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日帰り旅 おばさん2人が1日20kmウォーキングにチャレンジする話 楽しんで歩ける理由とは?

わか子ライター

今晩は!元気にしている?何だか楽しそうなことをしているって聞いたわ。街歩きしているんでしょ?私も一緒に行きたいな。今度、連れて行ってね。

日曜日の夜、ライン着信音がなったので見てみると、ママ友の1人である由美子さんからだった。由美子さんとは、お互いの子どもが同じ小学校の野球部に入っていたころからの付き合いだけれど、子どもたちが大学生になった今では、正月にあいさつのラインをする程度の付き合いになっていた。また、一緒に飲もうねが決まり文句だけれど、今までに実現したことはない。今回もシレっと話を流せば実現する話ではないと思っていた。

私は、数年前から街道歩きをしている。街道歩きをしようと思った理由は、特にない。こじつけの理由を探すと、子どもたちが小さい頃に五街道の歌をうたっていたことがとても楽しそうだと思った事。これも、理由にならないか。江戸時代に整備された五街道。江戸時代の人々が歩いて旅をしていたのなら、今でも歩いて旅をすることは出来るはずと、安易に考えた。しかし、どう考えても江戸時代の人々と、交通機関が整備された今の世の中で生まれ育ったおばさんの私では、筋力も体力も、そして気力も違いすぎている。こんな私が歩いて旅を完結できるのだろうか。そう思ったことは覚えている。

由美子さんは、50代に入る少し前から、健康のためにとウォーキングを始め、毎日続けているという。目標は1日1万歩であり、公園に行くのが日課だそう。公園を歩くだけでは1万歩には届かないので、平日はどこに行くにも歩いて出かけるのが常であり、少し遠くのスーパーや、ATMに出かけて、1万歩を目指して頑張っていると誇らしげに語った。専業主婦なら時間があるだろうけれど、シングルマザーでありフルタイムで働いている私には、とてもそんな時間はない。由美子さんは明るくて話しやすい人だけれど、話をしていると疲れる時がある。

約束の時間を過ぎてしまいそうだと焦るけれど、地下鉄の駅から地上の出口まで続く階段にはたくさんの人が上っていて、自分が思うように速く上れない。しかし、人混みをかき分けるのも危ないと思いなおして、流れに沿そった。時計を見てみると8時58分、約束の9時にはギリギリで滑り込めそうだ。私は、学生の頃から、待ち合わせの時間に早く到着することがほとんどどない。少しの時間、早く待ち合わせの場所に着くようにしている人も多い世の中では、希少価値ああるほどの相手に迷惑をかけるタイプの人間かもしれない。少しだけ早く家を出ればよい事なのに、なぜかそれが出来ない。最近ではあきらめているし、おばさんになった今では人と関わることが極めて少ないので困ることは無くなっていた。

ようやく地下鉄の階段を登り切って出口に到着した。待ち合わせの場所は出口の隣にある本町街かど公園。東京都板橋区にある都営三田線の板橋本町駅A1出口にある。当然、由美子さんは先に到着しており、私を待ってくれていた。

都営三田線板橋本町駅 本町街かど公園
都営三田線板橋本町駅 本町街かど公園

由美子さんは、健康のために毎日歩いているというのがとても良くわかるスポーツウエアを着ていた。動きやすい服で良いよと伝えていたからであり、問題もないけれど、本日のコースは街中が中心でありちょっと目立つかもと思った。しかし、おばさん二人連れなんて誰も見ていないから大丈夫。バッグはリュックを背負っているし、靴もウォーキングシューズを履いている。靴の差し色であるピンクの蛍光色が鮮やかすぎて、それがおしゃれな由美子さんらしかった。

今日はどこまで歩くの?

そういえば、詳しい計画を伝えていないことに気が付いた。東京都板橋区を出発し、さいたま新都心を抜けるのがこの日のコースで、五街道の1つ中山道を歩く。この辺りの旧中山道は国道17号線が整備されている事もあり、道に迷う事はないだろう。時折、国道脇に残っている旧街道を歩けるのか少しは心配だけれど、見所がない場所では問題ない。そうそう、目的地を決めていない事を由美子さんに言わなきゃ。

今日は、ここを出発してさいたま新都心まで歩こうか。JRの宇都宮線と京浜東北線が通っているからゴールはどこの駅でも大丈夫だよ。頑張って長く歩くのであれば、大宮駅まで歩くと距離は20km程になるから、単純計算すると、時速3.5kmで歩くと約5時間になる予定よ。

頑張るわ!普段から歩きなれているという由美子さんは、驚きもせずに笑顔でそう言った。街道歩きをしていますと人に言うと、たいていの人は驚く。そして、1日に歩く距離を聞かれることが多い。いつもは1人で街道歩きをしているので、1日の歩く距離はもう少し長い。今までに1日で一番長く歩いたのは40.2kmであり、さすがに長かった。まさに、年寄りの冷や水と言う言葉がふさわしく、計画が無謀であったと今でも反省をしている。

