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簡素な中にも遊び心 洋風アーチが目を惹く白亜の鉄製簡易駅舎 山陰本線 西浜田駅(島根県浜田市)

清水要鉄道・旅行ライター
西浜田駅

 島根県西部、石見地方の中心都市で、浜田藩の城下町として栄えた浜田市。その中心部の西にある長浜地区は古くから港町として栄えてきたところだ。長浜地区の中心にある駅はかつて「石見長浜」を名乗っていたが、合併で浜田市となってから「西浜田」に改称されている。そんな西浜田駅では去年12月から今年4月にかけて駅舎の建て替えが行われた。この記事では、先日山陰を訪れた際に見てきた西浜田駅の新駅舎を紹介しよう。

駅舎正面
駅舎正面

 西浜田駅の新駅舎は今年4月完成。小さな無人駅ゆえに完成記念式典などは行われず、4月13日時点で使用開始となっていたようだ。大正11(1922)年3月10日開業時から使用されてきた初代の木造駅舎に替わる2代目駅舎で、面積としては旧駅舎よりもかなり小さくなっている。

駅舎内部
駅舎内部

 駅舎は鉄製で、アーチの開口部が洋風建築の回廊を連想させる。4面にアーチの開口部がある鉄製ブロックを4つ組み合わせた形状で、壁となる部分は固定されて塞がれている。リベットがゴツゴツと突き出した壁は、一畑電車デハ二50のような戦前の電車のようだ。

ホーム側から見た駅舎
ホーム側から見た駅舎

 洋風アーチのデザインといい、切り抜き文字のアルファベットの駅名といい、簡素ながらも設計者の遊び心が感じられる駅舎だ。イメージコンセプトは公表されていないが、海の近くの駅ということでギリシャ風かアメリカ西海岸風にでもしたのではないかと勝手に想像してみる。

 ただし、駅舎の機能面に関していえば手放しで褒めることができるものではないのも事実である。比延駅本黒田駅のようにバス停のような待合所にならなかっただけマシとはいえ、開口部が大きい分、悪天候の日には風雨を十分に防ぎきれないであろう。山陰の中では比較的温暖な浜田市とはいえ、旧駅舎のように締め切って密閉できる構造の方がよかったのではないだろうか。同じ島根県内の簡易駅舎でも一年早く建て替えられた江南駅と比べて見劣りする感じがあるのは否めない。

 江南駅の場合は駅の在り方についてJRと出雲市が協議した結果、市が出資して駅舎を建設した事例だが、近年は自治体の出資の有無で新駅舎がしっかりした造りのものになるかが決まると言っても過言ではない状況である。

長浜まちづくりセンター
長浜まちづくりセンター

 西浜田駅の場合、せっかく駅前に長浜まちづくりセンターがあるのだから、その一部を改修して待合室を併設する形も取れたのではないかという気がする。公民館併設の合築駅舎は全国的に見ても事例が多く、閉館時間帯の扱いをどうするのかという課題はあるものの、無人駅ゆえの防犯面の課題を解決できるというメリットもある。

ホーム
ホーム

 建て替え以前と比べると、駅舎だけでなくホームの印象も随分と変わった。2番ホーム上にあった待合室と上屋は2月に撤去されている。山陰本線を取り巻く状況が厳しさを増す中、少しでも維持費を削減するのが狙いなのだろうが、こうした取り組みは、一線スルー化でどの方向の列車もなるべく1番線側に発着するようにするのとセットにしなければ利用者への負担が大きいのではないだろうか。

塗り直された跨線橋
塗り直された跨線橋

 9月上旬に筆者が訪問した際、跨線橋は塗り直されたばかりだった。おそらく昭和50年代に造られたと思われるものだが、改装によって新築同然の姿に生まれ変わっている。近年はバリアフリー化や維持費削減の面から撤去される駅も増えている跨線橋だが、西浜田駅ではこれからも長きに渡って使われていくのであろう。

 お洒落な雰囲気ではあるものの、駅舎の機能面としては課題も多い西浜田駅の新駅舎。周辺駅にも波及するのかは不明だが、構造から見て似たような駅舎が量産される未来もありえそうだ。四国で増え続ける銀の箱駅舎にも言えることだが、地域の玄関口である駅舎が簡素なものになるのを防ぐには、自治体や地域住民が「駅のあるべき姿」について普段から自分事として考え、鉄道会社任せにしないのが大切だろう。

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鉄道・旅行ライター

駅に降りることが好きな「降り鉄」で、全駅訪問目指して全国の駅を巡る日々。

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