「じゃない方」の、浦安。まもなく消える築90年の木造駅舎 山陰本線 浦安駅(鳥取県東伯郡琴浦町)
「浦安」、この地名を聞いて多くの人が思い浮かべるのはディズニーランドのある千葉県浦安市だろう。「じゃない方」の浦安駅こと鳥取県東伯郡琴浦町の浦安駅を千葉県の浦安駅よりも先に思い浮かべるのは鳥取に縁のある人を除けばあまりいないはずだ。そんな鳥取の浦安駅だが、駅舎の改築によってその姿を大きく変えることが予定されている。
浦安駅は明治36(1903)年8月28日、御来屋から伸びてきた官設鉄道の終点「八橋(やばせ)」駅として開業、実に120年もの長い歴史を持っている。昭和13(1938)年8月20日、西隣の八橋浜仮停車場が臨時駅から一般駅に昇格する際に「八橋」の駅名を譲って「東八橋(ひがしやばせ)」に改称された。「浦安」に再改称されたのは昭和24(1949)年12月15日のことで、現在の琴浦町の中心にあたる東伯郡浦安町の玄関口ということを強調するための改称だろう。駅舎は昭和9(1934)年に建てられたもので、今年で築90年と年季が入っている。
浦安駅は令和2(2020)年3月14日に無人化されるまでは窓口が設置されていた。東伯郡琴浦町の玄関口だけあって周辺駅と比べると利用者が多く、コロナ禍以前の一日平均乗車人員は700人台であった。令和4(2022)年度の一日平均乗降人員は526人。
ホームは相対式2面2線で、上下列車とも行き違いのない場合は駅舎側の1番線に停車する。かつては3番線や側線もあって構内は広かったが、現在は撤去されて一部が駐車場となっている。琴浦町役場などの公共施設の多くは駅裏にあり、駅の外の自由通路で結ばれているが、利用者にとっては遠回りを強いられるためあまり便利とは言えない。
琴浦町企画政策課が公表した資料によれば浦安駅の駅舎・ホーム屋根・跨線橋・待合室・トイレは老朽化が著しく、JRが駅設備簡素化の一環として撤去を計画しているそうだ。琴浦町では駅舎を譲り受けて活用することも考えたが、費用面から困難であるとして断念している。駅舎の活用の代わりに琴浦町が計画しているのが南口の設置と待合室の整備で、町民の意見を募ったうえで早ければ7月にも工事が始まる。10月より駅舎・跨線橋などの既存設備の撤去を行い、仮駅舎での営業期間を経て令和8(2026)年1月に新駅舎の供用開始をめざすとのことだ。
平成25(2013)年にはアニメ『琴浦さん』に登場し、平成27(2015)年10月には千葉県の浦安駅とコラボした自虐ポスター「『じゃない方』の、浦安。」が作成されて話題になった浦安駅。八橋駅時代以来90年に渡って風雪に耐えてきた駅舎も改築工事に伴い、早ければ半年ほどで見納めとなることだろう。
(追記:9月21日)
琴浦町の公表したスケジュールによれば、10月よりホーム上屋、ホーム待合室、トイレを撤去し、令和7(2025)年1月に南改札口を設置して跨線橋を撤去、4月に仮駅舎を設置して現駅舎を撤去、令和8(2026)年1月より新駅舎を供用開始とのことだ。
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