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大人の日帰りウォーキング 運動に関心が無い夫と別行動、妻がひとり旅を計画したら予想外の展開になった話

わか子ライター

あの日のよし君は大変だった。そう、夫婦二人で歩く旅をした日。

気が乗らないのか、ダラダラしているし。疲れたのをアピールするように無駄にはぁはぁと息をする。顔を見れば文句を言いたそうだし、バス停を見つければ、これ見よがしに時間を確認して途中リタイアしようとする。
それでも、前回は私が一緒に行こうと誘ったから仕方がないと思っていたけれど、あんな、乗り気でない様子でいられると私が気を使って疲れた。

前回の街道歩きより帰ってから、本人は何も言わなかった。
もう、これからは誘わなくて良いよね。そう思った。

ママともの由美子さんから久しぶりに連絡があり、ライン電話をしていた。
先日、主人と一緒に街道ウォーキングに行ったけれど、帰ってから何も言わないのよ。性に合わなかったと思う。だから、私1人で始めようと思ってね。

以前、夫婦で街道ウォーキングに行きたいから、良いコースを教えてほしいと相談されたので、楽しめそうなコースを紹介した。それには行ったけれど、どうやら、あまり良い話ではなさそうだ。
私(葉子)は数年前から歩く旅を楽しんでおり、街道歩きや登山をしている。もちろん、1人旅である。シングルなので一緒に行く相手がいないだけだけれど、あまり胸を張って言えるような理由ではない。人には言えない本音を言うと、1人の方が気楽で良い。
街道歩きは、登山やハイキングと違って街中を歩きつないでいくから1人でも大丈夫だし、1人で歩いている人も珍しくないよ。ご夫婦で歩いている人もいるし、ごくまれに、団体さんも見かけるよ。

そうなのね、安心したわ。と、言っても、葉子さんだって1人で歩いているから大丈夫だと思っていたけどね。そう答えて電話を切った。

電話では、コースの作り方や歩く道の調べ方を教えてもらった。葉子さんは、Googleマップで下調べをするというけれど、マニュアルのような本もあるので参考になると、本の名前も教えてくれた。
早速、アマゾンで街道歩きの本を探してポチする。行き先は、もう決めている。五街道の1つの甲州街道を歩いて、中山道と合流する長野県の下諏訪宿へ行く。無事に到着出来たら、温泉に入ってゆっくりしたい。できれば旅館に一泊するのも良いよね。
歩く旅は、自分で計画することだから期限もないし、マイペースでのんびり行こうか。
そう、思っていた。

旧甲州街道 旧笹子峠越え
旧甲州街道 旧笹子峠越え

大学を卒業してから務めてきた会社の定年退職まで、数カ月になった。いろいろ考えて、定年後は今の会社の嘱託社員として週に4日で働くことにした。収入は少なくなるけれど、ずっと家にいるよりは良いだろう。

自分にはこれと言った趣味はない。
子どもが小学生の頃には、子どもの所属していた少年野球のチームのお手伝いもしていたが、子どもの成長に伴いなくなった。気が付くと目前には定年退職が迫っており、何か、趣味でもと思っていた時に、由美ちゃんに誘われたのが日帰りで歩きつなげる、五街道歩きだった。
ハイキング気分で五街道歩きの旅をしてから二カ月以上たつ。
しかし、あれから由美ちゃんは何も言わない。楽しくなかったのか。
長く歩いている途中で自分が疲れただの、途中であきらめてバスに乗るだの、わがままを言いたい放題だった。由美ちゃんがいてくれたから、最後まで歩き通せたようなものだった。

しかし、今になって振り返ると、自分は自分なりに楽しかった。もちろん、運動不足の体にはきつい運動だったけれど、最後まで歩いた時の達成感はなんとも言えない嬉しさがあった。
よく頑張ったよな。
街道歩き、やってみるか。

