子を見せていたからだ。検察批判や第3次世界大戦は自分なら防げるという、トランプ氏お決まりのレトリックには新しさが全然感じられなかった。

 トランプ氏が“デサンティス氏がフロリダ州知事に自身を推薦するようお願いしてきたので、推薦したから、彼は州知事に当選したのだ”と言って同氏を嘲った時は、会場を沈黙が襲った。通常、トランプ氏を支持しているフォックス・ニュースでさえも、しらけた会場の雰囲気を報じていた。トランプ氏支持者の間では、かつてのような熱狂が失われつつある。そんな中、今回の大々的な起訴報道である。トランプ氏は内心、ほくそ笑んでいるのではないか。というのは、トランプ氏は、それがたとえどんなにネガティブな報道であっても、自身にとってはポジティブになると考えるからだ。

トランプ氏にとって最悪なこととは

 トランプ氏に大きな影響を与えた人物に、ロイ・コーンという弁護士がいるが、彼はトランプ氏に、たとえどんなにひどい記事を書かれたとしてもそれを喜んで受け入れるようアドバイスしていたと言われている。だからだろう、トランプ氏は自身にとってネガティブな記事であっても、それが新聞の第一面を飾らないと不満さえ訴えていたようだ。

 たとえば、トランプ氏は、不動産王として鳴らしていた時代、ハイアットホテルをニューヨークに呼び込むべく、市の助成金が得られたと同ホテルに対してハッタリをかましたことがあった。実際には、市の助成金が得られていない事実を嗅ぎつけた新聞社がトランプ氏のハッタリをすっぱ抜く記事を掲載したのだが、その記事は第一面には掲載されなかった。そのことを知ったトランプ氏は不服そうにこうつぶやいたという。

 「なぜ第一面に載っていないんだ」

 つまり、トランプ氏が最悪だと感じるのは、記事が第一面に載らずに片隅で小さく報じられ、人々の注目を全然浴びないこと。翻せば、“米国史上初の大統領経験者起訴”という、これまでになくネガティブなビッグニュースが世界中で大きく報じられた今ほど同氏にとって喜ばしいことはないはずだ。

バイデン氏にはまだ負けている

 もっとも、ライバルのデサンティス氏を2桁リードしたトランプ氏だが、バイデン氏との1対1対決では、前述のYahoo! News/YouGov pollが有権者に行った世論調査では、バイデン氏支持が45%、トランプ氏支持が43%と、トランプ氏はバイデン氏に2ポイントリードを許している。

 バイデン氏をリードするためには、トランプ氏はネガティブなニュースが、もう一声ほしいところかもしれない。たとえば、それは有罪判決か? トランプ氏なら、有罪判決は大歓迎だろう。有罪判決となり刑務所に送り込まれれば、“獄中の大統領候補”という、ある意味、かっこ良すぎるレッテルが貼られて、選挙活動ができることになる。トランプ氏にとって、これほど、魅力的なふれ込みになるものはないのではないか。

 もう一声のネガティブなニュースが報じられることになるのかならないのか、4月4日の罪状認否により始まる裁判から目が離せない。

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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