「ホノルベツト」を追え! 大正時代の料理書に登場する謎料理の正体を探る旅
前回「90年前の良レシピの講述者は97年前に出版された600のロジカルレシピが載録された料理書の著者だった」という記事をUPしたところ、肉焼き&料理Geek仲間である@Inuroさんが楽しくあれこれTweetしてくださり、場の盛り上げに一役買ってくださいました。
https://twitter.com/inuro/status/1410991981468164099?s=20
「美味しく廉く手軽に出来る日本支那西洋家庭料理」を「面白すぎて時間泥棒」だと評してくださった@Inuroさんはもともと古典レシピをさらうのがお好きなだけあって、さすがの読み込み力(勉強になる!)。ところが困ったことに次回(つまり本エントリ)で深堀りしていこうと思ったら、先に連続Tweetで深堀りされてしまった(笑)。
@Inuro先生の着目ポイントは
1.レシピ数と料理カテゴリーの範囲の広さ
2.食材のバリエーションの豊富さ
3.外来語の表記が原語のイントネーションに近い
4.食材のと畜と保存方法
5.現代と価値が違う食材の数々
まず特筆すべきは、1.の「レシピ数と料理カテゴリーの範囲の広さ」である。「美味しく廉く手軽に出来る日本支那西洋家庭料理」は、現代に続く、和食、中華、洋食という日本の3大料理を網羅しながら、なんと610(!)という驚異的な数のレシピが載録されている。しかもいずれも精度が異様に高いレシピばかり。
いまよりも遥かに情報を手に入れるのが難しく、試作にも時間がかかったであろう大正時代(しかも関東大震災が起きた翌年の大正13年に初版を出版)の本とは思えない。
カテゴリーごとのレシピ数、及び小分類、代表的なメニューは以下の通り。
和食294(御飯、汁もの、刺身、焼もの、煮もの、揚もの、酢のもの及び和えもの、蒸しもの、季節野菜料理、鍋料理、漬もの)
中華37(叉焼、芙蓉蟹、紅焼鯉魚、伊府麺、焼売、五色蛋炒飯ほか)
洋食239(ドレッシング、ソース、スープ、魚類の料理、肉の料理、卵料理、サラド、野菜料理)
和菓子19(御手洗、饅頭、羊羹、柏餅など)
洋菓子21(カスタード・プディング、ピーチ・ヂエリー、アイス・クリーム、バタ・ケーキ、ドウナッツなど)
圧倒的に多いのが日常的に誰もが親しんでいた和食と、明治の文明開化で「和魂洋才」(※)を旗印に導入された洋食だ。この2ジャンルで全体の8割を超える533のレシピが紹介されている。中華料理も明治期から紹介されてきたが、国策としての食の西欧化もあり、洋食の躍進ぶりが目立つ。菓子に至っては、和菓子よりも洋菓子のほうが多いほどだ。
※日本古来の精神を大切にしつつ、西洋からの優れた学問・知識・技術などを摂取・活用し、両者を調和・発展させていくという意味。「和魂漢才」をもとに作られた用語)
@Inuroさんから寄せられた質問への回答
さてまずは項目をひとつ紹介したところで、@Inuroさんからの質問に答えていきたい。上記Tweetに「書くことなくなりそうw」とリプライしたところ、返す刀で宿題もいただいたのだった。
https://twitter.com/inuro/status/1411077619601133571
「ぜひ「ほのるべっと」の謎解きをお願いします。」というボールが飛んできた。明治期の料理関連の資料にはときどきわからない言葉が出てくる。いまでは使われない古い言葉だったり、まだ定着していない外来語だったり。
恐らくはまだ定着していない外来語だろうが、これには気づいていなかった。打ち返すべくメラメラと闘志は湧くものの、いかんせん「ほのるべっと」という言葉に心当たりがない。確かに当該ページには「ホノルベツト」と書かれている。見る限り「ツ」は大文字表記だが、実際のところ発音が大文字か小文字(促音)かは判然としない。
レシピ自体はドイツの伝統料理、「ロラーデン」によく似ている。しかし「ホノルベツト」をどう聞き間違えても「ロラーデン」にはなるまい。いきなり行き詰まってしまった。だいたい「ホノル」に聞こえる単語ってなんだ。
もう一度目次を見直してみる。我が目を疑った。そこには「ホノルベツト」なんて文字はないではないか。
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