仕事を定時で終わらせて家に帰る。コロナ渦では通勤電車も空いていたけれど、満員電車である日常に戻りつつある。つり革につかまり揺られていると、地下鉄は駅のホームに滑り込みながら減速していく。ホームにはたくさんの乗客が並んで地下鉄が着くのを待っている。ドアが開くと同時に電車から降りる人、電車に乗り込む人と大きな人の流れが動き出す。いつものようにその流れに乗りながら、乗り換えのホームに向かうエレベーターの列に並ぼうとしている自分に気が付いた。
階段にしようか。
エレベーターの列より脇にそれて、階段を登っていく列に向かう。何だか、自分がさっそうとしているスマートでイケてるおじさんの気分になる。周りの流れに合わせながら階段を登る。体を動かすのも良いじゃないか。

旧中山道 茂田井間の宿 武重本家酒造(長野県佐久市)
旧中山道 茂田井間の宿 武重本家酒造(長野県佐久市)

家に帰るとシャワーを浴びて、冷えた缶ビールを取りに冷蔵庫へ向かう。
由美ちゃんも飲もうよ。明日は土曜だしね。
そうね、私もいただくわ。
缶ビールとグラスを手に持ってテーブルに向かった。大学生の息子はバイトに忙しく、夫婦二人の夕食が当たり前になりつつあり、家族の形も変わってきている事を感じている。
子育て卒業か。
今日の夕飯は冷しゃぶだよ。
暑い日に冷しゃぶは最高だ。トマトと大葉のサラダも良く冷えていて美味しい。そして、何よりビールによく合う。

よし君、あれから街道歩きに行こうと言わないね。
ん、そのことを今日、話そうと思っていたよ。

週末の朝、時刻は9時30分になろうとしている。
もうすぐ定年になるアラカンの良人と、四捨五入すれば50歳と主張する由美子の夫婦は、地下鉄日本橋駅のホームにある地図を眺めていた。
どこの出口が近いのかな。
地下鉄日本橋駅から日本橋には少し距離があることがわかった。三越前駅なら日本橋の目の前に出られそう。しかし、三越前駅に停まる路線が銀座線か半蔵門線になるから、自宅からだと乗り継ぎが良くない。
よし君、仕事で日本橋に来ることはなかったの?
この辺りには縁がなかったよ。せいぜい、東京駅から新幹線で出張に行ったぐらい。有名な日本橋だけれど、じっくり来るのは初めてかもしれないな。
駅の階段を上ると、コレド日本橋(商業ビル)の中だけれど、朝が早いのでお店は空いていない。そのまま建物の外に出るけれど、ここがかわからずに、2人であたりを見回してみる。携帯ナビを取り出そうとしていると、よし君が歩き進んでいて、交差点の角から手招きで合図してくれていた。
何だか、よし君の様子が前回と違う気がする。
やる気があると言うか、前向きと言うか、自分から進んでするというか。心が入れ替わったのか。

朝のすがすがしい空気に包まれ、都心にいるにも関わらず気持ちが良い。空には青空が広がり、少しの雲が空のキャンバスに筆を下したように見える。

首都高の高架橋に掛かれている日本橋の文字に、これからの旅の始まりを感じて、何だか胸がおどる。こんなにワクワクする感情は久しぶりかもしれない。

日本橋(東京都中央区)
日本橋(東京都中央区)

あの首都高の高架は、撤去される計画があるってニュースで見た気がする。あれが無くなれば景色が変わるよな。

やっぱり、よし君なんか違う。楽しそうに見える。大丈夫?別の意味で心配になるけれど、余計なお世話か…。もしかして、私の心の中の声が聞こえたのかしら。自分一人で街道歩きの旅をしようと思っていたこと。まさか、そんなこと、ないよね。

日本橋には老舗であるお店があるけれど、まだ、朝10時にもなっていない時間には開店していない。橋の北西詰めにある日本国道路原票を写真に収めてから、良人と由美子夫婦は出発した。

日本国道路元票
日本国道路元票

※次の話:夫と一緒に歩く旅 歩き始めて準備不足に気付いた妻の反省<内部リンク>

ライター

東京都在住のおばさんです。子育てが落ち着いてきた頃より趣味で登山や街道歩き等を始めました。歩く旅は大変だというイメージがありますが、歩く事で解る楽しみもあります。実際に歩く旅をして、歩く旅の楽しさをお伝えしたいと思っています。

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