住民の声を受け簡素化の方針が変更された木造駅舎 徳島線 阿波加茂駅(徳島県三好郡東みよし町)
近年、古い木造駅舎が解体されて「銀の箱」のような簡易駅舎へ建て替えられる事例が増えている四国。建て替えられた駅は以前の駅舎よりも規模が小さくなっており、通学利用の多い牟岐線 中田駅などでは駅舎内に利用者を収容しきれないという問題も起きている。一方でそんな駅舎の「簡素化」が住民の声を受けて変更された駅もある。東みよし町にある徳島線 阿波加茂駅だ。
阿波加茂駅は三好郡東みよし町の玄関口で、無人駅ながら特急「剣山」も停車する駅だ。駅周辺は合併以前の旧:三好郡三加茂町の中心にあたり、小規模ながら商店街も形成されている。
開業は大正3(1914)年3月25日。駅舎は開業時のもので築110年、分割民営化後に大きく改装されて洋風の三角屋根の外観になっている。
阿波加茂駅は平成22(2010)年10月1日に無人化。その後、町がJRから駅舎の大部分を借り受け改装。平成24(2012)年4月7日に「加茂ふれあい館さくらひろば」がオープンした。これは地元活性化に駅舎を活用したいとの地元商工業者の声を受けたもので、駅や商店街の利用者が駅舎内を休憩などに利用できるほか、町の臨時職員が情報発信や商店街の案内を行っていた。7月2日からは簡易委託で乗車券の販売も開始されたものの、こちらは数年で休止となり、今年に入ってから再び無人化されている。
そんな駅舎の建て替え計画がJRから東みよし町に伝えられたのは令和4(2022)年1月のことで、JRからは他の駅のように簡素化する案と、町が駅舎の無償譲渡を受ける案が提案された。無償譲渡を受けて駅舎の管理を町で行っていくことを選んだ自治体としては高知県高岡郡佐川町と高岡郡日高村があり、佐川町では西佐川駅と斗賀野駅、日高村では日下駅が譲渡の上で改修されて活用されている。
この際、東みよし町は駅管理費によるコスト増を厭って無償譲渡を受けない方針を示したが、それに待ったをかけたのが地元住民らだった。「さくらひろば」を通して駅の活性化を行ってきた分、駅舎に対する愛着もひとしおだったのだろう。
「住民の意見を聴くこと」「無償譲渡を受けることを前向きに検討すること」「住民の集まる場所として駅舎を活用する方法を検討すること」の3点を求めて846人分の反対署名を町に提出した。
こうした動きを受け、町もJRと協議。老朽化等により現駅舎の維持は難しいと判断されたものの、島根県出雲市の荘原駅(山陰本線)の事例を参考に、町によって駅舎の建て替えが行われることとなった。JRの費用負担で現駅舎を解体撤去し、町が約1600万円かけて跡地に新駅舎を建設する。新駅舎は木造平屋約45平方メートルで、トイレと交流スペースを併設したものとなる予定だ。
現駅舎の維持とはならなかったものの、簡易駅舎ではなく交流スペース併設駅舎に建て替えられることになった阿波加茂駅。7月1日からは工事も始まっており、まもなく仮駅舎に移行して今の三角屋根の駅舎も見納めとなる。新駅舎も現駅舎の「さくらひろば」同様に住民の交流の場となることを願うばかりだ。
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