おばさん2人は歩き始めた。この辺りの国道17号は片側3車線に整備されている主要道路であり、交通量も多い。歩道を歩いて約2km。最初の見どころに着いた。

ここは志村の一里塚。志村とはこの辺りの地名。一里塚は五街道を整備されたときに時間と距離の指標として造られた街道を挟む一対の塚であり、広葉樹が植えられている。全国各地の街道に一里塚は造られているけれど、現物が残っているのは貴重である。都内に残っているのは、ここ志村の一里塚と、北区にある日光街道、西ヶ原一里塚の2基のみである。

志村の一里塚 東京都板橋区
志村の一里塚 東京都板橋区

片側三車線で合計6車線もある広い道路を挟むように一対の志村の一里塚はある。ちょっと幅が広すぎない?由美子さんに話しかける。江戸時代の街道には車が走ることはないし、この辺りまでくれば江戸からも距離がある。こんなに広い幅が必要なのかな?。もしかすると、国道を片側三車線に整備した時に移動させている可能性があるかもね。由美子さんも軽くうなづいていていたけれど、詳しい説明は、板橋区のホームページに「志村の一里塚は動かなかった!」(外部リンク)と書かれているのを後で知った。もともと中山道より少し離れた位置に造られていたので道幅25mもある国道の工事でも移動したり、削ったりされることはなかったという。そして、私のように「少し移動した」と思われ、紹介本にも書かれたこともあるそうです。疑ってすみませんでした。

私は得意げに由美子さんに一里塚の説明をすると、由美子さんは関心をもって聞いてくれる。何事も知識がないよりは詳しい事がわかるほうが嬉しくなる。人間の知りたいという思いがあるからなのだろう。由美子さんも、街道歩きって地味でニッチだと思っていたけれど、意外に楽しい。お金もかからないで史跡を楽しんで勉強もできるし、結構、お得な楽しみかも。と言ってくれた。地味で、ニッチなのは間違いないけれどね。

志村の一里塚を過ぎると次の志村坂上交差点で、旧中山道は国道より脇道に入ると古い石碑がある。庚申塔と言われる江戸時代にはやった民間信仰の石碑であり、街道を歩いていると見かけることが多くある。先を歩いていた由美子さんが説明版を見つけて熱心に読んでいる。

左:道しるべ(1792年) 右:庚申塔(1860年)
左:道しるべ(1792年) 右:庚申塔(1860年)

ここから大山や富士山に行く道があったらしいよ。大山は神奈川にあるからかなり遠いよね。さらに先の富士山まで歩くなんて遠すぎる。私には無理だわ。

由美子さんが無理だというのも良くわかる。確かに、大山も遠いし、富士山まで歩くことを想像できない。向かって左側にある道しるべの石碑は1792年(寛政4年)であり、2023年の231年前であり、石碑の上部の凸凹が雨風で侵食されたように見える。右側の庚申塔の石碑は1860年の江戸末期に建てられている。

さらに進むと、いきなり下り坂になった。それもとても急な下り坂であり、関東平野にこんなに急な坂があってよいのか!私が突っ込みを入れると由美子さんは言った。この先に荒川があるからじゃないの?確かに、そうかも。そう話していると坂の説明版が建てられていた。この坂は清水坂といって、旧中山道の最初の難所である急坂とある。中山道で唯一富士山を右手に一望できる名所であったとあるが、今はマンションが立ち並んでいて富士山は見えることはない。

 清水坂 中山道最初の難所
 清水坂 中山道最初の難所

街道を歩くといろいろな史跡があるのね。結構、楽しいかも。由美子さんはそう言った。確かに、この辺りにはたくさんの見所があるけれど、この先はわからないけれどね。

日頃から運動をしている由美子さんは、さすがに慣れていてペースが速い。ここまでは約2.5kmもあるのに、40分程しかたっていない。時速約3.5kmには問題はないけれど、史跡を見たり説明版を読んだりして立ち止まる時間があるので、歩くペースは実際より速くなっているはず。ペース配分が大丈夫か心配でもあるけれど、ゴールはいつでも変更できる。

思いのほか、というか、思った以上に由美子さんが楽しそうなので私もうれしい。ニッチな趣味も結構楽しんでもらえるものだ。

ライター

東京都在住のおばさんです。子育てが落ち着いてきた頃より趣味で登山や街道歩き等を始めました。歩く旅は大変だというイメージがありますが、歩く事で解る楽しみもあります。実際に歩く旅をして、歩く旅の楽しさをお伝えしたいと思っています。

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