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トランプの大統領選出馬表明演説に「退屈だ」「終わった」の声 カリスマ性のないお利口さんに路線変更?

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 これがあのトランプ氏? トランプ氏が大統領選出馬を表明した演説を見た人は少なからずそう感じたのではないか? まるで台本でも読むかのように淡々と話すトランプ氏からは、持ち前の覇気や強さが感じられなかった。あの“トランプ節”はいったいどこへ行ってしまったのか? おとなしく、トーンダウンしたトランプ氏の様子に、拍子抜けしてしまった。会場からも、これまでのような熱気が沸き上がっていなかったように見えた。

退屈、冴えない

 ツイッターを見ても「退屈だ」「エネルギーが低い」「弱い」「冴えない」などのコメントが多々みられる。来場者の中にも“つまらない”と感じた人々が少なくなかったのだろう、会場から出て行こうとした人もいたようだが、彼らは演説が終わるまで会場から出ないよう警備員にブロックされたと報じられている。トランプ氏に好意的な保守系のフォックス・ニュースまで、途中で中継を中断し、コメンテイターたちの発言に映像を切り替えたほどだ。

負けない、無敵

 一方、共和党の重鎮たちはトランプ氏の演説を高評価している。

 リンジー・グラム上院議員は「トランプがこのトーンとメッセージを一貫して続ければ、彼は負けないだろう。自分の政策やその結果をバイデン政権と対照させた彼の今夜の演説は、予備選と本選で彼が勝つ道筋を描いている」とツイートし、マイク・ハッカビー上院議員も「トランプは2024年、無敵だ」と絶賛している。

 言い換えれば、トランプ氏の演説は、共和党の重鎮たちが喜ぶような共和党らしいまともな演説に変わったということもできるのではないか? それゆえ、逆に、退屈で、つまらないと人々に感じさせたのかもしれない。

トランプは終わった

 では、なぜ、演説のトーンを変えたのか? 

 一つには中間選挙でトランプ氏の支援した候補者が次々と落選したことから、「トランプは終わった」という見方が示されているからだろう。

 ニューヨーク・タイムズは「ドナルド・トランプはやっと終わった」というタイトルで、「トランプは、ようやく、疲れ知らずの擁護者たちや右翼メディアの多くから見捨てられようとしている」とし、フォックス・ニュースの司会者のローラ・イングラム氏が「国よりも自分のエゴや怨念を優先していると有権者が断定したら、彼らはそっぽをむくでしょう」とトランプ氏の姿勢を批判する発言をしたことを紹介している。

 保守派のご意見番として知られるアン・コートラー氏も「トランプは終わった。彼に執着するのは止めた方がいい」と述べている。

「脳のあるトランプ」の存在

 また、背後には、ある存在があると思われる。それは、大統領選でトランプ氏の最大のライバルになると言われているフロリダ州知事のロン・デサンティス氏だ。大統領選出馬が目されているデサンティス氏は、好戦的で自信満々なところなどトランプ氏との類似性が多々指摘されている「トランプ2.0」と言える存在だが、同時に知性もあり政策もよく理解していることから「脳のあるトランプ」、「中身のあるトランプ」などとも表現されている、いわば、トランプ氏を賢くしたような政治家で、共和党ではデサンティス時代が来たという見方が強まっている。

 世論調査でも、トランプ氏よりデサンティス氏を支持する声が高まっている。調査会社ユーガブが中間選挙後、共和党支持者を対象に行った世論調査の結果、大統領選候補としてはデサンティス氏が42%、トランプ氏が35%の支持を集めた。有権者は新しさを求めているのかもしれない。

 もっとも、そのデサンティス氏はトランプ氏の“申し子”でもある。トランプ氏は2018年のフロリダ州の知事選の際、同氏を自身の後継者とする見方を示して推薦し、当選へと導いたからだ。

 しかし、トランプ氏としてはまだ国の指導者の座を引き渡したくないのだろう。焦ったトランプ氏はこれまでと同じ戦略では勝てないと認識し、対抗上、あえて、レトリックをトーンダウンさせることで、重みのある賢い候補者へと路線変更しようとしているのではないか?

 しかし、熱いものが感じられず、カリスマ性も感じさせず、お利口さんになったトランプ氏に、トランプ支持者がどれだけついていくか疑問である。まともな大統領選出馬表明演説は人々のトランプ離れをいっそう加速させたのではないか。

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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